ブラジル国際協力の担い手たち

Vol.2 治安改善はサンパウロから中米へ

【写真】

市南部の高台に広がるファベーラ地区。130万人が居住しているといわれる

2010年11月、リオデジャネイロのファベーラ(スラム)の麻薬組織と治安当局の激しい衝突が起こり、日本でもかなり詳細に報道されたことは記憶に新しい。ブラジルでは、州ごとに、交通・治安取締などの現場を担う「州軍警察」と、犯罪捜査などを担う「文民警察」の二つの組織がある。リオデジャネイロで麻薬組織と銃撃戦を行ったのは、同州の州軍警察を中心に連邦警察などが加わった警察組織だ。

ブラジルではかねて治安改善が大きな課題となっていたが、2003年、地域警察制度の導入が法で定められた。治安問題への取り組みが本格化したのは、2014年にサッカー・ワールドカップ、次いで2016年にリオデジャネイロ・オリンピックの開催が決定したことが大きい。

「世界一危険な地区」の犯罪が激減

【写真】

1999年に開設されたラニエーリ交番には、日本とブラジルの国旗が象徴的に描かれている

サンパウロにもリオデジャネイロと同様、「ファベーラ」が存在する。治安対策に悩むサンパウロ州軍警察は、1997年から日本の交番を参考に、独自に地域警察制度を導入していた。JICAは2000年からこのサンパウロ州軍警察の交番制度をベースにした「地域警察制度導入」に対し協力を行っている。町中をパトロールするだけだった警官が、地域ごとに設けられた交番に常駐することによって地元との信頼関係を築き、ひいては治安改善に結びつけようという試みだ。

【写真】

ラニエーリ交番開設当初から12年勤務するビエラ所長。弁護士の資格を持つ所長は、交番で法律相談を行うこともある

1995年当時、国連から「世界一危険な地区」というありがたくないお墨付きをいただいていたサンパウロのファべーラのラニエーリ地区(推定人口約5万人)。交番が設置された1999年から勤務するミルトン・ビエイラ・ダ・シルバ所長によると、「当時は地区内で殺人事件が月に40〜50件発生するような状況で、警官は『恐い』『信頼できない』と、住民に敬遠される存在でしかありませんでした」という。住民と警察は互いを不信の目で見ていたのだ。所長らは警察広報紙を作成して住民に配布することから始め、自ら住民の間に入っていき、その後も手探りで信頼関係を築く試みを続けた。

【写真】

交番には地域の人々に開放されたスペースがある。設置されたパソコンを使いに近所の子どもたちがやってきた

やがて交番には、住民からさまざまな要望や相談が寄せられるようになった。スラムには、行政の支援もきちんと届いていない。そこで交番自らが行政への相談窓口としての機能を設けたり、祭りやサッカー教室開催などチャリティにも力を入れるようにした。

こうした活動が実り、ラニエーリ地区では、2000年度に408件あった殺人事件が、2009年度には89件にまで減少した。また、ラニエーリ交番自体も、2010年3月、英国警察庁により「世界で最も成果を上げた地域警察ベスト5」として表彰を受けたという。

サンパウロ州内には現在268の交番、34の駐在所、263の移動交番(注)が設置されている。州内の殺人事件の発生件数も、2008年には人口10万人あたり10.7件と、1999年から7割減少した。プロジェクトではサンパウロ州内での交番システムの定着に続いて、成果のブラジル国内への普及も試みている。同時に日本・ブラジルパートナーシッププログラム(JBPP)の枠組みで、治安改善に悩む中米諸国に対しても第三国研修を行い、交番制度の域内への普及に努めている。

(注)災害現場や雑踏警備などに対応できる車両による「交番」。

ブラジルだからこそできること

【写真】

カストロ大佐は「これでいいという終着点はない。社会とともに警察も変化していかなければ」という。州内では、レベル別、分野別に何度でも研修を受けられるように工夫しているそうだ

JICAとサンパウロ州軍警察では、これまでエルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラスの中米の5ヵ国に対して協力を行っている。州軍警察の人権・地域警察部長で地域警察部門の責任者であるルイス・デ・カストロ・ジュニア大佐によると、中米諸国は1980年代から内戦を経験した国が多く、人々と警察の間に信頼関係が築かれていないという点においては、まさに交番導入前のサンパウロ州と同様の状況であるとのことだ。「これらの国々の警察関係者が一番求めている情報は、地域住民との間に信頼関係を築くノウハウなのです。だからこそ、私たちが協力する意義があるのだと考えています。われわれが試行錯誤しつつ生み出してきた成果を伝えていきたい」と、自信に満ちた表情で語る。

サンパウロ州軍警察も10月29日の記念式典で感謝状を受け取った組織の一つ。2011年には、JBPPの枠内で、中米諸国に対する新たな支援がスタートする予定だ。

広報室広報デスク 谷田直子