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宍戸健一・前スーダン駐在員事務所長に聞く

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すべてのスーダン人に平和の配当を届けるために

7月の独立に向けて国づくりが進む南部スーダン。南北境界付近で油田のあるアビエイ地区の帰属や油田の利権、債務の分配など、独立を巡る課題は山積している。2007年7月から約3年9ヵ月にわたり、スーダンの首都ハルツームに駐在し、先頭に立って南北スーダンの支援に当たってきた宍戸健一・前スーダン駐在員事務所長に、これまでの苦労や今後の課題について、鈴木規子広報室長が聞いた。

人材育成の重要性に対する理解

―2005年1月に締結された南北包括和平合意(Comprehensive Peace Agreement:CPA)から6年間の移行期間があり、これまで、その大半を目にしてきたと思いますが、一番苦労したことは何でしょうか。

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「青年海外協力隊の派遣や技術協力の実施が長い国に比べ、スーダンでは日本の支援に対する理解を得るのに時間がかかる」と宍戸前所長

2007年7月に、スーダンに事務所を開いた際、その立ち上げが最も大変でした。2人でスタートしましたが、現地スタッフを探し、事務所を維持していくことに大半の時間が取られました。次長が着任するまでの2年間は、私自身が、経理業務や現地スタッフの給与計算などを担当していました。その合間を縫って省庁を回ったり、要望調査を書いたり―。案件形成に時間が取れるようになったのは、赴任から1年後、5人体制になってからです。

赴任当初、ユニセフのスーダン事務所長と、連携事業の打ち合わせをする機会がありました。話が大体終わったところで「後は担当者同士で話し合いましょう。JICAの担当者は?」と聞かれ、「私です」と答えたところ、「本当に担当者はいないのか」と何度も聞かれ、「一体、何人で仕事をしているのか」と同情されたこともあります。

省庁との関係構築も一からのスタートでした。JICAの協力方法は自立支援を哲学にしており、ほかの援助機関に比べてユニークだと見られています。スーダン側からは「プロジェクトの維持管理費や政府スタッフの給与や旅費を(通常は援助機関が負担するのに)JICAは出さない」「日本人専門家の数を減らして、もっと機材を入れてほしい」などと不満が噴出しました。そういうことが聞かれなくなったのは、プロジェクトが始まって専門家が派遣され、1年以上たって成果が見え始めてからです。

―プロジェクトにおける日本人専門家の意義や役割などが評価され始めたということでしょうか。

スーダンは長期間にわたる内戦で物不足を経験しており、目に見える機材や建物に執着するところがあります。一方で、中国などが援助として安い機材を持ってきたけれども、結局うまく動かない、修理もできないといった問題にも気づき始めています。そのため、人材育成や能力向上の重要性について、日本人専門家が入って変化が見られるようになると、徐々に理解を示してくれるようになりました。

南部スーダンの中の格差

―南部独立といっても、いろいろな部族がいて、内戦中も国内に残って頑張っていた人、CPA後に海外の避難先から帰ってきた人とさまざまで、これから、南部スーダン内での経済的・心理的格差の是正が難しい問題になりそうですが。

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「南部スーダン内の格差を解消しないと、住民の不満が高まって新たな紛争が起きかねない」と鈴木室長

これまではアラブ勢力という、南部スーダン全体として対立する相手がいたわけですが、それがなくなった途端、問題は南部内での配分にすり替わります。そういう中で、私たちに何ができるかというと、地方開発です。開発レベルに極端に差がついている南部スーダンの中心都市・ジュバとそれ以外の地域の格差を解消することで、住民の不満を和らげ、南部スーダン内での紛争防止に貢献できるからです。

この6年間でジュバの人口は、約20万人からおよそ70万人にまで膨らみました。プレハブが多いですが、ホテルやレストランも増え、開発調査の地図は、2年ごとに作り直しても追いつきません。一方、地方は物流環境が悪く、都市間の道はでこぼこで、舗装道路は町の中のごく一部だけです。雨季は多くのトラックがぬかるみにはまってしまい、物流のコスト、リスクともに高くなります。そういう状況で私たちにできることは限られますが、地方の人々の不満はかなり高まっており、できるだけ、目に見える変化を示していかなければなりません。

南部スーダン発展の可能性

―南部スーダンは、石油収入があるのが強みですが、これからは、どうやって経済全体を底上げしていくかが課題ですね。石油以外では、農業などにも潜在的な可能性はあるのでしょうか。

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2009年3月に開始された「ジュバ生計向上プロジェクト」の試験圃(ほ)場。野菜作りなどで現金収入を得ている

石油以外に産業として成立する可能性があるのは二つ。一つは鉱物資源です。まだ、きちんとした調査はされていませんし、採算性があるかどうかもわかりませんが、スーダン政府によると、日本が求めるようなレアメタルなども豊富だそうです。

