ニュースリリース

インド政府向け円借款契約の調印

−日本の鉄道技術の海外展開と、気候変動対策、生物多様性保全に貢献−

2012年03月29日

【写真】

調印式の様子

1.国際協力機構(JICA)は、3月29日、インド政府との間で、2件、総額1,342億8,800万円を限度とする円借款貸付契約に調印しました。

2.インドは1991年以降、経済改革に取り組み、特に2003年以降はおおむね年間7〜9パーセントの経済成長率を達成してきました。インド政府は、国家開発計画である第11次5ヵ年計画(2007〜2011年度)において、「Faster and Inclusive Growth」を目標として掲げ、迅速な成長(Faster Growth)による経済の拡大と、すべての人々が恩恵を受ける成長(Inclusive Growth)の実現を目指してきました。その結果、2010年度も8.4パーセントの高い経済成長率を達成するなど、成長著しいBRICsの一員として注目を浴びています。しかし、その一方で、インドは2009年に国別二酸化炭素(CO2)排出量で世界第3位となっており、気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)(注)などの国際会議においても存在感を示すようになってきています。

(注)2011年11月28日〜12月11日に南アフリカ共和国ダーバン市で開催

3.2011年12月に行われた日印首脳会談では、野田総理よりデリー・ムンバイ産業回廊構想(DMIC)事業に対する総額45億ドルの支援が表明され、シン首相からはインドの高速鉄道システム開発への日本の関心の高さに対し歓迎の意が表明されるなど、今後の日印の経済関係および経済協力の強化を盛り込んだ共同声明が発表されました。今回の円借款の貸付契約は、この首脳会談で野田総理がシン首相に支援を表明した円借款案件2件、総額1,342億8,800万円を実現するものです。

4.このたび調印した円借款の特徴は以下のとおりです。
(1)日本の鉄道技術を生かし、インドの都市問題の解決に貢献
2011年12月の日印首脳会談に引き続いて、2012年1月には前田国土交通大臣がインドを訪問してトリベディ鉄道大臣と会談を行い、高速鉄道分野における両国間の協力を加速化するため、ハイレベルの協議体の設置で意見が一致するなど、日本の鉄道技術の海外展開が進められています。

JICAは、政府によるトップ外交とも歩調を合わせつつ、長期的な視点から、日本の優れた鉄道技術やノウハウを生かした包括的な支援に取り組んでいます。これまでに、デリー、バンガロール、コルカタ、チェンナイの地下鉄建設や、デリー・ムンバイ間を結ぶ貨物専用鉄道の建設などの支援を進めてきました。また、日本の工事現場での安全対策、車両のメンテナンスや運行管理能力などのノウハウを移転するため、日本での研修や専門家の派遣を行ってきました。その結果、適切な工期管理や安全対策などの日本ならではの文化をインドにもたらしてきました。さらに、今度の高速鉄道分野における協力の可能性を検討すべく調査・研修を実施するなど、鉄道分野への継続的な取り組みを展開しています。

デリーでは、これまで「デリー高速輸送システム建設事業」と「デリー高速輸送システム建設事業フェーズ2」によって市中心部から放射線状に伸びる路線網を整備してきました。このたび円借款を供与する「デリー高速輸送システム建設事業フェーズ3」では、主に内環状線および外環状線を整備することで、「デリーメトロ」のさらなるネットワーク化を実現します。フェーズ3で計画されているすべての路線が開通すれば、約1,117万人の通勤・通学人口を抱えるデリー首都圏の大部分をカバーする交通ネットワークが構築されることになります。

(2)気候変動対策、生物多様性保全に貢献
「デリー高速輸送システム建設事業フェーズ3」において納入される地下鉄車両には、先行事業であるフェーズ2に引き続き、日本で活用されている省エネ技術である「電力回生ブレーキ」が導入される予定です。電力回生ブレーキは、ブレーキ作動時に地下鉄車両のモーターを発電機として利用して列車の運動エネルギーを電力に変換するシステムで、通常の車両を用いた場合に比べて約33パーセントの電力が節約される見込みです。「電力回生ブレーキ」の導入によって、先行事業に引き続き、本事業もクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトとして国連CDM理事会に登録される予定です。

