長期研修員の地域理解プログラム「関西企業の発展から学ぶ」を実施しました

2020年3月16日

2020年2月27日(木)・28日(金)に関西地域の大学院で学ぶ、JICA長期研修員(留学生)を対象に地域理解プログラムを実施し、14人が参加しました。JICA開発大学院連携*の一環として、地域理解プログラムは日本各地の特色ある開発経験等を長期研修員に伝え、研修員の日本理解を深めることを目的にJICA国内機関が実施しています。今回のテーマは、明治維新後の関西経済を発展させ、日本の近代化に貢献した企業家の業績をたどり、関西地域の産業発展の歴史を理解することです。特に大阪は、旧首都である京都の近くに位置しながら、商人の街として独自の文化が栄えた場所です。今日、日本を代表する世界的企業の中には、大阪で発祥した企業も多く、日本の経済成長・近代化を支えてきた重要な地域と言えます。開発途上国から来て日本の大学院で学ぶJICA研修員に、関西企業の歴史や日本の発展における役割を学び、開発の知見を深めてもらうため、2日間の日程で講義や企業・施設訪問をしました。
*「JICA開発大学院連携」は、開発途上国の未来と発展を支えるリーダーとなる人材を日本に招き、欧米とは異なる日本の近代の開発経験と、戦後の援助実施国(ドナー)としての知見の両面を学ぶ機会を提供します。

明治維新後の関西の発展から学ぶ

企業家ミュージアムにて

1日目の午前中は歴史街道推進協議会のご協力を得て大阪・神戸の近代化、日本人の経営思想に焦点をあて、研修員は以下の様な内容の講義を受けました。
・大阪の産業振興の原点は、政府主導の近代的工業政策であるものの、当時の官営工場で習得した生産技術を基に従業員が独立創業するなど、徐々に機械産業、繊維産業をはじめとした民間企業の設立が増加し、現代の大阪の産業集積を形成していった。
また、大阪の近代化の過程では、近代的設備、新しい知識を導入して創設された造幣局(1869年)の役割も関西の工業振興に大きく寄与した。
・神戸は明治維新後の開港を契機に、海外との貿易・交流によって発展していった。貿易振興により、紅茶やシルクをはじめとした物資が海外から輸入され、造船、鉄鋼技術が発展することに伴い、神戸の近代化が進んだ。
・近江商人の「三方良し」の経営哲学は、日本人の経営思想の根底にあり、今日の多くの関西発祥の企業の経営理念にもつながっている。

1日目の午後は講義で受けた内容を踏まえ、プログラムでの学びを具体的に体感するために2グループに分かれ、視察しました。

パナソニックミュージアムの前で

【経済・経営コース】 訪問先:造幣局・パナソニックミュージアム
造幣局では、明治初期からの造幣技術の開発・向上に伴い、日本全体の近代工業及び文化の興隆に重要な役割を果たしたことを学びました。貨幣製造には高度な技術が必要になることから、海外からの技術者を雇用し、彼らから学んだ知識を活かし、独自で製造できるまでにいたった歴史についても学びました。
パナソニックミュージアムでは、創業者である松下幸之助の経営哲学を学びました。
研修員の中には、松下幸之助の創業当初からのことばである「物を作るより先に人をつくる」という従業員を大切にした経営理念が印象的であったと語る者もいました。

大林歴史館にて

【土木・重工業コース】 訪問先:大林組歴史館・カワサキワールド
大林組歴史館では、創業者 大林芳五郎の先見の明について知ることに始まりました。最初、呉服業を営んだもののうまくいかず建設業に転換。近代化の波に乗り、工場やトンネル、港など次々と大型工事を手掛け、関西のみならず日本の経済発展に貢献しました。また、東京の研究所では耐震構造にすぐれている建築素材 や環境にやさしい建築素材の開発、エネルギー効率の良いオフィスデザインなどの研究がされており、その探求心に研修員たちは感嘆していました。
カワサキワールドでは川崎重工の創業者 川崎正蔵と初代社長の松方幸次郎が多岐に渡る事業展開により日本の重工業の発展を支えた歴史を学びました。モーターバイクで世界的に知られる同社ですが、初期は造船業からはじまり、電車や飛行機、国産初の産業ロボット等の製造も行ってきました。
時代、社会の移り変わりとともに事業を拡大していった大林組、川崎重工の功績から、多くを学ぶことができました。

2日目のまとめの様子

2日目の午前は、1日目のまとめを行いました。
グループに分かれ、2コースそれぞれで学んだことを共有し、重要だと思えるキーワードを考えてもらったところ、「継続的な研究と進化」「環境への配慮」「イノベーション」「民間セクターの自治力」等が挙げられました。今回は、アフリカ、南アジア、東南アジアから12か国出身の研修員が参加しましたが、自国の事情や経験を踏まえた活発な意見交換が行われました。

参加した研修員のコメント

・関西地域の開発に関する知識を得て、どのように日本が、研究と教育に基づいた産業によって現在の国家を築いたかを知ることができて素晴らしかった。
・関西地域は多くの素晴らしい投資家と企業家によって開発したことを知った。
・第二次世界大戦、阪神淡路大震災の後、どのように企業が生き残ったのか、どのように困難を克服したかについても知りたい。
・日本も初めから卓越した技術を持っていたわけではなく、海外の製品、技術を積極的に導入し、そこから学び、継続して改善していくことによって発展していったということが自国の発展を考える際に有益であった。

コメントにもあるように、参加者は日常の大学での研究では学ぶことのできない、日本、地域開発のヒントを得ることが出来たようです。研修員のみなさんが本プログラムを通じて日本への理解をより深め、そこから得たヒントを自国の開発のために応用し、更に彼らの国々と日本との架け橋となって活躍されることを願っています。
今後もJICA関西は、関西ならではの歴史・知識を研修員に伝えるために、様々なテーマで地域理解プログラムを企画・実施していきます。