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 この連載では、途上国の抱えるさまざまな問題について、専門家にご意見をうかがいながら、読者の皆さんに、日本ができる貢献のあり方について、具体的なお話をお伝えしてきました。私自身、アフリカのスーダンとウガンダに足を運び、数多くの日本人が紛争地帯の復興支援に従事し、また新しい国づくりのお手伝いをしていることを目の当たりにし、途上国の問題を解決することが日本を含む世界の平和につながることを実感しました。
 最終回では、JICAの理事長を務められる緒方貞子さんに、今、そしてこれから日本が世界の途上国に対して、どんな国際協力ができるのか、国際協力を通して、日本という国と日本人が得られることは何かについて、お尋ねします。

緒方貞子 氏 国際協力機構(JICA)理事長

1963年カリフォルニア大学バークレー校にて政治学博士号取得。1991-2000年、第8代国連難民高等弁務官。2001年以降、人間の安全保障委員会共同議長、アフガニスタン復興支援総理特別代表、国連有識者ハイレベル委員会委員を務める。2003年より国際協力機構(JICA)理事長、人間の安全保障諮問委員会議長。

難民支援と国際協力の仕事をどうつなぐのか 途上国の現場では時として「越権行為」が必要となる

池上緒方さんはかつて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で、難民を救うお仕事をされていました。今、理事長を務められているJICAは、救った後の人々の生活をどう改善していくかという問題に取り組んでいる組織です。そう考えると、途上国支援に対する緒方さんの仕事は一貫してつながっていますね。

緒方おっしゃる通りです。途上国支援の世界において、私が行ってきたUNCHRの仕事とJICAの仕事は、それぞれの役割を果たしながら、つながっています。
 ただし、二つの仕事を本当につなぐには、あるいは現地の人たちを救うには、時として自分の職域を飛び越えなければならないときもあります。1994年のルワンダ大虐殺を機に、隣国のタンザニアやザイールに避難した60万人のルワンダ難民が、2年後の1996年に母国に戻ったときの仕事がそうでした。

池上何をされたのですか?

緒方当時私がいたUNHCRは、争乱から逃れて国外に避難してきた難民を保護し、母国に帰還して定住させるまでが仕事でした。そこで帰還した後の60万人のルワンダ難民の生活については、開発援助を行っている国際機関に支援をお願いしました。けれどもなかなか援助してもらえない。

池上なぜでしょう?

緒方ルワンダ政府そのものが混乱のさなかにあり、海外からの援助を受けられる体制が整っていなかったからです。でも、困難に直面した目の前の人々を放っておくわけにはいきません。そこでUNHCRでは、直接援助活動を続けました。

池上国際援助の世界での反応はいかがでしたか?

緒方予想されたことではありましたが、越権行為ではないかという指摘を他の国際機関から受けました。たしかに、難民が帰還した後の援助はUNHCRの本来の役割ではありません。でも、批判は覚悟の上でした。それでもやらなければいけない事態だったからです。

池上なるほど。緒方さんの場合、時には職務の範囲を超えてまで活動されていたときに経験されたことが、2003年にJICAへ移られてから現在までの国際協力のお仕事に生かされていらっしゃるように思います。

緒方そうですね。国際機関同士の役割分担と業務のバトンタッチの大切さには、とても自覚的になりました。UNHCRの領域の仕事からJICAの領域の仕事へのバトンタッチもでき得る限り早くし、空白期間が生まれないようにと配慮してきました。実際、空白期間はだいぶ短くなってきたと感じています。国際協力の現場に出て行く際のJICAの機動力も相当上がって来たと思います。

ますます重要なインフラの支援 JICAの力はインフラ作りのお手伝い力にある

池上今回の連載を通じて痛感したのは、途上国の自立的発展に一番欠かせないのが、さまざまな分野でのインフラの整備である、ということです。緒方さんはどう思われますか?

緒方インフラの整備は、途上国の自立的な発展を基礎づける重要な仕事です。インフラ整備は、実は日本の国際協力のお家芸。JICAをはじめ日本の国際協力は、インフラづくりに注力して仕事をしてきました。各国の国際機関を眺めてみても、インフラの整備を一括して提供できる組織はそうはありません。資金面での援助は世界銀行などが行ってきましたが、実際に自らの手を使って、インフラ作りのお手伝いをする、という援助機関はJICAを除くと世界でも珍しいのです。

池上たしかにスーダンやウガンダの現地を取材して、日本が提供した各種インフラ、たとえば病院施設などが何十年も機能しているのにびっくりしました。では、今の国際援助の課題はどこにあると思いますか。

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緒方援助をする側はとかく援助の額に目が向きがちです。もちろん金額も重要ですが、さらに大切なのは、その金額で援助がどういった「成果」を生み出すか、です。国際協力の世界でも、以前に比べると「成果」を重視する傾向が強まってはきていますが、まだまだ足りないと感じています。ですから、JICAではより具体的に「成果」を出すことに注力していきたいと思っています。

池上「金額」は一目でわかりますが、「成果」となると、何をもって成果とするか、判断がなかなか難しいですね。

緒方国際協力の成果を花にたとえると、花の咲き方はそれぞれの国、また、社会の構成によって異なります。ですから、相手国の特徴に配慮しながらの援助が必要です。もちろん、援助する側が、援助される側のニーズすべてをかなえることはできませんから、援助する側とされる側の間で共通点を見い出すことが、これからの国際貢献への第一歩ではないかと思います。

池上欧米型の、先進国主導で資金をひたすらつぎ込むという支援の方法は、援助される側の背景を無視していた、ということでしょうか?

緒方いえいえ、必ずしもそうではないと思います。ただし、ヨーロッパの場合、援助する国の中にはかつての植民地だったところが少なくありません。植民地支配で作り上げたモノカルチュア構造を前提とした支援には、ある種の偏りがあったかも知れません。

池上日本の場合はどうでしょうか。

緒方アフリカに関してはもともと歴史的な関係が濃くないために、かえってオープンなかたちで国際協力を行えたのではないかと思っております。

池上ただ、その一方で、不況にあえぐ日本においては、「あまり関係のないアフリカの支援をするのもいいけれど、まずは国内の経済問題を解決する方が先じゃないか? アフリカを支援するお金なんかないんじゃないか?」という声も聞こえてきます。

緒方アフリカが抱えている問題を目の当たりにしたら、そのようなことはとても言えません。たしかに最近は不景気ですが、日本はれっきとした経済大国です。そのうえで「どうして支援するのか」という疑問がある向きには、こうお答えします。「今の世界も日本も、グローバル化を避けては通れないのです」と。

池上グローバル化。それはどういう意味ですか。

緒方グローバル化によって、企業や市民社会が国籍を超えた存在となって世界を繋いでいます。そのような中で、今まで富んでいた国だけが繁栄を誇るのはおかしいと思うのです。貿易問題一つをとっても、あらゆる国が他のさまざまな国の影響を大きく受けます。先進国から途上国への援助について、私たちはつい「貢献」という言葉を無意識に使い、一方向に施しを与えていると思いがちです。でも、グローバル化の視点に立ってみると、その考えはおごりにすぎません。世界はすでに相互に依存し、共存しているのです。だから「貢献」ではなくて「協力」、なんですよ。

池上国際貢献ではなく、国際協力、というわけですね。たしかにJICAでは、以前からそう表現されています。

緒方そうです。先進国日本も、他の国に頼らなければ生きていけないでしょう。もちろんあらゆる先進国がそうなのです。これまで日本は主に、アジアとの共存共栄を考えてきましたが、共存共栄の範囲は世界的に広がっています。それが「グローバル化」なのです。

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