「アフリカ地域における農業分野の人材育成に貢献」-後編-

【写真】浅沼 修一(あさぬま しゅういち)氏第17回JICA理事長賞を受賞された
浅沼 修一(あさぬま しゅういち)氏

■写真:2021年12月 JICA北岡理事長とともに

今回、2021年12月に第17回JICA理事長賞(注1)を受賞された浅沼修一氏にお話をお伺いします。浅沼氏は、長年に亘ってアフリカ地域農業分野の人材育成に貢献されてきました。中部地域ではJICAの実施する課題別研修「アフリカ地域 稲作振興のための中核的農学研究者の育成」においてご活躍されており、当該研修にかかるエピソードを主に伺いました。

(注1) 国際協力事業を通じて開発途上国の人材育成や社会・経済の発展に多大な貢献をされた個人・団体に贈られる賞

印象に残っている研修員がいたら教えてください。

研修実施の様子

研修初年度にエチオピアから参加した研修員が、JICA中部に到着して間もなく体調をくずし、食事になじめなくて、やむなく帰国することになった例があります。かというと、2年続けて参加したブルンジの研修員もおります。ブルンジ政府がよく許可したものだと思いました。研修員がよほど国から期待されていたのかもしれません。 これまで24カ国から109人受入れていますので、今後もそれぞれの国を訪問する機会があるときには、なるべく当人に会って何をしているかなど情報交換をしたいといつも考えています。先に書いたフォローアップ調査でセネガルに行ったときもそうでした。研修員OBが現地視察や研究機関等訪問のお世話をしてくれました。もちろん、こちらからもCARD(アフリカ稲作振興のための共同体)やAgri-Net(農業分野の留学プログラム)などについての情報提供が必要です。研修をキッカケとして、一緒にCARDを推進する意識を醸成できるといいと考えています。

理事長賞を受賞された時の感想をお聞かせください。

北岡理事長から表彰状の授与

理事長賞のアナウンスは突然のことでした。何が評価されたのか自分でもすぐには分からなかったので、なんで自分がという気持ちが第一に来ました。でも今は、この賞はこれまでの功績の表彰に加えて、今後もさらに先に進んでくださいという激励の証と受けとめています。国際教育協力、人材育成というどちらかと言えば地道な活動をじっと見ていただいたことを知り、やってきたことが間違いでなかったという自覚につながり、ある意味、自分を肯定できるようになりました。

今後の農学研究者の育成における展望をお聞かせください。

セネガルで研修員と再会

私が考える農学研究者は、農業現場の問題の解決を志向する研究者です。当面のターゲットはアフリカ稲作振興のための課題解決ですが、たとえば稲の品種開発、栽培生理、土壌肥料や病害虫コントロールなど栽培技術の開発が急がれます。CARD10年のJICAの技術協力の実績を、2021年4月に、「JICAアフリカ稲作技術マニュアル-CARD10年の実践-」(関連リンク参照)にまとめましたが、技術の目はここにあってもそれをどのように使うかは現地試験での検証が必要です。よく言われることですが、農業はその土地の土壌、気象、水条件などの環境条件に左右され、克服には作物の品種と栽培技術を組合せた適応技術が必要で、ここに研究の重要性があるのです。 JICAは途上国の課題解決のために日本の大学と連携してこのような人材育成を推進できる日本の唯一の機関です。開発大学院連携プログラムはそれを具体化したものですが、できれば途上国の農業の課題をテーマとしてその解決のための研究を、留学生を指導しながら行わせるような仕組みを以前から構想してきました。大学には大学なりの課題があり、学術研究の追究も課せられ、ますます重くなってきている現実があります。この点の折り合いをどのようにつけて、連携協力していくか早急に先を見出す必要があると考えています。 一つの姿として、JICA技術協力プロジェクトに中核的農学研究者の育成を組み込み、優秀なカウンターパート研究員を初めは課題別研修で、次に長期留学させ、課題解決のための研究を修士または博士の研究テーマとし、日本の大学の先生にも現地の問題を知ってもらい、必要なときには現場で指導していただく仕組みができないかと考えています。それをサポートするには、人材育成だけでなく実験施設や実験圃場の整備も必要となってきますが、簡単には解決できない課題ですのでまずは可能なところから始め、先行事例を示すことが大事だと考えています。

今後の抱負をお聞かせください。

初めてJICA専門家としてインドネシアに派遣されたのは1988年でしたが、それ以降、専門家としてまたは技術協力プロジェクトの国内支援委員としてあるいは運営指導調査団員として国際協力に参加させていただきました。マダガスカルの稲作技術協力プロジェクト(PAPRiz)とミャンマーのイエジン農業大学支援技術協力プロジェクトの国内支援委員の総括の役目はアフリカ稲作の理解や教育協力のあり方を考える大きな経験となっています。今は、CARD、SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)、大学連携、農学教育協力(スリランカ・ジャフナ大学農学部)などに係っていますが、引き続きできるところで真摯に、且つ自らも楽しみながら協力していければと考えています。特に、Agri-Net留学生の研究テーマや研究・教育の実態把握を行い、現地の課題解決のための研究の観点から見た優良事例を探すことに当面の関心をもっています。 もう一点です。課題別研修と技術協力プロジェクト、無償資金協力などJICAの国際協力スキームを統合的に組み合わせた実施によってより効果的な人材育成や技術協力の目的達成につながると考えています。技術協力すなわち現場の課題解決に必要な人材を育成するというコンセプトで統合的に実施するという観点です。まだ具体的な事例はありませんが、CARDの関係で考えたいと思っているところです。