二つ目は、農業です。というのも、食料が不足していて、現在、約40パーセントの人が国連世界食糧計画(WFP)などの食料援助を受けています。南部スーダンの年間降水量は、少ないところでも800ミリから1,000ミリで、多いところでは1,500ミリぐらいになり、農業生産を行うには十分です。しかも、ナイル川が中央を流れていて、その周辺が湿地帯なので、湿地帯での稲作も可能性があるといわれています。これまでJICAは、生計向上を目的に、農業よりもどちらかというとコミュニティー開発に力を入れてきましたが、食料増産を目的とした農業支援も重要だと考えています。

国づくりに対する支援

―食料安全保障に対する協力以外には、どのような支援をしていくのでしょうか。

昨年から、南部スーダンの独立を見越してさまざまな会合が開かれています。昨年の秋、南部スーダン政府と支援国が集まって、独立した場合に各国がどんな支援をするかを話し合ったのですが、JICAは、税関とメディア、地方行政などの分野に取り組む方向を打ち出しました。

メディア支援には二通りあって、いわゆる民主的な報道と放送技術です。南部スーダンは、識字率が約30パーセントで、交通網も整備されていないため、新聞は主要なメディアではありません。多くの人は所得が低く、電力事情も悪いので、テレビの普及も限定的です。当面、普及の可能性があるのはラジオで、今、南部スーダン議会で公営ラジオ放送を設立する法案が審議されています。公正中立が保たれるメディアを育てていこうというわけですが、JICAは、機材供与などのハード面とそれを扱える人材の育成を併せてやっていこうと考えています。

昨年、トライアルとして、ジャーナリスト向けの民主化セミナーをジュバで開催しました。橋本敬市JICA国際協力専門員に、ユーゴやルワンダでの経験や、それぞれの国の社会構造が民衆に与えた影響などについて語ってもらったのですが、これが好評でした。今年5月には、ジャーナリストや情報省の代表を対象にした日本での研修を実施しました。

―税関支援では、どのようなことをするのでしょうか。

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スーダンとウガンダの国境の町・ニムレ。税関スタッフとともに国境付近の状況を視察した

ケニア税関と協力し、スーダン人の研修を実施します。南部スーダンは事実上、東アフリカの経済圏に入るので、ケニアは南部スーダン支援に非常に関心を持っています。日本から専門家が派遣されているケニア歳入庁の研修センターが、南部スーダンの幹部職員研修を引き受けてくれることになり、3月中旬から2週間、ケニア第二の都市モンバサで研修が実施されました。さらに、現場の税関スタッフは、元戦闘員(ゲリラ)が多く、研修などを受けたことがない人がほとんどです。ジュバに建設中の研修施設で税関業務の基礎やパソコンの研修などを実施して、円滑な税関業務を目指します。

なぜ税関支援が大事かというと、CPA移行期間の6年間、歳入の98パーセントが北部から分配される石油収入でした。つまり、南部スーダン独自の歳入はわずか2パーセントということです。税関収入は、少なくとも年間10億円以上にはなると見られていますが、体制が整っていないこともあって、まだ徴収すべきものが徴収できていません。南北スーダンの間にも国境ができますし、物流をよくするためにワン・ストップ・ボーダー・ポスト(OSBP)(注)などの取り組みも必要になってくると思います。

(注)国境の税関、出入国管理、検疫などの手続きを行う2国間の施設を統合し、共通処理システムを導入して、越境手続きを迅速化するための仕組み。

南北スーダンの共存共栄を目指して

―南部スーダンの独立には、国境線や債務の分配、北部に残っている南部の人の国籍など問題が山積みですね。

一番大きいのが、南北境界付近に位置し、油田を有するアビエイ地区の問題です。和平協定では、北と南のどちらに帰属するかを住民投票で決めることになっていますが、まだ投票は実施できていません。アビエイには、定住している部族と遊牧民がいて、年間を通して住んでいる部族だけを対象に住民投票をすると、南部の領土になることはほぼ間違いありませんが、遊牧民も含めると、北部の住民が過半数を超えるといわれています。そのため、遊牧民を住民として数えるかどうかでもめているわけですが、アビエイにはスーダン全体の油田の約3割が集中していて、この地域が北部のものになるか、南部のものになるかで、北部スーダンの歳入は10パーセントぐらい違ってきます。この問題を仲裁しているアフリカ連合(AU)や国連からも、遊牧民の自由な移動を認めるとか、この地区をさらに分割するなどの案が出されていますが、南北政府ともこの問題では妥協しないので難しいようです。

しかし、アビエイで採掘された石油は、北部の領土を通っているパイプラインで紅海に運び、海外に輸出するしか方法がなく、南部スーダンは、油田を持っていてもパイプラインのバルブを閉められてしまったら輸出できません。それに、紛争に逆戻りすると開発が進められなくなるので、南部スーダンは、北部とは友好的な関係を保ち、うまく交渉を進めたいと考えています。

これは北部も同じで、国家収入の60パーセントが石油収入ですが、南部の独立によって、パイプラインの使用料を差し引いても国家収入の約30パーセントを失うことになります。しかも、ダルフールの問題(注)を抱えているという事情もあります。政府は、これまでガソリンや小麦、砂糖に補助金を出してきましたが、債務の問題を含めて北部政府の財政は非常に厳しいため、今年1月からこうした補助金は一切カットされ、途端にパンやバス料金が値上がりして通貨も下落しました。

