バングラデシュ 火力発電所 維持管理能力向上研修

左よりアシュガンジ発電会社、機械エンジニア、Mr. Bashar Md Khairul(バシャールさん)、同Mr. Hossain Mohammad Pias(ピアスさん)、アシュガンジ発電会社、機械エンジニア、Mr. Rahman Mahmudur(ラーマンさん)

研修コース名: バングラデシュ 火力発電所 維持管理能力向上研修(エンジニア)  
研修期間:2018年1月14日から2月17日まで、2018年10月8日から11月10日まで

近年経済発展が急速に進むバングラデシュでは、年平均約6%の経済成長を記録しています。それに伴い電力需要も年々増加しており、供給量を増やすため電源開発計画が策定されています。しかし、既存電源の約63%を担う火力発電所の発電がそもそも効率的と言えないのが実情で、火力発電所の維持管理改善のために本研修が実施されました。この度、2017年度と2018年度に来日し各々約1か月間の研修を受けた帰国研修員より、活動報告がありました。

知識があれば挑戦できる

ポンプ分解点検の実習。
関西電力茨木研修センターにて。

バングラデシュの発電所での作業風風景

発電所では驚くほど多くの種類の機械が使用されており、それぞれがうまく動作することで発電されています。そのため、発電所の維持管理に関する研修の内容は多岐にわたります。タービン・ボイラーの構造、回転機械をずれのないように接合する技術、振動の原因を見つける技術、溶接部分の強度を確かめる非破壊検査…などなど。バングラデシュでは、こういった技術的な講義や実習をエンジニアが受ける機会がほぼ無いということで、研修員にとっては貴重な機会です。アシュガンジ発電所のラーマンさんは言います。「これまで私たちエンジニアは機械に問題が起きても何から直せばいいのか不確かでした。でも日本で学んでからは、自信をもって問題解決に臨んでいます。学んだ知識があるので、どのポイントを確認すればよいか分かっているからです。今では機械の不具合を自分への”挑戦”と思えるくらい、余裕を持って取組んでいます。」

研修では、このように機械を扱う際の直接的な技術だけでなく、効率を上げるための「持続可能なマネジメント方法」も学びました。例えば、不具合があれば調べ、原因を分析し、それを記録することが重要です。記録があれば再発した時の修理に参考にできるだけでなく、その情報を元に将来の不具合を予測し、未然に対応できるからです。そしてこの一連の作業が通常作業として組み込まれ、自ずと情報が蓄積されていく制度をつくることが重要です。このような考え方も、研修員にとっては新鮮だったようです。バングラデシュ発電会社のピアスさんは、「これまでは不具合があっても、周りの関係者少人数しかそれについて知りませんでした。原因については特に共有されていなかったです。でも、学んだマネジメント方法はとても役に立つと思ったので、帰国後上司に報告し、職場で事故や不具合について記録する体制を作り、記録を取り始めています。」と報告してくれました。

安全第一・整理整頓

遊んでいるのではありません。安全ベルトの体への負荷を体感する安全体感訓練です。関西電力茨木研修センターにて。

アシュガンジ発電所内の工具置き場。きちんと整理整頓されています。ビフォー・アフターの「ビフォー」写真は「とんでもないので見せられない」そうです。

TBMの実習風景。これから行う作業に関し予知できる危険についてディスカッションしています。
関西電力茨木研修センターにて。

アシュガンジ発電所にてTBMを実践する作業員。

日本では当たり前とされている「安全第一」も、開発途上国では予算不足などの事情から後回しにされがちです。バングラデシュでは一般的に「安全は贅沢」と思われているようで、必ずしも全員がヘルメットや絶縁手袋、安全靴などの個人用防護具をつけられる訳ではありません。発電所内の安全管理について組織横断的な委員会がチェックするということも行われていないケースが多いようです。また、「安全第一」の一環として職場を清潔に整頓した状態で保つことも大切です。整理整頓されていれば、うっかり転倒を避けることができるだけでなく、必要な工具を迅速に用意することも可能になるなど、作業員の安全を確保できるだけでなく作業効率も上がります。安全対策や整理整頓は面倒なように思われがちですが、最初にしっかりしておけばあとは効率良く楽に作業できる。「急がば回れ」の考え方も含め、研修では実習を交えて安全対策の具体例を学びました。

中でも、Tool Box Meeting(TBM作業前ミーティング)は研修員に人気の活動でした。TBMとは日本では発電所に限らず多くの建設業や製造業の現場で行われているミーティングです。通常、作業前に作業員が集まり、メンバーの体調確認、これから行う作業プロセスの確認、各プロセスで起こりうる危険予測・事故予防策について、参加型で話し合います。これを行うことで、作業員一人一人の安全意識が高まるだけでなく作業手順の確認もできるので、事故や間違いもなく作業を進めることができ、結果的に効率アップにつながります。

「日本での研修を受けてから、安全に対する意識が変わりました。TBMは毎日実施しています。安全に配慮すると仕事も効率よくできるので、発電所の同僚や部下に安全の意識を高める努力をしています。」とアシュガンジ発電所のバシャールさん。最初は新しい取組みになかなか理解が得られなかったそうですが、徐々に発電所の管理職の人々がこの作業をサポートしてくれるようになったとのこと。組織ぐるみの取組みにつながっているようです。

ご安全に

現地調査で帰国研修員と再会する関西電力の皆様と帰国研修員。バングラデシュ・アシュガンジ発電所にて。

研修期間中、日本語講習を受ける機会もあり、簡単な挨拶程度なら日本語で話せるようになった研修員の皆様。閉講式の最後の挨拶は「ご安全に!」でした。これは、鉄鋼業界をはじめ、製造業、電力会社など、“危険な作業を伴う現場”を持つ業界で、広く日本国内で使われている挨拶。研修員と関西電力の発電所見学に行った時も、現場職員の方々がこの挨拶をされているのが印象的でした。安全対策は確かに効率アップにつながりますが、何よりもまず重要なのは、一人の尊い命を守るということ。お互いが尊重しあって相手の無事を祈る気持ちが伝わる、素敵な言葉だと思いました。

このバングラデシュ火力発電所維持管理能力向上研修は2017年度から2019年度の3年間、関西電力株式会社 火力事業本部の皆様のご協力により実施されました。この度フォローアップのためバングラデシュに現地調査に行っていただき、帰国研修員からの報告を届けてくださいました。ご協力に大変感謝致します。
帰国研修員の今後の益々のご活躍を心から応援しています。ご安全に。

業務第二課 大井