川野善道・元シニア海外ボランティア(SV)
ハリケーン、津波などの災害に襲われ、甚大な被害を受ける開発途上国は少なくない。そうした国々において、気象情報を国民にわかりやすく伝えることは、防災面においても重要だ。(財)日本気象協会で30年に及ぶキャリアをもつ川野善道さんが2回目のシニア海外ボランティア(指導科目・気象予報)の活動を終えて4月上旬、ドミニカ共和国から帰国した。現地では、ドミニカ国民への気象情報発信源である気象庁、マスコミに対する指導から、同国初の気象年鑑の発行など、さまざまなアプローチで気象を国民にわかりやすく正しく伝える活動に携わった。元お天気キャスターの経験ももつ川野さんの“伝える”技術とはーー。
−よく通る声で、さわやかな話しぶりですね。また赴任地では「まるでドミニカ人だ」といわれるほどなじまれていたそうですね。
カリブ海の太陽の下、日焼けして顔が黒くなったことも影響しているのでしょうね(笑)。明るい挨拶と笑顔が私のモットー。そんな風に接していると、「まるでドミニカ人のようだ」と現地の人たちがいってくれるのです。私にとって最高のほめ言葉ですよ。ドミニカの国民性は一般的に明るく開放的です。私は首都サントドミンゴの気象庁が派遣先でしたが、カウンターパートたちとも気が合いました。
私は36年間、(財)日本気象協会に勤めていました。80年代は、仕事の一環として地方の放送局のニュース番組で気象解説を行っていました。お天気キャスターとして全国的に初めて有名になった森田正光さんは名古屋時代の私のよい後輩ですよ。これら放送局などの経験を通して、私は視聴者の人たちに伝わりやすい原稿の書き方、話し方を学びました。さまざまな自然現象をわかりやすくうまく伝えられることができるようになったのも、この時の経験が大きいと思います。
グロリア気象庁長官(左から2番目)ら、カウンターパートと発行された防災パンフレットを手にする川野元SV
−活動の中で力を注いだ1つが、ドミニカ国民向けにわかりやすく気象情報を伝えること、でした。
ええ。私がこの国に赴任してまず気づいたことは、新聞の気象記事やテレビのお天気コーナーは古い情報が多く、誤報もあることでした。気象情報を国民に広める大きな手段はマスコミですから問題だと思いましたし、こうした状況は気象庁、マスコミ双方に原因があることもわかりました。気象庁では情報提供に慣れていないこともあり、またマスコミが個別バラバラに気象庁に来て取材を行っていくため、記者が誤解して原稿を書いても気象庁がチェックする手だてがない。そこで、私は気象庁のカウンターパートに気象予報の作成法とともに原稿執筆の指導を行いました。いまでは彼ら自身が毎日、気象原稿を作成し、マスコミ各社に提供できるようになっています。また、マスコミ関係者にも適時レクチャーを行い、気象情報をより正確に把握してもらうよう努めてきました。
気象庁には社会科見学でさまざまな人が訪問する。写真は地元の日本人補習校の子どもたちとともに気象庁の正面玄関の前で
−また、作成された防災パンフレットは、マスコミ関係者のみならず一般市民にも配布したそうですね。
ドミニカは毎年、ハリケーンが何度か通過し、たとえば1998年の「ハリケーンジョージ」では死者282人を含む大被害が発生しました。一般的に開発途上国では住民は生きることに精一杯で警報の認識が薄いと思います。ドミニカの災害弱者となる僻地ではテレビや新聞は普及していなくてもラジオをもっている家庭はあり、そうした家庭がラジオのない他の家庭へ情報を伝えるといった地域の連携が見られます。ハリケーンは突然やってきません。少なくとも数日前から接近していることはわかる。ラジオでハリケーン情報は適時流れますので、ハリケーンによる人災を最小限に食い止めることは、警報の意識を高めることで可能です。そのためには、ラジオ放送を聞いた市民が自分の住む地域がどんな危険状態にあるのかがわかる目安が必要ではないかと考え、ラジオ放送を聞いて住民が状況判断を正しく行なってもらうための防災パンフレットを作ったわけです。このパンフレットは学校や地域、気象庁を訪問した人たち、マスコミ関係者などに配布しています。このパンフレットはカウンターパートに技術移転を行いながら作成し、2006年度版、07年度版の制作費の多くはJICAの支援によるものでした。市民やマスコミの反応がいいので、気象庁では今後は自身の予算で作成していくといっています。
気象庁のデスクで勤務する川野元SV
−今年3月22日の「世界気象デー」では、ドミニカ共和国初の気象年鑑が発行されましたが、そのまとめ役としても活躍されましたね。
これまでこの国では国民向けに、ある程度まとまった気象情報の提供がなされてきませんでした。しかし、気象は、この国の経済を支える農業、観光といった産業、デング熱などの病気、洪水、干ばつといった災害などに大きく影響していますから、気象情報を記録し、一般公開していくことは、今後の生活情報としての位置づけともなり、さまざまな市民に役立つと思います。そうした私の考えはカウンターパートたちとも共有され配属機関以外の人たちの協力も得られ、無事気象年鑑の発行となりました。ドミニカ共和国おける初めての気象年鑑の発行だったため、マスコミ関係にも大きく取り上げられました。こちらの制作もカウンターパートを指導しながら私が中心となって進め、費用面ではJICAの支援をもらいましたが、気象年鑑に関しての技術移転も十分できたと思います。次年度以降は気象庁が中心となって作成、発行していく方針です。こうした私の活動が気象庁に根づき、ドミニカ国民に気象情報がわかりやすく伝わる一助になってくれたら、と願っています。ハリケーンなどの災害は、正しい知識があれば早期避難の判断に結びつき、やみくもに恐れる必要はありません。