所長あいさつ

JICAセネガル事務所はアフリカ大陸最西端の7ヵ国を担当する地域の拠点事務所です。各国の人口規模は必ずしも大きくはありませんが、7ヵ国を合わせれば人口5000万人の経済圏です。さらに、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はこれら7か国を含む西アフリカ15か国から構成されており、既に共通関税制度を構築、将来的には共通通貨制度の導入も目指しています。ここまで射程を広げれば、3億人超の人口を抱える巨大な共通経済圏が広がることになります。この巨大経済圏のポテンシャルを最大限に発揮させるためには、地域全体の平和と安定を確保することによって、円滑な域内貿易や人の往来、資本移動を促進し、地域経済全体を活性化させることが重要です。JICAセネガル事務所は、アフリカ大陸の最西端から、近隣事務所とも協調しつつ、こういった取組を支えていきます。

セネガルの大きな特徴は、1960年の独立以来クーデターや内戦が一度も発生していないことでしょう。選挙による政権交代を積み重ね、アフリカでは数少ない安定した民主主義国家のひとつとなりました。また、「テランガ」と呼ばれるこの国のホスピタリティの精神も、セネガル社会の連帯ひいては安定を支えています。

こうした政治・社会の安定を背景に、セネガルはアフリカの中心国のひとつとして確固たる地位を築き、多くの海外投資を呼び込むことによって、綿花や落花生を主要作物とした農業国からサービス業を中心とした経済に変貌しました。また、2023年からは天然ガス・石油開発も予定されており、2030年の中進国入りを目指し、近年目覚ましい成長を遂げています。他方、経済発展に伴い、首都ダカールとそれ以外の地域、特に農村部との格差は拡大傾向にあるとも言われています。さらに、COVID-19の蔓延が経済社会活動を停滞させ、また、2022年4月現在、ウクライナ危機による物価上昇や食糧危機も懸念される中、特に脆弱層の生活基盤は常に脅かされています。これら様々な危機の連続はセネガルを特徴づける経済・社会の安定を損なう恐れもあり、セネガル政府とともに人々の生活を支える支援を着実に行っていくことが不可欠と考えています。

セネガルが抱える課題が高度化、複雑化するにつれて、JICAの展開する国際協力も大きく進化してきました。JICAは1980年に首都ダカールに事務所を構え、最初の青年海外協力隊員(JOCV)3名の派遣を開始しました。JOCVの派遣のために発足した当事務所も、今では、技術協力や無償資金協力に加えて民間連携事業や有償資金協力も手掛けるようになり、草の根の取組から大規模なインフラ開発まで、幅広い事業を行っています。

JICAは、経済成長の促進と包摂的な社会サービスの提供のバランスが取れた開発を目指し、港湾の機能化や電力網の安定、海水淡水化施設の整備を通じた飲料水の提供といった社会インフラの整備、稲作や水産を中心とした農林水産業の開発、教育や保健・医療サービスの質の向上といった課題に取り組んできました。同時に、若者の雇用やジェンダーといった課題横断的なイシューにも配慮しています。また、これらの優先分野を中心に、民間企業の進出支援や引き続き海外協力隊の派遣にも取り組んでおり、今後は、これに加えて、デジタル化の推進等を通じた社会・経済サービスの高度化、効率化などの新しい課題にも積極的に対応していく予定です。

また、セネガル以外の6ヵ国(カーボベルデ、ギニア、モーリタニア、マリ、ガンビア、ギニアビサウ)も、いずれも個性豊かな特徴を持つ国で、JICAの重要なパートナーです。例えば、モーリタニアはタコの輸出大国。JICAはタコ漁を含む水産業の開発に長年にわたって貢献してきました。カーボベルデは観光資源に富み、欧州から多くの観光客を受け入れる島嶼国です。発電所・送電網や上水道といったライフラインの整備を中心に支援を展開しています。ガンビアはセネガルとの強いつながりも生かしつつ、農業等を中心とした協力を展開しています。ギニアビサウは政治的に不安定な状況が続き、2022年にはクーデター未遂も発生しました。いわゆる脆弱国支援の観点から、JICAとしてできることを検討していきます。

ギニアは豊富な天然資源に依存した経済構造の転換が課題です。2018年2月には首都コナクリに新たなJICAの拠点を開設し、上水道や道路・橋梁の整備のほか、保健、漁業といった分野で協力を展開してきました。しかし、2020年にクーデターが発生し、当面はその動向を見極めることが求められています。

サハラ砂漠の周縁(サヘル)に位置する内陸国マリは、特に2011年以降、サヘル地域における暴力的過激主義の蔓延、政治・社会の混乱とそれに伴う治安悪化に悩まされてきました。また、2度のクーデターを経て、政治的に不安定な状況が続く中、多くの国民の生活基盤が脅かされる状態が続いています。現在、JICAとしてできることは限られていますが、人々の生活を支える農業や教育を中心に、国の安定を支えるガバナンスの強化を軸とした支援を検討しています。

各国の規模が必ずしも大きくはない西アフリカ地域は、地域全体の発展を促す視点が重要です。この地域で平和と安定が定着し、社会経済基盤が安定することにより、ダカールを中心に多くの日本企業が参入し、さらに近隣国にもビジネスが拡大していく。それによって、国際協力と民間ビジネスの両面から西アフリカ地域と日本の良好な関係がさらに強化されていく、そういった環境を築いていくことがJICAの役割と考えています。

引き続き、JICAの活動状況や皆さんのお役に立つような西アフリカの生の情報を提供していきますので、皆さんからの積極的なご要望やご意見をいただけると幸いです。

セネガル事務所長
森下 拓道