アルジェリア人質拘束事件から1年、北アフリカのサヘル情勢を振り返る

−フランスより地域研究者を招へい−

2014年2月25日

2013年1月16日に発生し多くの死傷者を出した、アルジェリア・イナメナス天然ガス関連施設人質拘束事件から1年。JICAは、北アフリカ・サヘル地域(注1)に関する情報の収集と、アフリカ進出時のリスクの一つである治安問題について示唆を得ることを目的に、2月5〜8日、フランス国際関係研究所(IFRI)とパリ第8大学から、地域情勢に詳しいフランス人専門家を招き、「日本企業のアフリカ展開と北アフリカ・サヘル情勢セミナー」を開催した。

対アフリカ・ビジネスと治安問題の現状を共有

講演するIFRIのアンティル主任研究員

講師として来日したのは、西アフリカフランス語圏諸国の資源セクターやサヘル・マグレブ諸国(注2)の国境間交易を専門とするIFRIのアラン・アンティル主任研究員と、アフリカの紛争や暴力行為と人道的支援との関係、ナイジェリア北部地域に拠点を構えるイスラム過激派「ボコ・ハラム」に関する調査に従事する、パリ第8大学のマーク=アントワン・ペルーズ・ド・モンクロ教授。

2月6日、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)と共催した「日本企業のアフリカ展開と北アフリカ・サヘル情勢セミナー」には、アフリカ進出に関心を持つ企業関係者を中心に約200人が参加。成長するアフリカへの進出機運が高まる中、企業の対アフリカ・ビジネスの現状を共有するとともに、アルジェリア人質拘束事件から約1年の節目に、治安問題について専門家の意見を聞く貴重な機会となった。

日本企業のアフリカ展開に向けて

セミナーではまず、ジェトロ海外調査部の的場真太郎中東アフリカ課長が「日本企業の対アフリカ・ビジネスの現状と課題−在アフリカ進出日系企業実態調査結果から−」をテーマに講演を行った。在アフリカ日系企業に依頼したアンケートの回答を分析し、日本企業がアフリカでの事業を展開する際の方向性や経営上の問題点などについて説明。的場課長は、「2011年以降、アフリカに進出した日本企業数は増加傾向にあるとともに、その59.8パーセントが今後1、2年の間に事業を拡大する見通しだ」と述べた。特に2013年は、「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」をはじめ、大規模なアフリカ関連イベントが続いた「日本アフリカ年」であると指摘し、今後ますます日系企業のアフリカ進出が期待されていると続けた。

次に、在フランス日本大使館の上江洲佐代子(うえす・さよこ)専門調査員が「北アフリカ・サヘル情勢と今後の展望」と題し、アフリカでビジネスを行う上でのリスクの一つであるテロ集団・イスラム過激派の活動の概要を説明した。また、それらの活動資金稼ぎのために、サヘル地域を中心に「身代金ビジネス」が横行していることを指摘し、トラブル回避のための情報源として有用な、いくつかの団体やウェブサイトなどを紹介した。

北アフリカ・サヘル情勢をフランス人専門家が語る

北アフリカ・サヘル情勢について講演するパリ第8大学のモンクロ教授

続いて、IFRIのアンティル主任研究員と、パリ第8大学のモンクロ教授の二人が北アフリカ・サヘル情勢について講演を行った。

両氏は、「報道をうのみにしてアフリカを危険地域とひとくくりにするのではなく、定量的にリスクを測ること、脅威の性質を特定・区別し、判断すること」の重要さを語った。また、「テロリストは貧困を主要因として発生するのではなく、政府のガバナンスの脆(ぜい)弱さを原因に発生する」「イスラム武力勢力は国を超えて強い結びつきがあるわけではなく、その国や地方の歴史問題などに起因した地元の力学に基づき活動している」と繰り返し指摘し、アフリカ進出を検討する際には、その地域の歴史や政治的背景を知ることが重要であることを伝えた。さらには、サヘル地域がコカインをはじめとする麻薬取り引きの基地となっており、さまざまな人々がこの取り引きにかかわる社会構造的な問題点を指摘した。会場の参加者からは、国内紛争に国際社会が介入する意義やフランスの植民地政策がフランス語圏アフリカの国家形成へ与えた悪影響など、幅広い分野の質問が寄せられた。

サハラ地域研究者間で意見交換を行う

セミナーの後、二人の専門家は、政策研究大学院大学(GRIPS)の大野泉教授が主催した開発フォーラム「アフリカ資源セクターを巡る地政学、企業と開発」で、産官学の関係者、学生と意見交換を行った。さらに、翌7日には、上智大学の私市正年(きさいち・まさとし)教授が主査を務め、日本国際問題研究所が研究を進める「サハラ地域におけるイスラーム急進派の活動と資源紛争の研究」の研究委員との間で、地域情勢に関する専門的な情報交換を行うなど、積極的に活動し帰国の途についた。

JICAは今後も同様のセミナーを企画し、アフリカ進出に関心を持つ企業関係者に有益な情報を発信していく。


(注1)サハラ砂漠の南辺、おおよそ北緯20度から12度の間に位置する地域とされ、エチオピア、エリトリア、ガンビア、ジブチ、スーダン、セネガル、チャド、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、マリ、モーリタニアなどが含まれる。
(注2)アルジェリア、チュニジア、モロッコ、リビアなど北西アフリカ諸国を指す。