グローバル化時代の教育課程と国際教育・開発教育

−NIERとJICAが、グローバル人材育成をテーマに国際シンポジウムを開催−

2013年10月1日

シンポジウムには約300人が参集

社会はグローバル化がますます進み、日本と外国との相互依存関係は深化し、直面する課題は複雑化している。こうした世界の現状を理解し、異なる価値観、環境に適応し、多様性を生かして新しい解を作り出す力を持ったグローバル人材の育成が世界中で求められている。

文部科学省国立教育政策研究所(NIER)とJICAは、他国の教育行政機関のグローバル化の進展に対する対応とその動向について比較分析を行い、将来の日本の教育課程の在り方について示唆を得ることを目的とした共同プロジェクト「グローバル化時代の国際教育の在り方国際比較調査」を2011年12月に開始。これまで公教育と国際教育(国際理解教育、開発教育)の融合を切り口に、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツ、カナダ、米国で現地調査を行ってきた。

8月30日、これらの調査結果に基づき、JICAはNIERと共に英国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダから有識者6人を招いて、国際シンポジウム「グローバル化時代の初等中等教育を考える−グローバル人材育成についての日本への示唆−」を、文部科学省(東京都千代田区)で開催。シンポジウムには文部科学省や学校教育関係者、外務省、開発・教育関係のNGOや企業などから300人近くが参加し、グローバル化時代を生きる資質・能力を育成するための教育課程、国際教育の意義と学校現場での国際教育の推進の在り方について議論が行われた。

シンポジウムへの期待

シンポジウムは、NIERの尾崎春樹所長の開会の辞で幕を開けた。尾崎所長からは、「プロジェクトの取り組みを通じ、諸外国の教育がグローバル化の進展にどのような対応をとっているかの比較分析を行い、わが国の将来的な教育課程の在り方について示唆を得たい」との発言があった。

基調講演でグローバル教育推進について語る芳賀所長

基調講演では、NIER教育課程研究センターの勝野頼彦センター長が、日本の近年の教育政策と教育課程の現状と課題を挙げ、同プロジェクトの概要を説明した上で、教科領域横断的に育成が求められる資質・能力として「21世紀型能力」を提案。シンポジウムへの期待として、グローバル化した現代でコアとなる資質・能力およびそれを育成する初等中等教育の在り方と、教育課程全体に対し国際教育や市民教育、持続可能な発展の教育の内容がどう位置づけられるかの2点を挙げた。

JICA地球ひろばの芳賀克彦所長は、JICAの開発教育支援事業の概要と課題、調査の進捗状況を紹介し、シンポジウムへの期待として、学校現場でのグローバル教育推進のために援助機関が果たし得る役割、グローバル時代に求められる能力・資質の育成に開発教育が果たし得る役割を挙げた。

グローバル化時代を生きる資質・能力を育成するための教育課程

続いて行われたパネルディスカッション1では、資質・能力を育成するための教育課程について発表・議論が行われた。

教育課程の編成と教科との関係性について説明するコナー氏

英国ケンブリッジ大学グループディレクターのティム・オーツ氏は、教科の概念を重視した同国の教育課程改訂の経緯、教育課程の一貫性の重要性等について説明し、「策定にはその国の状況、多様性、教育システムに配慮することが不可欠」と述べた。オーストラリア・メルボルン大学のバリー・マクゴウ副総長は、オーストラリアでは汎用的能力の育成を目指した教育課程開発が進められており、「教科内容と汎用的能力の両方を重視しながら、体系的・計画的な開発・実施・評価の作業を進めている」と語った。

また、ニュージーランド国際科学教育学会のリンジー・コナー財務担当役員は、「キーコンピテンシー(注)を育成するための教育課程の編成は、教科との関係性に配慮し慎重に行うことが重要」と述べた。

国際教育の意義と学校現場での国際教育の推進

パネルディスカッション2では、各国のパネリストが、特に学校現場でのグローバル教育推進に効果的なプログラムや支援等について発表と議論を行った。

ネットを用いたオンライン教育の導入事例を紹介するバーチ氏

英国ロンドン大学教育研究所開発教育研究センターのフランシス・ハント研究員が、「学校現場でグローバル教育を導入するためには、実施体制を支える教員の養成が重要であること、その効果的な推進にはさまざまな組織、団体の連携、協働が不可欠」と語ると、オーストラリア国際開発庁(AusAID)でグローバル教育プログラムのマネジャーなどを歴任したアーサー・バーチ氏は、「グローバル教育は既存の教科に組み込むことが重要」と述べ、グローバル教育の教材や、学校別の事例等を掲載するウェブサイトをAusAIDが支援していることや、教師育成のためネットを用いたオンライン教育の導入事例を紹介した。

カナダ外務貿易開発省のマンロ・ペース氏は、学校でのグローバル教育のリソース開発・配布・活動支援のプログラム、州の教育課程との関係や授業計画等を示した開発教育キットの開発・配布の事例、国際理解に関するコンテスト、学生リーダーの育成、海外ボランティア派遣などの取り組み事例を紹介し、若者の間で広がるソーシャルメディアなど、新たなツールの活用も見据えたプログラムの再検討についても言及した。

コメンテーターを務めた早稲田大学の山西優二教授は、「本シンポジウムではグローバル教育の『グローバル』という言葉が、空間性、時間性、問題性を含む包括的な概念として共有されている」と述べた上で、グローバル教育はそれぞれの国・地域と、それらを結ぶ国内外の人的・地理的ネットワークを研究、調整した結果生まれるが、そのネットワークのつなぎ役を誰が担うべきかをパネリストに問いかけた。各パネリストは、情報システムを活用しつつ学校教育機関、NGO、国際協力機関などが担うべきと回答した。

グローバル化時代の教育課程の在り方と開発教育・グローバル教育の役割

教育課程について意見を交換するパネル1の登壇者

全体討論では、会場からの質問を受け、パネルディスカッション1でコーディネーターを務めた比治山大学・比治山大学短期大学部の二宮皓学長が、コアとなる資質・能力の定め方についてパネリストに質問。多文化・移民社会の国ではコミュニケーションに重きが置かれ、その他の重要な知識・技能(コアスキル)の尊重に加え、メタ認知やクリティカルシンキング(批判的思考)も重要視され、それらが組み込まれるべくキーコンピテンシー(注)が決定されている、などの回答が各パネリストからあった。

会場からの質問を受け、さらに白熱した議論が展開するパネル2の登壇者

同じく会場からの質問を受けた、パネルディスカッション2のコーディネーターの目白大学人間学部学部長の多田孝志教授は、グローバル教育推進のための実施体制構築・強化に必要なものについてパネリストに質問。パネリストらは、質の安定したグローバル教育推進のための監査機能を持つ組織の設置や、さらなる教員・指導者育成、オンライン利用による効果的な情報提供・人材育成、専門的な知見を持つNGOの関与・連携のほか、普段の学校生活での生徒の国際意識の醸成、異文化理解のための海外の学校との交流システムづくりなどが必要だと意見を述べた。

最後にJICAの黒柳俊之理事が閉会の辞として、シンポジウムの関係者、参加者に謝意を述べるとともに、グローバル時代に求められる資質・能力の育成に開発教育が有益との示唆が海外の有識者からあったことに言及。「今回のシンポジウムの議論を踏まえ、JICAとしても開発教育支援に尽力したい。また教育に関係する方々との連携・協力が不可欠なため、支援とご協力を賜りたい」と述べ、シンポジウムを締めくくった。

(注)主要能力。経済協力開発機構(OECD)により定義されたもの。