行政評価及び監査報告書

「在外邦人の安全確保対策に関する行政評価・監視結果報告書−開発途上国を中心として−」総務省行政評価局(平成13年10月)

国際協力事業団及び国際交流基金における派遣専門家等の安全確保対策の充実

勧告

  開発途上国に対する技術協力や無償資金協力の調査・実施促進に係る業務を所掌する国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び開発途上国を含めた世界各 国に対する日本文化の紹介、日本語普及のための教育や文化遺産の保護活動等を行う国際交流基金(以下「基金」という。)は、その業務の遂行のため、海外に 設置した事務所等〈以下「在外事務所」という。)に職員を配置するとともに、各種の専門家や調査団員等(以下「専門家等」という。)を各国の政府機関や開 発プロジェクト現場、大学などの教育研究機関等に派遣しており、これら職員・専門家等が派遣先国において、テロ事件、内乱等の緊急事態に遭遇することも少 なくない。
事業団は、平成12年度末現在、開発途上国を主体に82の在外事務所等(青年海外協力隊調整員事務所を含む。)に524人の職員等(青年海外協力隊調整 員を含む。)を配置しているほか、同年度には、約150か国に専門家等約2万人を派遣している。事業団は、i)平成3年にぺルーに派遣した技術協力専門家 が現地の過激派に殺害された事件などを契機として、同年に、事業団関係者の安全確保対策を専門に担当する「安全対策室(5年から安全管理課)」を事業団本 部に設置するとともに、本部で統一安全対策マニュアルを策定した上で、在外事務所独自の安全対策マニュアルの作成を指導する、ii)平成11年にキルギス に派遣した調査団員がテロ組織に拉致された事件を契機として、同年に、事業団本部に「安全情報室」を設置するとともに、専門家等への無線通信機の配備の充 実を図るなど、安全確保対策の強化に努めてきている。
また、基金は、平成12年度末現在、19か所の在外事務所に60人の職員を配置しているほか、同年度には、約90か国に専門家等約550人を派遣(延べ 約640人。うち、開発途上国への派遣が約8割)している。基金では、自らこれらの職員及び専門家等の安全確保を図るため、「海外における緊急事態発生時 の本部における対策実施体制について」(平成10年4月6日付け10−G−2理事長通達)を定め、緊急事態が発生した場合には本部に緊急事態対策本部又は ワーキンググループを設置し、在外事務所職員及び専門家等の避難又は引揚げの時期、方法、輸送手段の手配等に関する実施方針の策定等を行うこととしている ほか、在外事務所においては、i)現地対策本部を設置して事態の危険度の分析判断等を本部に連絡すること、ii)在外公館との連絡調整及び日本人会等在留 邦人との情報交換を行うこと、iii)在外事務所の実状に合わせて緊急連絡網を整備することとしている。

  今回、事業団及び基金における安全確保対策の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
(1)事業団及び基金の在外事務所等における緊急事態の対処マニュアルの作成状況をみると、事業団、基金ともに全在外事務所で作成されている。
また、事業団では、専門家等に配布する事務手引書等に、事業団の在外事務所を中心とした平時及び緊急事態の段階に応じた対応要領、行動指針等の具体的な 安全確保対策を記載するなどして、専門家等に注意を促しているが、基金では、事務手引書等に緊急時の安全確保のための一般的注意事項を記載しているもの の、具体的な安全確保対策については記載していない。このため、基金が派遣する専門家等で、緊急事態が発生するおそれのある国(地域)において活動してい る者の中からは、緊急事態発生時にどのように対処すべきか教示もなく不安であるとする意見も聴かれた。
(2)事業団又は基金が派遣する専門家等が有する連絡手段をみると、i)調査した事業団の28在外事務所等のうち9在外事務所においては、在外事務所の遠 隔地に派遣されている専門家等の中に、在外事務所との連絡手段が有線電話又は携帯電話のみとなっているものがみられる、ii)基金では、在外事務所が設置 されている国に派遣される専門家等は在外事務所に対し報告・連絡を行うこととしており、在外事務所が設置されていない国に派遣される専門家等は在外公館を 通じ基金本部に報告・連絡を行うこととしているが、いずれの場合も専門家等との間の連絡手段は、有線電話又は携帯電話のみとなっている。
しかしながら、事業団の派遣専門家等のほぼ全員が、また、基金の派遣専門家等の約8割が、開発途上国に派遣されている。これら派遣先国の多くは、緊急事 態や治安の悪化により、在外邦人の生命等に危険が及ぶ可能性があるとして、外務省が海外危険情報を発出している国であり、緊急事態が発生した場合には、有 線電話や携帯電話が使用不能となる事態も予想される。

 したがって、外務省は、事業団及び基金における派遣専門家等の安全確保対策の充実を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
(1)基金に対し、緊急事態が発生するおそれのある国(地域)に派遣される専門家等の安全確保に万全を期すため、具体的な安全確保対策を記載した専門家等のための緊急事態対処マニュアル等を作成するよう指導すること。
(2)事業団及び基金に対し、緊急事態が発生するおそれのある国(地域)に派遣される専門家等については、有線電話等が使用不能となる事態を想定した無線通信機(長距離無線機、衛星携帯電話)の配備を推進するよう指導すること。