monthly Jica 2006年12月号

特集 エネルギー 未来を照らし出す光(3/3ページ)

PROJECT in Nigeria(ナイジェリア)
未電化村に明かりをともす太陽光発電

国民の7割が暮らす農村の9割が未電化というナイジェリアで、JICAによる開発調査「太陽エネルギー利用マスタープラン調査」が行われている。太陽光発電による農村電化にはどのような壁があるのか、マスタープランに盛り込まれる提言とは。

太陽エネルギーで遠隔地の農村を電化

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街路灯の下に集まる子どもたち。夜の闇に潜む暴漢やヘビ、サソリなどの恐怖から解放された

「副業のミシンかけやマット編みが、夜でもできるようになったわ」「夜出かけるとき、以前は懐中電灯を使っていたけれど、あまり明るくないし電球もよく切れる。街灯はその点ありがたい」・・・。初めて村に電灯がともり、夜の生活が一変したと喜ぶ住民の声。

ここは、サハラ砂漠が迫るナイジェリア北部の農村、ガリコン・アリ村。都会から遠く離れたこの村は、送配電網から取り残され、夜の照明は灯油ランプに頼っていた。

ナイジェリア全体の電化率は35%ととても低い。特に、国民のおよそ7割が住む農村部では、9割の住民が未電化の生活を送っている。こうした地域ではエネルギー源を薪(たきぎ)に依存するため、女性や子どもたちが薪集めのための労働を強いられ、森林の減少につながっている。また、診療所では医薬品の保冷ができない。

ところが、すでに電化された町から延々と電線を伸ばしたり、新たに発電所を建設したりするのは、財政が苦しい政府にとって現実的ではない。そこで注目されるのが、太陽エネルギーだ。赤道に近く、日差しに恵まれたナイジェリアでは、太陽光発電(PV)による電化は有望な手段の一つといえる。

実際、ナイジェリア政府は遠隔農村地域を対象として、PVを含む再生可能エネルギーを利用したエネルギー供給計画を立てており、新たに電力を導入する人たちの10%を再生可能エネルギーで供給する計画だ。そこで、同政府は太陽エネルギー利用促進のための提言を盛り込んだマスタープランの作成をJICAに依頼し、2005年7月から20カ月の予定で開発調査が行われている。

冒頭の村人の声は、この調査のパイロットプロジェクトで、PVシステムが試験的に設置された村の住民の声だ。彼らの意見は、マスタープランの大切な“糧”となる。

住民参加型の電化を目指す

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電化されたモスクでイスラム学校の授業を受ける女の子たち

この開発調査では、ナイジェリアの電力事情や村落の電化ニーズなど多岐にわたる調査を行い、これまで電気のなかった3つの村でパイロットプロジェクトを実施している。村にはそれぞれ80戸の住宅、10本の街路灯のほか、モスクや教会、クリニックなどの公共施設にPVシステムが設置された。初期費用はJICA持ちだが、スペアパーツ購入などのための維持管理費として、一般家庭からは月に400円程度を徴収している。

集金は、プロジェクト実施に当たり、村に設立した住民による村落電化委員会が担う。簡単な修理なども委員会のメンバーができるよう、調査団はマニュアルを作成し、研修も行った。システムの運用が始まって数カ月たった今、料金の滞納はなく、維持管理も順調だ。

この調査の目的には、既存の太陽エネルギー研究所に対する助言も含まれており、調査を通じてナイジェリア人に技術移転を行い、将来は自分たちの手でPVシステムを啓発・普及する力を付けることも目指している。

PV普及の壁とは

「PVは普及するにつれてコストが下がるが、ナイジェリアではまだ普及が進んでいないため初期導入費用が高くつく」と話すのは、配電計画担当の小川忠之さん。「また、電化をどうやって収入活動に結び付けるかも重要。維持管理のためのお金を住民が支払っていかなければならないから」。

調査団が村の一般住宅に設置したPVシステムの初期費用は、およそ10万円。年収が4、5万円ほどしかないガリコン・アリ村の住民にとって、補助金なしではとても手が出ない金額だ。また、PV機材が国内で生産されていないため、輸入にかかる高い関税もネックとなる。

「PV普及の方策として、政府による補助金の設定や輸入税の撤廃、PV機材のリースシステムについての提言も盛り込む」と、マスタープランの一部を明かす調査団長の西川光久さんは、世界各地で地方電化に取り組んできたベテランだ。彼は、「メンテナンスというカルチャーが不足している村の人々に、いかにそれを根付かせるかがカギ」とも言う。

村落の調査で村人の声を集めた浦本三穂子さんは語る。「電化された村の人は『何でも明るく見えてうれしい』と言う。報告書にはいろんな分析を書くが、これが一番のメリットだと実は思っている。私たちだって暗いところにはいたくはないですものね」。

調査期間もわずかとなり、来年2月に提出する最終報告書の作成に向けて、9人からなる調査団は各地で詰めの作業を行っている。

Expert's View
専門家に聞く エネルギー問題と国際協力

エネルギー分野の世界的傾向は、途上国にどんな影響を与えているのか。ODAに求められることは何か。途上国各地で未電化村落を歩いてきたJICAの林俊行・国際協力専門員に、エネルギー分野における援助の難しさなどを聞いた。

1 途上国をとりまくエネルギー分野の傾向と課題とは?

