プノンペン市の救急ケアサービスが向上!〜草の根技術協力事業プノンペン市西部救急医療人材育成プロジェクト終了〜

2011年1月25日

 2008年1月から2010年12月までの3年間実施されたプロジェクト、草の根技術協力事業パートナー型「プノンペン市西部地区低所得者層の人々の命を守るセーフティネット強化事業」(実施団体:特定非営利活動法人TICO)が終了しました。
 2010年12月26日。TICOが1997年から毎月1回開催している公開セミナー「地球人カレッジ」でこの3年間のプロジェクトの報告会が開催されました。

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地球人カレッジの様子。当日は30名近くの参加者が集まった。

 プノンペン市西部地区の公立医療施設において、保健省基準に基づく救急ケアサービス体制が強化されることを目標に、次の3つの柱を掲げて活動を行ってきました。
(1)プノンペン市の救急対応ガイドラインが、現状分析に基づいて開発される。
(2)医療従事者の救急対応に対する知識と技術が向上する。
(3)地域住民の初歩的救急対応の知識が普及する。

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ガイドライン配布活動:コンポントム州保健局前にて

報告会ではこの3つの活動について詳細な報告がありました。

【救急対応ガイドライン作成】
 保健省職員や医療従事者でワーキンググループを編成。当初、インドのガイドラインをクメール語訳するだけのガイドライン作成を考えていたメンバー。しかし、それは内容が古かったり、カンボジアでよくある症例が掲載されていなかったり。ワーキンググループと共に一から作成することにし、カラー印刷で写真もふんだんに取り入れ、全25章から成るガイドラインが完成。
このガイドラインの配布・使用は当初、プノンペン市に限ったものとしていましたが、保健省からの依頼もあり1,500部作成、カンボジア国20州4特別市の州保健局、病院、ヘルスセンター、警察などへ配布しました。
 また、ガイドライン完成に際し、JICAカンボジア事務所もメディアを使った広報に協力。カンボジア国営放送で完成報告、またWomen’s Media Centre of CambodiaのFM102のラジオ番組でも取り上げました。
保健省関係者によれば、今後は各地で開催されるセミナーなどで本ガイドラインを使用していきたいとのこと。5,6年後には改訂版を作成したいという声も挙がっているそうです。
作成途中では原稿が揃わなかったり、装丁、カラー印刷、写真撮影、予算などについてメンバーが喧々諤々話し合ってはみるものの中々意見がまとまらず、一時はどうなることかと思われたそうですが、それでもプロジェクト終了までに作成、完成、配布へとこぎ付けました。

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初期救急対応ボードを使った確認作業

【医療従事者に対するワークショップ】
 この活動は、プノンペン市西部地区の1病院5診療所の医療従事者を対象に、救急知識の普及と技術の向上を目指してきました。プロジェクトの要となる、医療従事者を対象としたワークショップは特に力が入った活動でした。
 本プロジェクトマネージャー(2009年4月から2010年12月まで)の渡部 豪医師は、四半期に1回、カンボジアを訪れ、対象の6医療機関から2名ずつ選出された、計12名の医療従事者に対する技術指導を行なってきました。この12名の医療従事者の知識や技術の向上とともに、今度はこの12名がそれぞれの職場である病院や診療所で同僚を指導する立場となること、また病院・診療所圏内の保健ボランティアの指導、村人に対して保健医療に関する啓発活動が行なえる人材となることも目標としてきました。本ワークショップによってスキルアップがはかられた医療従事者は、プノンペン市保健局や地域の工場、警察、伝統医療師養成学校などから依頼を受け、救急医療、応急手当に関するセミナーや講義の講師を務めるまでになったとのことです。得た知識や技術を自分たちで積極的に外に向けて発信していくその姿は、知識や技術の向上だけではなく、医師としての意識までも変わっていった証なのではないでしょうか。

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村でのワークショップ:患者を移動させる練習

【村人に対する初歩的救急対応の知識普及活動】
 このプロジェクトの成果を一番届けたい人たち。それは医療施設へのアクセスがこれまで十分に保障されていなかった村人です。知識や情報が入ってこないため、治る病気や怪我が治らない、救急車を呼ぶこともしない、できないことがあった人たち。
 プロジェクトでは村の中から保健ボランティアを選出し、初歩的な救急対応の知識普及活動のスキルを身につけてもらい、地域の診療所の医療関係者と一緒になって村人に対する啓発活動を行なってきました。
 救急車を呼ぶための電話番号や村でよくある怪我や突発事故などの対処法などを村人に知ってもらうことから始めました。
 報告会では、これまで伝統療法や風習に頼って治療を行なってきた人たちが、その習慣を変えることは容易なことではないと報告がありました。
 村人に対するワークショップや啓発活動は、今後も地域の人たちの力で継続していきつつ、TICOとしてもフォローアップが必要と感じているとのことでした。

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クモイ村でのワークショップの様子

 プロジェクトマネージャーの渡部医師は、「2007年8月、プロジェクト開始前、初めてカンボジアを訪れた時には、患者が居ても自分からは歩み寄っていかなかった病院・診療所職員が、この3年間で患者との接し方が変わり、職場環境を改善しよう努力している。見違えるように変わっていった。これが何より嬉しい。
また、日本では当たり前に享受できる救急搬送システムや医療保険制度をカンボジアで構築させることは容易い事ではないが、必要なこと。しかし、今、1人1人ができることから取り組み、改善していくことはできる。TICO(日本人)が頑張るのではなく、このプロジェクトが、カンボジアの人たち自らが、自分事としていく礎になったのなら嬉しい」とコメントがありました。

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村での調査:TICOカンボジア現地スタッフ(右)

 草の根技術協力事業としての活動は終了しますが、TICOは今後も引続き、本邦研修や現地での技術指導は継続していく予定とのことでした。

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