ポスト・ミレニアム開発目標の国際的議論に向けて発信

−アジア開発銀行年次総会セミナーに参加−

2014年5月9日

アジア開発銀行(ADB)の第47回年次総会が5月2〜5日、カザフスタンの首都アスタナで開催された。会期中、JICAからは木山繁理事が「PPPセミナー」、小寺清理事が「ポスト・ミレニアム開発目標(MDGs)セミナー」の二つの公式セミナーに登壇するとともに、フランス開発庁(AFD)と持続可能な都市開発に関するサイドイベントを共催。今秋の国連総会以降に本格化するポストMDGs検討の際、重要となるテーマを取り上げ、ADB年次総会の機会をとらえて積極的に対外発信を行った。

アジアにおけるPPPの教訓、課題、展望について議論

左からJICAの木山理事、モデレーターを務めたPwCのジュリアン・スミス氏、CIBCのマホン取締役、カザフスタンPPPセンターのマムラエフ副所長

年次総会初日の5月2日、ADBと民間コンサルティング会社(PwC)が「現実へのまなざし:PPPを機能させる(Vision to Reality: Making PPPs Work)」を共催した。JICAの木山理事、オーストラリア財務省のスティーブン・チオボ次官、カナダ・インペリアル商業銀行(CIBC)のローレン・マホン取締役、インド財務省経済局のアルビンド・マヤラム筆頭次官、また主催国のカザフスタンからPPPセンターのガリンベク・マムラエフ副所長の5人がパネリストとして登壇し、アジアにおけるPPP事業のこれまでの取り組みからの教訓、課題、そして今後の展望について議論した。

PPP(官民連携)は、開発途上国への民間資金流入の大幅な増大を背景として、ポスト2015開発アジェンダ(注1)の議論においても開発資金のツールの一つとして注目されている。

PPP事業実施のボトルネック

オーストラリア財務省のチオボ次官は過去25年の同国におけるPPP事業を振り返った。その教訓として、約130件に上る案件が成否相半ばしていると述べ、「変動する市場価格、案件ごとに異なるファイナンスのアレンジメントを踏まえて、政府が官民のリスク分担について一層柔軟に対応することが重要だ」と指摘した。

CIBCのマホン取締役は、PPP事業の失敗の主な理由として、「民間部門が求めるリスクに応じたリターンに対して、政府部門がPPP事業をデザインする際に、維持管理費を含めた事業全体のコストや民間部門にとっての適正な事業規模を必ずしも考慮していないことがある」と述べ、この原因として、「政府職員のPPP事業に関する能力不足」を強調した。

インド財務省経済局のマヤラム筆頭次官は、世界有数のPPP市場に成長したインドにおけるPPP促進のための各種制度やボトルネック解消に向けた取り組みを紹介。PPP 事業のボトルネックとして、国内金融市場が未成熟であるため、PPP参入企業や特別目的会社(注2)による長期資金の国内調達が難しい点を指摘した。カザフスタンPPPセンターのマムラエフ副所長はこの指摘が同国のPPPにとっても課題でもあると述べた。

官民の仲介役としての援助機関の役割

JICAの木山理事は、「PPP事業における官民の役割分担に関し、経験実績が不足する政府の機能と能力を支援する観点から、援助機関の果たせる役割は大きい」との認識を示し、JICAによる積極的な取り組みをアジアにおける具体例に触れつつ説明した。また、PPP事業におけるリスクとして、用地取得などを挙げ、これらのリスクを事業の計画時に勘案する必要性を訴えた。

ポスト・ミレニアム開発目標セミナー

左から東ティモール財務省のロペス首席エコノミスト、JICAの小寺理事、モデレーターを務めたアルジャジーラのベロニカ・ペドロサ氏、UNESCAPのアクタール事務局長、DACのソールハイム議長

5月4日には「ミレニアム開発目標を超えて:Moving Beyond the MDGs after 2015」がADB、国連開発計画(UNDP)と国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)の共催で開催された。JICAの小寺理事、UNESCAPのシャムシャド・アクタール事務局長、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)のエリック・ソールハイム議長、東ティモール財務省のヘルダー・ロペス首席エコノミストの4人のパネリストが登壇。アジア大洋州地域におけるMDGsへの取り組みを概観し、ポストMDGsの国際的な議論に対するアジア大洋州地域の視点からの貢献や開発に必要な資金について議論した。