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林 俊行(はやし・としゆき)
JICA国際協力専門員。1953年神奈川県出身。74年東海大学工学部卒。79〜81年青年海外協力隊理数科教師としてマラウイの未電化村落で活動。84年筑波大学大学院修士課程地域研究研究科修了後、東電設計(株)入社。89〜91年コーネル大学留学、地域学修士取得。95年3月より現職。専門は電力開発計画、地方電化、プロジェクト評価。99年から3年間、地方電化計画アドバイザーとしてマラウイ赴任。これまでバングラデシュ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、モンゴル、キルギス、アフガニスタン、オマーン、シリア、ヨルダン、ザンビア、ガーナ、シエラレオネなどで技術協力に携わる。「開発途上国における電力プロジェクトの経済評価:セミ・インプット・アウトプット・フレームワークの適用手法に関する考察」『地域学研究 第29巻第3号』(1999年12月)

今、世界的に続いている原油高や、産油国の紛争による供給不安、化石燃料が誘発する地球温暖化などの問題は、当然、途上国にも影響を及ぼしています。これらの問題を背景に、途上国でも注目されているのが、再生可能エネルギーの利用です。例えば、フィリピンやカンボジア、ザンビアなどでは、バイオフュエル(生物起源の燃料)というものが話題になっています。つまり、サトウキビの搾りかすから作ったエタノールをガソリンに混ぜて使おうとか、成長の早い木を育ててチップにし、それを加熱してガスを発生させ発電するという試みです。

エネルギーと経済発展との関係では、電力供給の問題があります。タイやインドネシア、フィリピンをはじめとするアジア諸国は、今後さらに発展しようとしているわけですが、例えばGDP(国内総生産)を3%伸ばすためには、電力供給を3%以上増やさないと達成できないというのが一般的な傾向なんです。つまり、経済発展しようとすれば、電力の供給増が必要になり、そのためには発電所を建設し送配電網を拡充しなければならない。

1990年ごろまで、JICAは水力発電や火力発電の技術協力をたくさん行っていましたが、90年代になって、一般の発電は民営化したほうがいいという流れになってきた。国営では効率がよくないんですね。だから、国営の電力会社を分割民営化し、供給増は民間の資金と技術でやっていこうというのが途上国も含めて世界的な傾向です。成長軌道にあるアジアの場合、この電力供給増をどう図るかが、今大きな課題なのです。

2 エネルギー分野でODAに求められていることは?

電力分野を民営化するという流れの中で、ODAの役割は何なのか。電力供給を増加するために水力発電所や火力発電所を造るには、ものすごく大きな資金が必要です。また、水力の場合はまず地点を探して、現地踏査を行い、実施できるかどうかを調査・分析して、実施可能であれば詳細設計に入り、やっと建設が始まるのですが、完成までに10年以上かかるのが普通なんですね。火力発電所も大規模な場合は、計画から建設が終わるまで早くても5、6年はかかる。それだけ長い時間と大きな資金が必要なので、供給不足が発生しないよう将来の需要予測をきちんと行い、それに従った計画をつくらなければなりません。

その中でODAに求められるのは、そういう上流部分での計画づくりでしょう。大規模なインフラの場合、実施可能性調査や環境社会配慮などの調査は結構お金もかかるし、調査結果によっては建設できないとなるとやはり民間では難しいので、この部分はODAが支援すべきだと思います。

さらに、日本の得意分野でいえば省エネ。特に石油の消費量が急増している中国は、世界中で石油確保に奔走している状態ですから、日本の持つ省エネ技術は非常に役立つと思います。

3 村落における電化の難しさとは?

最近、ルソン島北部の山岳地帯の村に行き、まったく電気のない暮らしを体験しました。この村の人々のエネルギー源は、まさに自分の肉体です。35キロもある野菜の入った袋を担ぎ、山道を1、2時間も歩いて出荷する。精米は搗(つ)き臼に籾米(もみごめ)を入れて杵(きぬ)で脱穀・精米し、煮炊きは薪を使います。ほとんどの村では山からのわき水を使っていましたが、一つの村はわき水がなく川へ下りていって洗濯・沐浴(もくよく)などをしていました。

このように煮炊き用エネルギーと飲み水・生活用水は生きていく上で必要不可欠ですが、実は電気はもともとなければないで生活していくことは可能です。電気を使うためには屋内配線をして電気器具を購入しなければならず、結構お金がかかります。だから食べるだけで精いっぱいのようなところを無理に電化してもあまり効果はありません。しかし、電気があるかないかで生活の質がまったく違ってくる。例えば、電気がないと夕食の支度などの家事や用事を明るいうちに済ませる必要があり、夜の時間を有効利用できません。また、教師や医療従事者は町で高等教育を受けているので電気の便利さを知っており、電気のない村落には行きたがらないのです。

これまで未電化の村落に太陽光発電システムなどを設置する援助がいくつか行われてきましたが、なかなかうまく普及しませんでした。援助で機材を設置するだけだと、後の維持管理もドナー頼りになってしまい、結局は定着しにくいのです。大切なのは、住民のオーナーシップを喚起し、住民だけでは対応できない問題を地方政府や中央政府につなぎ、太陽光発電や小水力発電などの維持管理と料金徴収をモニタリングし支援する体制をいかにつくるかが、村落電化の重要な課題です。つまり下からのエンパワーメントと上からのグッドガバナンスが必要とされています。

一方、民間主導で需要に基づいた太陽光発電が普及しているところもあります。代金を払える人たちがシステムを購入し、広まっていく。まさに市場の機能です。その場合、補助金や関税の免除など、政府は普及のためのメカニズムをどう作っていくかが問われています。