所長あいさつ

チリは2018年1月にDACリストからは外れましたが、6月に日本政府は外交政策上またチリの経済社会的状況から引き続きチリを開発途上地域として認定し、JICAを通じた技術協力事業は継続することを決定しました。

チリへのJICAの協力ことはじめは、1958年のチリ技術研修員の日本での受入れです。60年の歳月が流れ、その間、1978年の「技術協力協定」締結や1983年JICA事務所の開設、1996年「青年海外協力隊派遣取極め」を通じて、JICAは農林水産分野、鉱業分野、医療分野、防災・環境分野などにおいて、チリの社会・経済開発の発展に貢献してきました。1999年6月には、日本のこれまでの協力の成果を活用し普及するため、中南米では最初の南南協力・三角協力に関するパートナーシップ・プログラムを締結し、チリは域内の開発にも積極的に取り組んで来ています。そして2018年2月両国首脳が新たな日本チリパートナーシッププログラム2030を締結し、日本にとっても外交上重要な戦略的パートナーとして位置付けられました。

チリは、これまで自由経済開放政策を推進し、多くの国との自由貿易協定を結び貿易の自由化を進め、堅調な経済発展を遂げてきました。一人あたりの国民総所得が高所得国にカテゴライズされ、DAC基準では2017年末をもって援助卒業することになりました。一方で、産業構造の多角化は進まず、依然として地下資源である銅に依存する一次産品輸出経済が続き、地方分権化や地域開発は未だ十分ではなく、経済の低成長からの脱却、所得格差や地域格差の是正はチリの抱える構造的な課題となっています。

チリは、この20年間に自国の経済発展に伴い他国への援助額を10倍に増加させ、他の中南米・カリブ諸国30ケ国への技術援助を行い、そしてアフリカやアジアにも支援を拡大しています。JICAは、長年のチリでの技術協力の知見を活用しつつこのチリの取組みを支援しています。2015年3月にはチリを域内の防災分野の人材育成の拠点とするべく「KIZUNA」プロジェクトを立ち上げて、中南米地域の共通の課題である自然災害リスクの削減のための防災対策の人材育成を多くのチリ関係機関と協働で推進しています。当初目標は2,000名の防災人材の育成でしたがチリ側の努力ですでに目標は達成されたため現在は倍増の4000人を新たな目標に変更しました。

チリは、JICAにとってDACリストから卒業をした国に対する歴史上初めて援助を継続する国になりました。OECDの研究では、2030年までに32か国が援助卒業または移行期に入ると予想しており、チリへの協力の在り方は今後の援助卒業国に対するまさにパイオニアの存在になります。

つい最近では、民間企業からの資金を受託するJICAでは初めての事業もチリで開始されており、長年培ってきた様々なネットワークと知恵を最大限に動員してSDGsに貢献するためのモデルケース構築に向けて努力していく所存です。

国際協力機構チリ支所 支所長 半谷 良三