(注)2003年にスーダン西部のダルフールで、二つの反政府勢力と政府軍との紛争が勃発。約30万人の死者と数百万人の難民・国内避難民が発生し、現在も続いている。

―人々の生活が厳しくなったことで、チュニジアから始まった北アフリカの政変による影響はなかったのでしょうか。

スーダンの場合は、高学歴の失業者が少ないことやバシール大統領に代わる人望ある指導者がいないこともあって、政変の影響は今のところ受けていません。ただ、ダルフールの反政府勢力は、これまで周辺国に資金面で支えられていて、中でもリビアは反政府勢力関係者をかくまったりしているという報道もあります。一方、スーダンも隣接する国の部族に武器を流していて、この地域では、「敵の敵は味方」といった形で、政府と隣国の反政府勢力が互いに水面下で支え合っているともいわれています。表面だけを見て民族紛争だといわれていますが、実際には、住民の不満を利用した政治問題なのです。

緒方貞子JICA理事長は、南部スーダンが不安定だと、いろいろな勢力が入ってきて地域全体の足を引っ張ることになるので、きっちり支援しなければならないとよく話しています。

―南部が独立するには、多くの障害がありますが、南北スーダンの融和というか、南北間の信頼醸成についても気配りしながら支援していかなければなりません。

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2007年8月に緊急開発調査で整備したジュバ河川港。その後、非常に物流が増え、拡張工事のための無償資金協力が実施される予定

欧米は、ダルフール紛争を理由に、主に南部スーダンしか支援していませんが、日本は、できるだけ南北がうまく共存できるように支援しています。南北双方に利益がある協力の例としては、2007年夏に竣工したジュバの河川港整備があります。現在、中国などが南北スーダンをつなぐ道路の建設を始めていますが、完成には、まだしばらくかかります。そのため当面、大きな荷物はナイル川を利用して船で運ぶということになります。また、近いうちに、無償資金協力で、ジュバの河川港の桟橋を200メートルぐらい延長する事業が始まる予定ですが、こういう南北を結ぶインフラ整備は、南北共通の利益になると思います。

スーダン(北部スーダン)は、国際社会、特に欧米の報道では悪者として扱われることが多いのですが、彼らにも長引いた紛争は自分たちだけの責任ではない、和平協定を結ぶに当たって大きな妥協をしたのに、国際社会はそれを評価してくれないという不満があります。北部スーダンの開発も十分でないところが多く、中長期的には資源や食料などの面でも日本にとって重要な国ですから、きちんと支援していかなくてはならないと思っています。

―南部スーダンが独立するにあたり、JICAの事務所の体制はどうなるのでしょうか。また、JICAの支援はどのように変わっていくのでしょうか。

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プレハブ構造の南部スーダン・フィールドオフィス。2009年2月に完成した

現在、北部のハルツームにスーダン駐在員事務所があり、南部のジュバにはプロジェクトの運営拠点となるフィールドオフィスを置いていますが、南部スーダンの独立を踏まえ、JICAの体制についても強化する方向で検討が進んでいます。事業の規模もかなり大きくなっていて2010年度の南北スーダンの事業費は、技術協力で20億円を超える見込みで、2011年度はさらに増える見通しです。これは、アフリカの技術協力としては、かなり大きな規模となります。

南部スーダンは、石油収入があるので、我慢強く、根気強く取り組んでいけば、時間はかかっても少しずつ変わっていける可能性があります。一方で、経済や教育などの格差が大きいと社会が安定しにくいので、地方開発によって都市部だけでなく国民全体の生活向上を進めていくという姿勢を示したり、中長期的に初等教育を支援する姿勢を打ち出したりして紛争予防に資する形で進めていかなければなりません。政府と住民の間の信頼を築くということを考えたときに、政府を通した援助が人々に実感されるということが、平和構築において大きな意味を持つと思います。

多くの人にさまざまな社会サービスが行き届くまでには、相当、年月がかかると思います。わざわざ日本が、お金をかけて地方開発まで支援しなくてもいいのではないかという意見もありますが、「すべてのスーダン人に平和の配当を届ける」というメッセージを送るという意味でも、地方のすべてはできないけれども、まずは1ヵ所、2ヵ所と、少しずつでも粘り強く援助を届けていくことが大事なのではないかと思います。

<プロフィール>
宍戸健一(ししど・けんいち)
JICAアフリカ部参事役。前JICAスーダン駐在員事務所長。1986年に旧国際協力事業団(現JICA)に入団。本部、インドネシア事務所、森林環境協力課長などを経て、2004年よりガーナ事務所長、その後、国内勤務を経て、2007年7月から2011年3月までスーダン駐在員事務所長を務めた。兵庫県出身。
鈴木規子(すずき・のりこ)
JICA広報室長。1981年に旧国際協力事業団(現JICA)に入団。本部、マレーシア事務所などを経て、1996年、外務省へ出向し、ニューヨークの国連代表部に約2年勤務。帰国後、本部勤務の後、スリランカ事務所長、マレーシア事務所長を歴任。2010年5月より現職。東京都出身。

広報室広報デスク 西本知佐子

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