また、「西ベンガル州森林・生物多様性保全事業」は住民参加型の植林活動や森林管理の強化、保護区管理体制の強化や野生動物の生息環境の改善等を通じて、森林生態系の改善と生物多様性の保全を図ります。植林活動を通じ、温室効果ガス(GHG)の排出量の削減に資するだけでなく、植林は災害からの国土保全にも効果があることから、気候変動の緩和と適応の両方に貢献します。さらに、第11回生物多様性条約締約国会議(COP11)は2012年10月にインドのハイデラバード市で開催される予定であり、インドにおける生物多様性保全に対する取り組みと日本の支援による成果にも注目が集まることが期待されます。

5.2012年は日本とインドの国交樹立60周年の節目の年です。インドに進出する日本企業も現在では800社を超え、この4年でおよそ2倍となるなど、日本とインドの関係は近年急激に強まりつつあります。JICAは対インドODAにおいて、円借款による施設等の整備に合わせて研修を通じた人材育成を行うなど、有償資金協力、技術協力、無償資金協力の3スキームを有機的に連携させ、今後もインドの経済成長と貧困削減に対して機動的に取り組んでいきます。

(参考)借款金額および条件

案件名借款金額
(百万円)
金利
(%/年)
償還期間(年)据置期間(年)調達条件
本体コンサルティング・サービス
デリー高速輸送システム建設事業フェーズ3127,9171.40 0.013010一般アンタイド
西ベンガル州森林・生物多様性保全事業6,3710.65*0.014010一般アンタイド

*地球環境案件(省エネルギー、森林保全、代替エネルギー)には、開発途上国の環境問題への取り組みを積極的に支援するため、緩やかな貸し付け条件を適用しています
基準:金利0.65%/年、償還期間40 年・据置期間10年、
オプション1:金利0.55%/年、償還期間30 年・据置期間10年、
オプション2:金利0.50%/年、償還期間20 年・据置期間6年、
オプション3:金利0.40%/年、償還期間15 年・据置期間5年

(1) デリー高速輸送システム建設事業フェーズ3
Delhi Mass Rapid Transport System Project Phase 3
(a)事業の背景と必要性
インドでは近年急速な都市化が進み、自動車および二輪車の登録台数が急激に増加している一方で、公共交通インフラの整備が遅れています。特に、デリー、コルカタ、チェンナイ等の大都市では、道路交通需要の拡大に伴う交通渋滞が重大な問題となっており、経済損失や大気汚染・騒音等の自動車公害による健康被害が深刻化しています。そのため、交通渋滞緩和および都市環境の改善を図るための公共交通システムの整備が必要となっています。インド政府はこの課題に対応するため、第11次5ヵ年計画(2007年4月〜2012年3月)において、400万人以上の人口を有する都市では、安全性・エネルギー効率・社会環境保全の観点からも高速輸送システムの整備を推奨しています。

デリー首都圏の人口は1991年の942万人から急激に増加し、2011年には1,675万人(暫定値)に達しており、さらに2021年には2,432万人に達すると見込まれています。それに伴い自動車登録台数も急増し、市内主要道路における平均時速は約15キロメートルとなるなど、交通渋滞が深刻化しています。一方、用地不足から道路網の拡充が難しいため、バスなどの既存の公共交通の輸送能力を増加させるのは難しく、交通渋滞緩和および自動車公害対策のために、1997年以降「デリー高速輸送システム建設事業」および「デリー高速輸送システム建設事業フェーズ2」を通じて整備してきた大量高速輸送システムの路線網のさらなる拡張が、デリー準州政府の都市交通政策・都市環境問題対策の大きな柱となっています。

