
国際協力の分野では、開発途上国の女性の地位向上に着目した「開発と女性(Women in Development/WID※1)」というアプローチに加え、「ジェンダーと開発(Gender and Development/GAD)」というアプローチが、1980年代以降、重視されるようになりました。
GADは、男女それぞれの開発の課題やニーズの違いを把握します。そのうえで、男女間の格差の是正のために、男女の社会的関係の改善を目指します。GADは、女性だけに注目するのではなく、男性の役割にも注目し、男女双方のエンパワーメント※2を目指しています。これは、開発が女性に便宜をもたらさない要因として、社会のジェンダー関係に注目していることが特徴です。そして、GADアプローチを定着させる方法として、1995年の第4回世界女性会議(北京会議)※3以降、「ジェンダー主流化」が国際社会で重視されるようになりました。
ジェンダー主流化とは、すべての政策や事業の計画・立案、意思決定の段階にジェンダー平等の視点を組み込むことであり、男女双方にとって有意義な開発を実現するための包括的な取り組みです。
2000年に開催された国連ミレニアム・サミット※4では、「ミレニアム宣言」が採択され、ミレニアム開発目標(MDGs)の一つに、「ジェンダー平等の推進と女性のエンパワーメント」が掲げられました。また、他のミレニアム目標達成のためにもジェンダーが密接に関係していることが認識されています。
JICAの事業は開発途上国の人々と密接な関係にあります。現在、世界の人口は約66億1千500万人※5ですが、そのうち約80%の人々が開発途上国に住んでいます。
開発途上国の人々を取り巻く状況は大きく変化しています。経済や政治のグローバル化が進む中で、開発途上国の女性に雇用や能力向上の機会を提供しました。これにより、1990年代には社会、経済、政治面でジェンダー格差は大きく改善されてきました。
例えば、国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書」から女性またはジェンダーに関連する教育、保健、経済活動についてのいくつかの指標を比較してみると、過去10年間で一定の進展が見てとれます。(表1参照)
| 比較可能な指標 | 1994年 | 2004年 | 2007年 |
|---|---|---|---|
| 女性の成人識字率(15歳以上の割合:%) | 67% | 75.9% | 77% |
| 男性の識字率に対する女性識字率の割合(%) | 71% | 88% | 88 |
| 合計特殊出生率※6(女性1人あたり) | 3.8 | 2.9 | 2.56 |
| 避妊普及率(%) | 53% | 61% | 61% |
| 女性の平均余命(歳) | 64.5 | 65.1 | 68.6 |
| 女性の経済活動比率(%) | 35% | 55.8% | 49.1% |
初等・中等教育における男子に対する女子の比率でも進展が見られました。例えば、この課題に最優先で対応することが求められている10カ国(いずれもサハラ以南のアフリカ地域の国々)の指標では、その平均値は初等教育で68%(1994年報告)から78.6%(2004年報告)へ、中等教育で40.9%から62%へと改善されています。
また、多くの国で、女性の地位向上のために総合的な施策を進めるための機構として「ナショナル・マシーナリー※7」が設置されるなど、組織体制での進展も見られました。更にこれまでに26カ国が新たに女子差別撤廃条約を批准し、180以上の国がこれに向けて取り組むことになっています。
他方で、貧困の女性化※8、HIV/AIDSの蔓延、人身取引(トラフィッキング)、女性に対する暴力などが女性に対する課題として認識を新たにされるようになりました。地震、津波や洪水などの大規模な自然災害や環境問題等もとりわけ女性や子どもに深刻な影響を及ぼす地球的規模の課題として対応が求められるようになっています。
※1 女性を重要な開発の担い手であると認識し、開発のすべての段階に女性が積極的に参加できるように配慮していこうという考え。
※2 社会の中で自らの潜在能力を十分に発揮し、自分の望む人生を送ることができる能力あるいはそのような能力を身につける過程。
※3 1995年に北京で開催されたこの会議では、ナイロビ将来戦略の評価と見直しを行い、21世紀に向けての指針となる行動綱領を採択した。
※4 2000年9月にニューヨークにて国連ミレニアム総会とともに開催され、それまでに合意された国際的な開発目標を踏まえてミレニアム開発目標(MDGs)が採択された。
※5 出典2007年世界人口白書、UNFPA
※6 女性の年齢別出生率を合計したもの。女性一人当たりの平均子ども数を表す。
※7 日本の場合、ナショナルマシーナリーは総理大臣を本部長、官房長官・女性問題担当大臣を副本部長、全閣僚を本部員とする「男女共同参画推進本部」である。
※8 貧困層に占める女性比率が年々高まっていること。
国連エイズ合同計画によれば、HIV感染の最も多いサブ・サハラアフリカでは女性は男性の1.3倍HIVに感染しやすく、15歳から24歳の若年層では3倍も女性が感染しやすい状況にある。
この背景にはジェンダー不平等があると言われている。女性が性について話すことを快く思わない社会では、正しい知識・情報へのアクセスが限られる。女性の移動の自由が制限されたり、女性が自分で管理できる収入が不十分で病院等までの交通費や治療費がない、コミュニティから孤立する恐れを感じるという理由で、治療やカウンセリングを受けにくいこともある。また男性に対してコンドームの使用を交渉することが難しいことや、性暴力による感染もある。さらに患者のケアを女性が担うことが多いため、女性が収入を得る仕事をする時間が減るという影響も指摘されている。女性と女児に対して男性と異なる対応の必要が認識されている。