所長あいさつ

マーシャル諸島共和国におけるJICAの協力は、海外協力隊の派遣によるボランティア事業を中心として1991年に開始されました。同国の開発課題である教育、保健、経済、環境を援助重点分野と定め、当初の協力を展開してきました。2021年、本来であればマーシャル政府関係者やボランティア配属先の皆様と共に、海外協力隊派遣30周年を盛大に記念するはずでしたが、肝心のボランティアはコロナ禍により2020年3月に全員が離任を余儀なくされました。

それ以降、マーシャル政府は厳格な水際対策を実施することにより、現在に至るまでコロナ市中感染者ゼロの記録を継続しています。私も3週間に及ぶ検疫隔離に服した後、2022年2月1日に首都マジュロに着任しました。着任後、マーシャル政府関係者の皆さんにご挨拶差し上げると、かつてボランティアに数学や日本語を教わったことを懐かしそうに、そして誇らしげに語る方に多くお会いします。この国の人々の心の中に確実に協力の実績が刻まれている、そんなボランティア事業の意義を知るにつれ、一日も早くコロナ禍が終息し、マーシャルにボランティアが再派遣される平穏な日々が訪れることを願ってやみません。

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太平洋の小さな環礁国マーシャルは、最近では地球温暖化による気候変動の影響を最も受けやすい国の一つとして取り上げられることも多くなってきています。マーシャルは台風の通り道からは外れているため、大規模な自然災害がこの国を襲うことはあまり考えられませんが、大潮の満潮時には海水が護岸を超えて道路にまで及ぶことがあります。こちらの人々はこれを「King Tide」と呼び、事前の警報により注意を呼び掛けていますが、海面上昇の実態を肌で感じることが年々増えてきています。

気候変動の影響に対して、当地で実施可能な緩和策は限られています。地球温暖化の原因の多くは、大洋州以外の地域で発生しているからです。そのため日本政府およびJICAでは、「マジュロ貯水能力改善計画」といった無償資金協力や、技術協力プロジェクト「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト2(J-PRISM2)」を適応策として実施してきています。これからも、この国が美しい海に囲まれた環境の中で、伝統と国際化を両立しながら人々の生活の質を向上させる協力を続けていきたいと思います。

マーシャルには親日家の方も多く、日本人だと分かると親近感をもって話しかけていただくことも多くあります。私は、これまでJICA関係者が国際協力を通じて築いてきた友好と信頼関係の下で、マーシャルの国づくりに寄与できることに誇りと幸せを感じています。

2022年3月
JICAマーシャル支所長
鵜飼 彦行