ブータンにおける農業協力

日本によるブータンへの支援において、代表的なものは「農業/農村開発」のための支援です。約50年前から始められたわが国の農業協力について、ご紹介します。

故・西岡京治専門家による農業指導

1964年5月、海外技術協力事業団(OTCA・現在のJICA)を経て、故・西岡京治専門家がブータンに派遣されました。西岡専門家の派遣が、ブータンにおける日本の協力の起点になりました。

保守的なお国柄もあり、到着当初は「日本という島国の農業技術が、ブータンの農業の何に役に立つというのか」と言われる等、決して厚遇される環境とは言えませんでした。しかし、西岡専門家は農業試験場の必要性を説き、多種の野菜や穀物を試験栽培し、ブータン人の若い世代に新しい農業知識を伝えることを最優先に考えていました。西岡専門家は様々なパロで野菜と米を栽培し、初年度にもかかわらず、野菜の栽培は大きな成功を収めました。特に、ブータンの人々は、ブータンのダイコン「ラフ」と日本の「大根」を比べ、その大きさに驚いたといいます。

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西岡専門家が焦点を当てたのは農業の普及活動であり、現代的な農業手法を導入するために、農民たちを支援し、鼓舞し、指導しました。農業普及員とともにパロの農家を訪れ、新しい農業器具や肥料、そして品種改良されたキャベツ、トマト、大根等の種を紹介・指導していきました。

一方で、ブータン政府や地域のリーダーたちは、西岡専門家の献身的な姿勢を目の当たりにしていました。また西岡専門家ご自身も、試験場を単なる技術移転の場所にするだけでなく、こつこつと熱心に働く姿勢を身に着け、そうした姿勢こそが、より多くの見返りを得られることを学ぶための場とすることも考えていました。

パロでの成功を受け、ブータン政府から南部シェムガン県・パンバンの開発にも携わることになった西岡専門家。長年にわたる農業開発における功績が認められ、1980年には「最高に優れた人」という意味を持つダショーの称号と、その象徴である赤いスカーフが、国王陛下から授与されました。

農業の機械化

西岡専門家が活動されていた頃から、農民たちは「人手不足」という大きな問題を抱えていました。ブータン政府他関係者は、こうした大変な農作業を機械化することで、この問題を解決しようとしました。

ブータンにおける農業機械化を促進するため、1981年、わが国はパロのボンデ農場を対象に、農業用機械、かんがい土木用機械、種子生産農場用機械、訓練普及用機械、修理工場用機械の供与を、無償資金協力により実施しました。また1984年からは、無償資金協力により、耕耘機等を供与してきました。

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供与された耕耘機は農民たちの手に渡り、農作業の効率化や農作物の流通のため、大変重宝されました。中にはこの耕耘機を手に入れてから、25年以上もの長きにわたり、愛用している農家の方もいらっしゃいます。

また、これら農業機械がより効率的に使用され、かつ適切に維持管理され、長く活用できることを目的として、2008年から技術協力プロジェクト「農業機械化強化プロジェクト」を実施し、今後も2014年後半から技術協力プロジェクト「農業機械化システム適正化プロジェクト」を実施予定です。

換金作物の研究開発・普及

ブータンでは、急峻な地形により耕作地および作目が限定され、また道路や市場などのインフラが未整備で、販売を主眼とした商業的農業は未発達です。特に東部地域では自給自足的な農業が営まれており、首都・ティンプーやパロがある西部地域に比べ相対的に開発が遅れています。そうした中、ブータンの農業省は農家の収入向上の手段の一つとして、果樹や野菜などを換金作物として商業的農業の振興を重要課題として位置付けています。しかし、まだブータンの地理的・地形的条件に適した栽培法の普及や商業化が進んでいません。

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このような状況の中、地方農村部における貧困削減のため、高地(600〜2000m)に適した多様な農産品種の開発・栽培・普及により、自給自足の生産から生産作物の現金化を図ることを目的として、2004年から技術協力プロジェクト「東部2県生産技術開発・普及支援計画プロジェクト」が実施されました。その結果、東部2県に適した果樹、高地野菜の園芸技術開発が進み、その可能性が明らかとなりました。

この成果を東部の他県にスケールアップして実証し、園芸作物の振興と魅力ある農村作りを図るため、2010年より技術協力プロジェクト「園芸作物の研究開発・普及支援プロジェクト」が実施されています。

農業用地の効率的利用

ブータンにおいて農業は総人口の59%が従事する基幹産業ですが、国土の大半を山岳地域が占め、一戸当たりの農地も狭隘であるため農業生産性が低く、コメの自給率は50%以下に留まっています(2011年時点)。ブータン政府は2013 年までにコメの自給率を65%に上げることを目標としていますが、そのためには効率的な農作業の実現、土地生産性の向上が不可欠です。限られた平地を効率的に使用して生産性を上げるため、灌漑システム等の導入により、耕作可能な農業用地を拡大し、農閑期の耕作環境整備を図る必要があります。

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特に南部地域では、例外的に温暖な気候と広大且つ平坦な農地に恵まれ、農業生産の高いポテンシャルがありながら開発から取り残された地区となっております。同地区での灌漑施設整備は、コメの生産増加において重要な役割を担っています。

このような状況から、南部における灌漑施設が十分機能するよう、無償資金協力「サルパン県タクライ灌漑システム改善計画」を実施し、災害により損壊した灌漑システムの改修を進めています。

資料

(本資料は2014年7月現在の情報に基づき作成しました)