各パネリストは、民間からの資金フローの増大により開発協力における政府開発援助(ODA)の比重が長期低下傾向にあることを指摘しつつも、ODAが低開発途上国(LDC)や紛争脆(ぜい)弱国にとっては引き続き重要なリソースであることで一致。また、MDGsを総体的に評価しつつも、ポストMDGsに向けた多くの教訓、またグローバル化が進む国際社会における新たな開発課題に言及した。

UNESCAPのアクタール事務局長は、MDGsを「人々を開発の中心に位置付けることに成功した」と評価し、「シンプルで明瞭、かつ柔軟な目標設定」がこれに寄与したと述べた。また、ポストMDGsに向けては、MDGsの中で未達成な目標への継続的取り組みの必要性を述べ、新たな課題として「拡大する不平等」「相次ぐ紛争による不安定化」「自然災害や気候変動による脆弱性の増大」を挙げた。

DACのソールハイム議長は、MDGsの進捗(ちょく)を含めた過去20年間のアジアの社会経済発展を称賛し、世界に範を示していると主張。これらの成功には明確な政治意思と強い政治的リーダーシップが大きな役割を果たしたと指摘した。ポストMDGsに関しても、その実施には政治意思と政治的リーダーシップの存在が引き続き不可欠であり、共通の目標自体はむしろごく一般的なものでかまわず、その下で個々の国の状況に応じて国ごとの目標を設定するのが現実的であると強調した。

東ティモール財務省のロペス首席エコノミストは、紛争脆弱国の視点からMDGsとポストMDGsについて、こうした国々が開発に取り組む前提条件として「平和と安定」が欠けていると述べ、この視点をポストMDGsに反映すべきと主張。また開発を行う上でのガバナンス(統治能力)の重要性、具体的には能力を備えた公的機関の必要性を強調した。

ポストMDGsに対するJICAの視点を発信

JICAの小寺理事は冒頭、世界銀行などの報告によれば、途上国に流入する資金のうち今や民間からのフロー(海外直接投資:FDI)が60パーセントを占め、ODAなどの公的支援は1パーセントに過ぎないことを指摘。開発資金を取り巻く状況のドラスティックな変化を示した。

次いで、ポストMDGsに関しては、持続的成長が引き続き重要となるが、成長をより包摂性、耐性、環境持続性を持つものとすることが重要となること、受益国の当事者意識、包括的パートナーシップ、人間の安全保障に根ざした人間中心の開発がガイドラインとなること、課題設定には政治的リーダーシップが重要となることを強調した。

また、MDGs達成が遅れている保健分野でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の重要性を訴えるとともに、新たな課題として浮上している防災についてJICAの取り組みを紹介した。

フランス開発庁と持続可能な都市開発セミナーを共催

持続可能な都市開発の取り組みについて発表したJICA企画部国際援助協調企画室の丸山英朗副室長

JICAは5月2日、フランス開発庁(AFD)とサイドイベント「持続可能な都市開発のための計画とファイナンス:Planning and Financing Sustainable Urban Development」を共催。「持続可能な都市開発」は気候変動などと並び、ポストMDGsにおけるJICAとAFDの共通の課題であり、これまでも国際会議においてサイドイベントを共催してきた。また、フランスが2015年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)の主催国となることも念頭に置いてセミナーを開催した。

JICAの木山理事が冒頭、都市開発が目指すべき方向性について、「コンパクト」「スマート」、また「自然災害などのリスクに対する耐性の強化」をキーワードにスピーチを行った。この後、JICA、AFDがそれぞれ都市開発に関する具体的な取り組み事例を紹介。JICAは都市計画の視点から、AFDはファイナンスの観点から事例を織り交ぜて発表した。また、国連人間居住計画(UNHABITAT)の佐藤摩利子バンコク事務所長が加わり、都市開発における新たなアプローチの必要性とガバナンスの重要性を指摘した。

(注1)ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限である2015年以降の開発目標。
(注2)金融機関や事業会社などが有価証券を発行して資金を調達する目的で設立した会社のこと。