所長あいさつ

2022年9月にJICAバングラデシュ事務所長としてダッカに着任いたしました。2022年は日本とバングラデシュとの国交樹立50周年という記念すべき年にあたります。50年間のバングラデシュの発展に関わってきた数多くの方々の思いを胸に、この国の輝く未来と日本とバングラデシュとの友好関係のさらなる深化のため、より良い協力を実現していく所存です。

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バングラデシュについて

皆さんはバングラデシュについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。

貧困、飢餓、サイクロン被害、洪水といったイメージを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、この国は今、大きく変貌を遂げつつあります。

苦しい独立戦争を経て1971年に独立した当時のバングラデシュの一人当たりの国民所得は100ドル強にすぎず、世界の中で最も貧しい国の一つでした。その後の目覚ましい発展により、2011年以降、(コロナ禍であった2020年を除き)毎年の経済成長率はずっと6%を超えており、2021年には一人当たりの国民所得が2,620ドルに達しました。2026年には最貧国(LDC:Least-Developed Countries)から卒業予定です。貧困率は2000年の48.9%から2019年には20.5%とこの20年間で半減以下になり、社会開発の指標(初等教育の就学率、ジェンダー平等、乳幼児死亡率など)も大きく改善しました。独立戦争と貧困で荒廃した国にとって、独立後の50年間はとてつもなく長く大変な道のりだったと思いますが、バングラデシュの着実な発展の歩みは、世界的に見ても大きな成功と言えるものです。

インドとミャンマーに接しているバングラデシュは、南アジアと東南アジアとを結ぶ結節点となる国であり、100万人を超えるミャンマーからのロヒンギャ避難民を寛大にも受けいれています。人口約1億6,500万人という有数の人口大国であり、経済規模はベトナムよりも大きく、国の信用格付はベトナムやブラジルと同程度です。主要輸出産業であるアパレル(縫製業)は、輸出額が世界第2位です。アパレルに加えて、製薬、バイク製造、建設などでも本邦企業の進出が続き、その数は現在300以上となっています。都市圏人口2,000万人を超える世界有数の大都市である首都ダッカでは、活気あふれる街の中で、JICAが協力する都市鉄道(MRT)は2022年12月に一部完工し、まもなく同国初の地下鉄建設も始まります。また、2024年には同国の玄関口であるハズラット・シャージャラール国際空港の第三ターミナル(JICAも協力)が開業予定です。バングラデシュはさらなる発展段階に向けて飛び立たんとしているところです。

JICAによるバングラデシュとの協力

JICAのバングラデシュとの長年にわたる良好な関係は、1973年のボランティア3名の派遣に遡ります。その後、JICAは、技術協力、円借款(超長期・低利の融資)、無償資金協力、ボランティア事業(JICA海外協力隊)、NGOとの連携等を通じて、多くの分野と地域で協力を行ってきました。円借款では、電力、運輸分野での大型のインフラ整備や、防災、地方・農村開発など幅広い分野を対象に、累計で2兆7千億円を超える金額を供与してきており、近年はJICAにとって世界で2番目に大きい円借款供与相手国となっています。技術協力では、ほとんどの分野を対象に、累計で約5,100人の専門家を派遣し、また14,000人以上を対象に研修を行い、人材育成や制度整備を行ってきています。JICA海外協力隊で派遣されたボランティアは累計で1,284人にのぼり、さまざまな分野で活躍してきました。民間企業との連携については、円借款における本邦企業の受注に加えて、民間企業を対象としたJICAの「海外投融資」や「中小企業・SDGsビジネス支援事業」での支援件数も増えています。

バングラデシュ人は穏やかで情に厚い方が多く、何よりも親日的です。バングラデシュの人々は、独立から間もない1972年2月に、日本が多くの国に先駆けて同国を承認し、両国間の深い友好関係が始まったことをよく私たちに話してくれます。また、日本は、長くバングラデシュにおける最大の二国間協力国であり、その協力は、当地の人々から大変高く評価されています。

最後に

新型コロナウイルス、不安定化する国際情勢、気候変動といった複合的なリスクが存在する世界において、バングラデシュも持続的な発展のために多くの課題(産業多角化、インフラ整備、脆弱な人々への支援強化、財政改革、気候変動対応等)を抱えています。私たちJICAバングラデシュ事務所は、これまでの長い協力を礎として築かれた信頼を活かし、バングラデシュと日本を結ぶ懸け橋として、当国の持続的発展と人々の生活向上のために現場でしっかり協力してまいります。

ダッカ都市交通開発の計画作りに従事していたJICA関係者の日本人7名の方が、2016年7月テロの犠牲となりました。私たちはこの悲しい事件を決して忘れません。当地の発展に関わってきた数多くの方々の思いを胸に、この国の輝く未来と日本とバングラデシュとの友好関係のさらなる深化のため、より良い協力を実現していく所存です。ぜひご協力をいただければ幸いです。

2022年10月
JICAバングラデシュ事務所長
市口 知英