(b)事業の目的と概要
本事業は、インドのデリー首都圏において、総延長約103キロメートルの大量高速輸送システムを建設することにより、増加する輸送需要への対応を図り、もって交通混雑の緩和と交通公害減少を通じた地域経済の発展および都市環境の改善、ならびに気候変動の緩和に寄与することを目的としています。借款資金は、土木工事、電気・通信関連工事、車両調達やコンサルティング・サービス等に充当されます。

(c)事業実施機関
デリー交通公社 (Delhi Metro Rail Corporation Limited)
住所: Metro Bhawan, 13, Fire Brigade Lane, Barakhamba Road, New Delhi-110001, India
Tel: +91-11-2341-7910, Fax: +91-11-2341-8416

(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
(i)事業の完成予定時期:2020年10月(全車両納入完了時をもって事業完成)
(ii)コンサルティング・サービス(施工監理等):コンサルタント選定手続き中
(iii)本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:車両パッケージ(Rolling Stock Package:RS-10)
予定時期:公示済

(2) 西ベンガル州森林・生物多様性保全事業
West Bengal Forest and Biodiversity Conservation Project
(a)事業の背景と必要性
インド東部に位置する西ベンガル州は人口密度がインド国内で2番目に高い州であり、生活に必要な薪炭材等のための違法伐採が絶えず、森林資源に対する圧力が著しく、森林の量・質共に課題を抱えています。西ベンガル州では、国および州政府事業として共同森林管理(JFM)など、森林保全のための取り組みを実施してきており、森林被覆率は増加傾向にありますが、国家平均の23.8パーセントと比較しても17.4パーセント(2007年)と、いまだ低水準にとどまっており、また疎林率の観点からも改善が必要とされています。貧困率も国家平均より高く、貧困層の多くはいまだ森林に依存した生活を送っているため、地域開発を進めつつ適切な森林管理を行っていく必要があります。

西ベンガル州は生物多様性ホットスポット(国際NGOのコンサベーション・インターナショナルが指定している、多様な固有の生物が住む生物多様性が豊かな場所でありながら、その生態系が著しく破壊の危機に瀕している地域)であるヒマラヤ高山帯を有する北部から、ベンガル湾に面する南部までその地形は多岐にわたり、25ヵ所の保護区(国立公園や野生生物保護区等)を有する生物多様性の豊かな州です。特に、インドゾウやベンガルタイガーなど、絶滅危惧種も数多く生息しており、稀少種の保護という観点からも重要な地域といえます。しかしながら、近年ゾウやトラなどの野生動物と人間の接触被害が深刻な問題となっており、接触防止体制の強化が必要となっています。

(b)事業の目的と概要
本事業は、インド東部西ベンガル州において、住民参加型の植林活動を通じて森林管理の強化を図るほか、保護区および周辺地域において、人間と野生動物の接触被害防止策や野生動物の生息環境の改善に取り組みます。また、地域開発・生計向上活動を行うことで、地域住民の社会経済的状況を改善するとともに、これらの活動支援に必要な森林局の活動基盤の強化・整備を実施します。これにより、適切な森林保全および生物多様性保全活動が持続的に実施され、同地域の環境保全、均衡のとれた社会経済発展、さらに気候変動の緩和および適応に寄与します。借款資金は、植林活動、生物多様性保全活動、地域開発・生計向上活動、森林局活動基盤整備・強化、コンサルティング・サービスなどに充当されます。

(c)事業実施機関
西ベンガル州森林局(West Bengal Forest Department, Government of West Bengal)
住所:Aranya Bhawan, LA-10A, Block III West Bengal, Kolkata 700098, West Bengal, India
TEL:+91-33-2335-7751

(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
(i)事業の完成予定時期:2020年3月(全活動終了時をもって事業完成)
(ii)コンサルティング・サービス(施工監理など)招聘状送付予定時期:2012年4月
(iii)本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:本事業では、国際競争入札による調達はありませんが、事業実施のため、逐次、国内競争入札などによる調達が行われる見込です。