高橋尚子さんがオフィシャルサポーターとしてミャンマーを訪問(2012年1月)

政治犯の釈放や経済開放、民主化のニュースが連日メディアを賑わせているミャンマー。長く軍事政権下に置かれてきたこの国は、一体どんなところなんだろう、人々はどのように生活しているんだろう、そんな疑問を胸にQちゃんこと高橋尚子さんが、1月、ミャンマーを訪れた。

高橋さんは「スマイルアフリカプロジェクト」のフロントランナーとして、2009年からケニアで子供たちに靴を届ける活動を展開。JICAも青年海外協力隊員らを通じて、現地での靴寄贈に協力しており、その縁で2011年9月、JICAオフィシャルサポーターに就任していただいた。

今回のミャンマー訪問は、就任以降、初めての途上国視察。「日本で得られる限られた情報・ニュースからはうかがい知れないミャンマーの姿を知り、日本の方々に伝えたい。日本とミャンマーがより近づくための糸口を見つけられれば」と意欲を見せた。

手話でコミュニケーション

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活気のあるヤンゴンの街中

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ミャンマー初訪問の高橋尚子さん

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聾学校で授業を視察する高橋さん。算数の授業で子供たちも元気いっぱい

JICAのプロジェクト視察として初めに訪れたのは、ヤンゴンで実施中の「社会福祉行政官育成プロジェクトフェーズ II」。これは、障害者に対するケアがまだ行き届かないミャンマーで、ろう者の社会参加を目指し、「手話通訳者」の育成に当たる手話指導者の能力向上のために行われているプロジェクトだ。

高橋さんは、プロジェクトの小川美都子専門家が活動する聾学校「メアリーチャップマン」を訪問し、ろう者の子供たちを対象とした授業のほか、自立支援の一環として実施されているマッサージや縫製などの職業訓練も視察した。

生徒の子供たちに「学校や勉強は好き?」「みんなどんな夢や目標を持っているのかな?」と笑顔で話しかける高橋さん。子供たちからは、以前は家族ともコミュニケーションを図れずにいたが、聾学校に通いだしたことで、家族や友人とコミュニケーションをとれるようになったことが嬉しい、画家やエンジニアなどの夢や目標を持つようになった、と明るい返事が返ってきた。「子供たちがみんな目を生き生きと輝かせていて、聾学校に通うことで彼らの可能性が広がっていることが伝わってくる」と語る高橋さんの表情も、また喜びに満ちていた。

学校では、高橋さんもろう者の皆さんと一緒に手話トレーニングに参加。自己紹介や家族に関する手話を学び、「耳が不自由でも、手話という言葉でコミュニケーションできますね」とコミュニケーションの楽しさを共有した。

プロジェクトでは、ろう者と聴者間のコミュニケーションの促進に加え、災害情報などを伝えるテレビや医療現場などでの手話通訳の実現を目指し、JICAの支援が続いている。

リハビリでいつか走れるように!

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脳性麻痺でリハビリ中の患者にエールを送る

ミャンマーでは医療リハビリテーションのサービス範囲が大都市に限られており、その受益者も、500万人いるとされる障害者全体のわずか1.8パーセント程度と推計されている。こうした状況を受け、JICAは2008年から、国立リハビリテーション病院で、脳性麻痺や脊髄損傷などの患者を対象とした理学療法士の訓練や、サービスの質向上に関係する病院システムの向上、関連機関との連携強化を目的としたプロジェクトを実施している。プロジェクト開始から4年目を迎えた同病院では、リハビリテーションの技術が向上するとともに、患者の容体も改善され、受入れ患者数も伸びるといった効果が挙がっていた。

院内で大澤諭樹彦専門家と共にリハビリの様子を視察した高橋さんは、プロジェクトにより症状が改善された脳性麻痺や脊髄損傷の患者たちとも会話し、「自分もマラソンを始めた当初は弱い選手だったが、毎日毎日努力し続けたことで世界一になった。だから努力し続けることを忘れず、いつか走れるようになるまで頑張ろう」とエールを送った。

日本人の目の届かないところで地道な支援

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養殖プロジェクトで収穫した魚が今日の給食

ヤンゴンから北に135キロに位置するバゴー地域。ここでは、住民の栄養改善と農家の生計向上を目的としたJICAのプロジェクト「小規模養殖普及による住民の生計向上事業」が行われている。

養殖が行われている小学校を訪れた高橋さんは、プロジェクトの高橋信吾専門家の案内のもと養殖の様子を視察し、視察後は、生徒たちと一緒に収穫したばかりの魚を試食。「日本の人たちの目の届かないところで、食にかかわる地道な支援をしていることを知り、日本人としてこうした支援を誇りに思った。日本の人々にもっと知ってもらいたい」と語りました。

日本とミャンマーが連携して水を確保

飛行機でヤンゴンから北に1時間。マンダレー地域のニャンウーは、乾燥地帯で年間を通じて安定した水の確保が課題となっている地域だ。高橋さんが次に訪れたのは、2006〜2009年にJICAが実施した「中央乾燥地村落給水技術プロジェクト」の現場。

プロジェクトで掘られた井戸を利用する村民に「JICAのプロジェクトにより、生活はどのように変わりましたか?」など積極的に質問を投げかける高橋さん。村民からは、以前は数キロ離れた川へ水汲みに行く必要があり、時間もかかって重労働だったが、プロジェクトで井戸ができてからは時間が短縮され負担が減ったこと、より衛生的な水を利用できるようになったことなどが挙げられた。

また、水管理委員会により誰がどれだけの量を井戸から取水したか記録をつけて管理されており、プロジェクト終了後も村民らによって適切に維持管理が行われている様子を見て、「プロジェクト終了後も、現地の人たちが自分たちの手できちんと井戸を使い続けているのは素晴らしいこと。日本とミャンマーが連携してプロジェクトを実施したことが何より意義のあることだと思う」と感想を述べた。

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高橋さんからランニング指導を受ける未来のランナーたち

今回のミャンマー訪問では、ヤンゴン体育学校や陸上ナショナルチームとも交流した高橋さん。「オリンピック」すら知らない陸上選手もいたが、金メダリストからの熱いエールとアドバイスをしっかり受け止めていた。

「障害者や貧困層など底辺に生きる人々に対する支援はとても必要なこと。日本では限られた情報しか入ってこないため、皆ミャンマーのことをよく知らないけれど、優しく穏やかで親切なミャンマーの人々と出会い、この国がとても好きになりました。今後ミャンマーが発展していく中で、人々の豊かさが失われないことを願います」と旅を締めくくった。