ヨルダン国事情

ヨルダン概要

ヨルダンの正式名称はヨルダン・ハシェミット王国で、イスラム教の開祖ムハンマドの子孫であるハーシム家を王家とする、立憲君主制の国家です。この地域は長くオスマン帝国の一部でしたが、第1次世界大戦の後にトランスヨルダン王国としてイギリスの委任統治下に置かれ、第2次世界大戦後の1946年に独立を果たしました。

ヨルダンの人口は約970万人(2017年世銀)で、面積は北海道とほぼ同じ大きさです。東西南北をイラク、サウジアラビア、シリア、イスラエル、パレスチナといった域内の強国や紛争当事国・地域に囲まれていますが、ヨルダン国内の治安は安定しており、中東地域の平和と安定において、ヨルダンは重要な役割を果たしています。

ヨルダンは天然資源に恵まれておらず、観光以外で、外貨を獲得できる産業もほとんどありません。しかし、ヨルダン政府は周辺地域での戦争や内戦から逃れてきたパレスチナ人、イラク人、シリア人などを多数受け入れ、ヨルダン国民と同じように扱い、教育や保健医療などの公共サービスを提供しています。一方で、人口に占めるUNHCR登録難民の数は14人に1人(2017年UNHCR)と、レバノンに次いで世界第2位となっており、これに伴う財政負担の増大が、現在のヨルダンにおいて大きな課題となっています。

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ヨルダン地図

ヨルダンの人々と社会

ヨルダンの人口は、2017年の統計で約970万人です。2000年の人口は約480万人であったため、20年足らずで2倍以上に増加したことになります。もともとヨルダン国民の半数以上は、中東戦争を逃れて移住したパレスチナ難民やその子孫であるとされていましたが、それに加えて、2004年のイラク戦争や2011年に勃発したシリア内戦を経て、イラク人やシリア人が多数ヨルダンに流入したため、近年の急激な人口増加につながっています。特にシリア難民の数は、ヨルダン政府によれば130万人を超える(UNHCR未登録者を含む)とされ、そのほとんどはキャンプ以外の街中で生活しています。

ヨルダンは14歳以下の若年層が国民全体の約35%を占め、国民の平均年齢が22.8歳(日本は47.7歳)(2017年CIA)と、大変若い国です。初等教育の就学率は97.5%(男子97%、女子98%)、15歳以上の識字率も99%以上(2017年UNICEF)となっており、ヨルダンの教育水準は近隣諸国と比較しても高いといえます。また、ヨルダン国民の平均寿命は74.3歳です(男性72.7歳、女性76.1歳)(2016年世銀)。

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アンマンの街並み

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ヨルダンの子供たち

ヨルダンは世界で最も水資源の少ない国の一つであり、首都アンマンにおいても、配水管を通じた給水は週50時間程度しか行われず、多くの市民はタンクに水を溜めて利用しています。また天然資源にも乏しく、エネルギーの95%以上を輸入に頼っています。そこでヨルダン政府は、潤沢な「資源」である太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーの開発を進めており、さらに近年は、アンマンを中心に電気自動車が普及し始めています。ヨルダン国内の自動車はほぼすべて日本や韓国、欧米からの輸入車ですが、ヨルダン政府の政策で電気自動車は輸入関税が免除されているため、比較的安価で購入できるようです。

ヨルダンの政治

ヨルダンの政治は立憲君主制で、アブドゥッラー2世・イブン・アル・フセイン国王が国家元首です。1962年生まれのアブドゥッラー国王は、先代のフセイン国王の第1子で、1999年に先代国王の崩御により王位を継承しました。議会は二院制で、上院、下院に分かれています。外交的には、アラブ・イスラム諸国と協調しつつ、欧米諸国とも良い関係を保っています。中東和平プロセスの推進役でもあり、1994年10月にイスラエルとの和平条約に署名し、同年11月に外交関係を樹立しました。イスラエルとの和平条約に署名したのは、アラブ諸国の中ではエジプトに次いで2ヶ国目です。

ヨルダンの経済・産業

ヨルダンの1人あたりGNIは3,980米ドル(2017年世銀)で、世界銀行の基準では低位中所得国に分類されています。ヨルダンに際立った産業や輸出製品はありませんが、ヨルダン政府は、国内のペトラ遺跡や死海、ワディラム砂漠、ジェラシュ遺跡といった観光資源を活かした観光産業に力を入れています。特に、質の高い死海コスメブランドは人気があり、2017年には直営店が日本でもオープンしました。さらに、約79万人のヨルダン人が湾岸諸国を中心とする外国で働いているとされており、GDPの10%以上を占める彼らの海外送金が国際収支を支えています。

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ワディラム砂漠

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ペトラ遺跡

2000年代のヨルダン経済は年率5%以上の高い経済成長を実現しており、特にイラク戦争後の混乱を避けて移り住んだイラク人を中心とした投資活動と、湾岸諸国からの投資があいまって経済は過熱気味になっていました。しかし2008年の世界的金融危機の影響で経済は落ち込み、また、2010年代のアラブの春やシリア内戦、ISISの台頭などの影響から観光産業が大きな打撃を受けたため、外貨収入が激減しました。その一方で難民の流入によりヨルダン政府による公共サービス(教育、保健医療、給水、廃棄物処理など)の負担が増しているため、現在のヨルダン政府の財政は危機的な状況にあります。

経済の低迷を背景として、労働者全体の失業率は18.4%に達しており、中でも15歳から19歳は47.7%、20歳から24歳は37.6%(2018年ヨルダン政府統計局)と、若年層に関して特に雇用問題が深刻です。また、大学卒業者の失業率の高さや、男女間の雇用格差も問題となっています。