所長あいさつ

世界第5位の面積と同じく第5位の人口規模を誇るブラジルは、豊富な天然資源や高い食料生産ポテンシャルに恵まれ、世界有数の経済規模とともに、G20の一員として国際社会で大きな存在感と役割を担っています。日本はブラジルから鉄鉱石や鶏肉、大豆、コーヒー等を輸入しており、資源・食料安全保障の観点からもブラジルは日本にとって世界で最も重要な国の1つです。また、ブラジルは世界最大(約200万人)の日系人が住む国です。これまでのたゆまぬ日系移住者の努力により、農業に始まり、現在では様々な分野において日系社会はブラジルの発展に大きく貢献し、日本や日本人に対する強い信頼感が築かれてきました。

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他方、ブラジルは経済大国である一方、都市化に伴う交通渋滞の悪化、廃棄物処理、治安悪化、水・衛生施設の不足、多発する自然災害などの課題を抱えています。それらの課題解決に向けて、JICAでは技術協力、円借款、海外投融資、民間連携事業など様々な協力メニューを駆使し、ダイナミックで持続性の高い協力を推進しています。

ブラジルにおける経済協力は、1959年の専門家派遣に始まります。これまで、セラード農業開発事業を始めとする多数の農業分野への協力、ウジミナス製鉄所やアマゾン・アルミ精錬所等の資源開発プロジェクトへの出融資、チエテ川の洪水対策事業やサンパウロ州、パラナ州等の上下水道整備、ゴイアス州農村電化等の環境保全や都市環境改善等のインフラ整備の資金協力、アマゾン地域等の環境保全、保健分野や職業訓練、地域警察活動等への技術協力を実施しています。また、日本が有する知識や経験を日本国内の関係機関と協力して行う研修事業では、これまでブラジルから1万2千名以上が日本で研修を受けています。さらに近年は、ブラジル向けの経済社会開発の発展への寄与にとどまらず、中南米やアフリカ諸国への三角協力を通じたパートナーシップ協力も推進しています。

今日、開発途上国における課題解決の民間セクターの役割が益々重視されています。JICAは民間セクター向けに直接投融資を行う海外投融資事業を推進しています。また、日本の優れた技術の活用を促すべく、JICAがこれまで培ったブラジル政府機関や日系社会との関係を活かし、ブラジルに進出する日本企業との連携を深め、ブラジルの開発課題と日本企業のビジネスの双方に寄与する取り組みを調査や実証事業を通じて進めています。

ブラジル日系社会に対しては、JICAの前身機関の時代から、5万3千人に及ぶ移住者の送出を担い、その後の定着と安定のための支援を行ってきました。これまで、日系社会ボランティアを年間100名規模で派遣し、各地日系団体のニーズに応えると共に、日系社会との関係強化や日系団体を通じたブラジル社会への貢献を推進しています。また、次世代の日系社会を担い、日伯の架け橋となり得る日系人の人材育成も、これまで3千人以上が日本で研修を受けています。このように、今後もブラジル日系社会との連携は維持・強化しつつ、民間連携事業のパートナーとしても共に活動を推進してゆきます。

「疾風に勁草を知る」という諺があります。苦境や困難に遭遇し、そこで立ち向かう人々の意思の強さや真価がわかるという意味です。2020年に世界を襲ったパンデミックは、私たちの生活や仕事の仕方を一変させました。しかし環境問題、自然災害、感染症などのグローバルな脅威や課題に対して、JICAは決してひるむことなく、立ち向かう「勁草(けいそう)」であり続けます。JICAは様々な関係者と連携しながら、知見や経験を最大限に活かし、ブラジルと日本、そして世界が共に持続的に発展し、一人でも多くの人々の幸福と笑顔が獲得できるよう努めて参ります。皆様のご理解とご協力を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

2021年1月
ブラジル事務所長 江口 雅之(えぐち まさゆき)