健康格差是正に向けた保健人材育成改革

−2014年マヒドン皇太子賞会合開催−

2014年2月5日

「2014年マヒドン皇太子賞会合(Prince Mahidol Award Conference 2014: PMAC2014)」(マヒドン皇太子記念財団、世界保健機構、世界銀行、米国国際開発庁、中華医療委員会、ロックフェラー財団、JICA共催)(注1)が、1月27〜31日、タイのパタヤで開催された。「健康格差是正に向けた保健医療人材育成改革」をテーマに、各国の保健人材育成におけるさまざまな経験が共有され、21世紀における保健人材教育の在り方について、議論が繰り広げられた。

保健人材育成改革

2010年に、世界各国20人の研究者により「21世紀へ向けた保健人材教育に関する委員会」が立ち上げられ、同年12月『ランセット』誌に「新世紀の保健人材:相互依存世界における保健システム強化に向けた教育改革」と題する研究報告が掲載された(注2)。健康格差の拡大、疾病構造の変化、人々の健康を脅かす環境・行動要因の多様化、医学知識の発展、情報システムの進展等は保健システムに大きな影響を与え、保健人材は新たな対応能力が求められている。この研究報告では、保健人材教育が、これらの変化に十分対応できていないと指摘している。

この研究報告後、世界各国で、保健人材育成改革の動きが見られるようになった。アジア5ヵ国では、エビデンスベース(科学的根拠に基づいた)の保健人材育成改革に向け、保健医療従事者トレーニングについて詳細な研究が行われている。アフリカでは医学教育連携イニシアティブ(Medical Education Partnership Initiative:MEPI)というネットワークが創設され、医学教育についての情報と経験の共有が図られている。

この流れを受け、保健人材育成の現状を見直すこと、保健格差是正のためにどのように改革を進めるかを考え戦略を立てること、地域ごとの保健医療人材教育ネットワークを強化することなどを目的として「PMAC2014」が開催された。

保健人材育成の在り方

本会合会場に設置されたJICAブース。保健分野のポジションペーパーや報告書、プロジェクトパンフレットを配布した

七つの基調講演、五つの本会合、21の分科会、23のサイドミーティングから成る今回の会合には、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁をはじめ62ヵ国から5日間で543人が参加。(1)健康格差是正に向けた育成改革、(2)保健人材育成改革のための世界保健人材、(3)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(注3)の達成に向けて、(4)人材市場のグローバリゼーションと保健人材教育、(5)ポスト2015を見据えたこれからのビジョン(注4)、をテーマとした本会合後、それぞれのテーマを各論として掘り下げるべく分科会が開催された。

日本からは、元厚生労働省副大臣の武見敬三議員が、本会合「保健人材育成改革のための世界保健人材:経験とエビデンスへの考察」の基調スピーカーとして登壇し、日本のUHC推進および保健システム強化にかかるコミットメントを紹介するとともに、保健人材育成に関する政治的リーダーシップの重要性を述べた。また、技術支援委員会メンバーとして、準備段階から参画した名古屋大学の伴信太郎教授と聖路加看護大学の田代順子教授が、分科会のスピーカーを務めた。

保健医療人材育成の先進的な取り組みを紹介

石井専門員

石井羊次郎JICA国際協力客員専門員がモデレーターを務めた分科会「教育改革における革新的な取り組みの概要」では、東日本大震災を契機にした新たな地域医療研修、医学士とMBAを同時に取得するプログラムや、コミュニティー保健サービスに重点を置いた看護師養成プログラムなど、保健医療人材育成の先進的な取り組みが紹介された。

小林次長

JICA人間開発部の小林尚行次長がモデレーターとして登壇した分科会「保健人材ライフサイクル:変わりゆく状況において保健人材が直面する課題」では、JICAの藤田則子専門家が、育成強化への政治的コミットメントとリーダーシップの重要性を述べたほか、保健人材教育にかかわる法規制整備や、地域に根差した医学教育の必要性が挙げられた。また、保健人材育成は卒前教育で終了するものではなく、生涯を通じて実施されるものであり、その方法はそれぞれの国のニーズに沿って検討されるべきことが各国の事例を通じて強調された。

杉下専門員

「インパクトに向けた連携:保健人材の拡大」の分科会では、杉下智彦JICA国際協力専門員がスピーカーを務め、ケニアの保健マネジメント強化の取り組みと、アフリカ保健リーダーシップ・マネジメントネットワーク(AHLMN)を通して32ヵ国に展開する保健システムマネジメント育成プログラムを紹介した。「人々中心」の保健医療のためには、新しいリーダーシップやチームワークの在り方、公共性に基づく倫理観など、保健システムの変革におけるマインドセット(思考様式)の転換が重要であると述べた。

看護師継続教育についてサイドミーティングを共催

このほか、独立行政法人国際医療研究センター(NCGM)とJICAの共催で、サイドミーティング「How can we enhance the competency of nursing and midwifery? –Current approach and challenges of continuing education and future commitment in Southeast Asia」が開催された。NCGMは、看護職の制度整備、資格・登録、教育分野における東南アジア諸国の取り組みと課題を共有し、看護人材開発を推進することを目的として2011年からワークショップを開催してきたが、3回目となる今回は、看護職の継続教育に焦点を当て、PMACサイドミーティングとして開催した。看護職の教育制度は国によって異なり、他国の実践から良案を得ようと活発なディスカッションが交わされ、国別に今後のアクションプランを取りまとめ発表を行った。

保健人材育成のこれから

米国ノースカロライナ大学グウェン・シャウッド教授(右)に賞を授与する小寺理事

5日間の会合最終日には、保健人材の育成に貢献のあった7人の教育者が表彰され、PMAC2014の開催準備にかかわる国際組織委員会の共同議長であるJICAの小寺清理事が、授与者として登壇した。

JICAの保健分野の協力は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を目指して、開発途上国の保健課題に対応しており、人材育成を通じた保健サービスの質の向上と保健人材の拡充は、重点分野だ(注5)。JICAは引き続き、途上国の保健人材強化に向け支援を行っていく。



(注1)世界各国の政策関連保健医療問題を扱う毎年開催の国際会合。「タイの現代医学と公衆衛生の父」と称されるマヒドン皇太子の生誕100年を記念し、1992年にマヒドン皇太子賞財団が創設され、毎年1月に医学、公衆衛生において功績のあった個人、団体にマヒドン皇太子賞が授与される。この授賞式に引き続き国際会合が開催され、JICAは2011年より共催機関として参画している。
(注2)ハーバード大学、『ランセット』誌、中華医療委員会が共催し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ロックフェラー財団が、資金を支援した。英『ランセット』誌(The Lancet)は世界で最も権威ある医学雑誌の一つ。
(注3)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジが目指すものは、「すべての人が、必要な保健医療サービスを支払い可能な費用で受けられる状態」である。
(注4)2000年に採択された「ミレニアム開発目標」の達成期限が2015年に迫っていることから、現在、2015年以降、どの開発課題に重点を置くべきかの論議が進んでいる。
(注5)保健行政能力の向上、保健サービスの質の向上、保健人材の拡充を通した、保健システム強化、および母子保健、感染症対策などを重点分野としている。