大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト J-PRISM Tonga活動概要

坂井友里江:トンガ担当廃棄物管理専門家(注1)
国際航業株式会社

(注1)坂井専門家は、トンガの他にJ-PRISMのフィジー国も担当。
トンガ国には年3回約1ヵ月単位で訪問し、現地政府の担当者に対し指導を行なっています。

1.プロジェクトの概略と背景

大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト(以下、J-PRISM)は、廃棄物管理分野での人材、制度面での能力向上を図り、域内の自立発展的な廃棄物管理を目指した、大洋州11ヵ国を対象とする5年間(2011年2月〜2016年2月)の広域プロジェクトです。

本プロジェクトの大きな特徴は、各国の廃棄物管理における個人・組織・社会の能力向上(キャパシティ・ディベロップメント)に焦点を置いている点です。その対象となる主役は現地政府の担当者とコミュニティ。彼らのイニシアティブをとことん引き出し、専門家がそれを側面支援することで、先方政府・コミュニティのプロジェクトに対するオーナーシップを醸成し、成果の持続性の担保を図っていくプロジェクトです。

トンガ国では、ババウ(Vava'u)島という人口1万5千人からなる離島の一つをプロジェクト対象地域とし、現地政府環境省・保健省以下の3つの成果の達成を目指して活動を行っています。

  1. 既存処分場施設の改善
  2. ごみ収集サービスの改善
  3. 長期的な固形廃棄物管理の基盤確立(廃棄物管理計画の策定など)

2.トンガ国ババウ島のごみ事情

ババウ島では、1日あたり20トンを超えるごみが発生していますが、処分場に持ち込まれているのはそのうち2トン程度にとどまっていました。ごみを収集するサービスが存在しないため、相当量のごみが家庭で野焼きされ、不法投棄も大きな社会問題となっていました。島内には一ヵ所、小規模な既存のKalaka処分場が存在しますが、村落(注2)やラグーンに面した立地にあり、火災発生による煙や悪臭、浸出水(注3)による周辺環境への影響が懸念されていました。また、廃棄物管理の責任・実施主体である保健省の廃棄物管理に係る年間予算は日本円で5万円程度でした。プロジェクト開始当初、適切な廃棄物管理体制の確立には財政的・人的・技術的にも様々な課題に直面していました。

(注2)改善工事前はラグーンを挟んだ対面に村落(Okoa村)から寄せられる苦情が絶えませんでした。

(注3)埋め立てたごみから発生する汚水

3.プロジェクト活動報告

成果ごとの活動の進捗状況は以下の通りです。

(1)既存処分場施設の改善

プロジェクトの第2年次(2012年7月〜2013年2月)にKalaka既存処分場の改善工事を実施しました。まず、ごみを敷地内の特定の場所に投棄するよう、古いごみを活用して堰堤を設置し、周辺との境界を明確にしました。また、水質汚染対策として、浸出水を集め処理する施設(注4)を設置しました。処分場に持ち込まれるごみの受入検査や搬入記録の管理等を行うための管理棟やゲート、有価物の分別搬入を行うためのリサイクル・ステーションの設置、さらには、処分場利用者に対し、運営日・時間を周知徹底させるための看板の設置やTV・ラジオ広報も行いました。また、他プロジェクト(注5)と共同で定期的に浸出水の水質モニタリングも実施しています。

2015年3月現在、工事完了後既に2年近くが経過しますが、火災や悪臭の発生頻度が激減し、良好な運営管理状況が維持されています。適切な処分場運営管理が維持されている成功要因として、次の2点が挙げられます。

1点目は、プロジェクトの開始以降、処分場の運営管理経費は一部プロジェクトが財政支援していましたが、2014年度より保健省が全額負担するようになったことです。保健省は、廃棄物管理の年間予算を4倍に増額し(日本円で約20万円)、ババウ開発委員会など関係省庁らからも協力を得ながら必要経費を確保しています。

2点目は、保健省の処分場担当者の処分場管理に対するオーナーシップの醸成です。彼は、改善計画の策定から工事の実施、運営管理に至る一連のプロセスに積極的に関わりました。工事終了後も定期的に処分場に赴き、状況確認と運営管理作業を責任をもって実施しています。

(注4)埋立区画内に有孔PVC管を設置し、区画内の傾斜を利用して表流水・浸出水を一ヵ所に集め、砂利・砂・ココナッツ皮を並べた簡易浄化施設を通して浸出水池へ流入させています。浸出水池の周りには広大なマングローブ林が広がっており、それらがもつ水質浄化機能も活用しているほか、最終処分場とラグーンとの間のバッファー・ゾーンとなっています。

(注5)オーストラリア国際開発庁(AusAid)・地球環境ファシリティ(GEF)・太平洋共同体(SPC)/南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC)が支援する統合型水資源・沿岸管理プロジェクト(Integrated Water & Coastal Management(IWCM))

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2011年7月の処分場概観
(プロジェクト開始時—改善前)

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2015年2月の処分場概観
(改善工事完了から2年後)

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運営作業監理を行う保健省の処分場担当者

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2011年7月の処分場全容(プロジェクト開始時—改善前)

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2013年2月の処分場全容(改善工事直後)

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2015年2月の処分場全容(改善工事完了から2年後)

(2)ごみ収集サービスの改善

ババウ島の行政機関(保健省)は、ごみ収集サービスに必要となるモノ(収集車両)・ヒト(収集作業員)・カネ(予算)をほとんど有しておらず、行政が収集サービスを実施するのは困難な状況でした。そこで、プロジェクトはババウ島のコミュニティが有する高いポテンシャルに注目しました。ババウ島内では、不定期ではあるものの、コミュニティ単位でごみを収集し、処分場へ運搬する活動を展開している地区がありました。収集車両は地区内の住民が所有するオープン・トラック(1.5〜3.0トン)を活用することで経費を抑え、住民がお金を出し合ってプールされたコミュニティ資金を運営コストに充てていました。

プロジェクトでは、これらのコミュニティの既存活動や社会文化を詳細に分析し、現地政府機関(保健省、環境省)(注6)や住民代表とも住民集会やワークショップを通じて何度も話し合いを重ね、コミュニティによるごみ収集システムがババウ島にとって持続的で、最適技術システムであると仮説を立てました。この仮説を検証するために、2013年9月より4つの地区でパイロット事業を実施しました。結果、コミュニティによるごみ収集システムの有効性と持続性が確認できたため、2014年度以降、他地区への同システムの普及・拡大が進められました。2015年3月現在、約10地区にてコミュニティによるごみ収集が展開中です。また、コミュニティはごみ収集に合わせて有価物(金属類)の分別回収を行い、リサイクル業者に持ち込み売却しています。コミュニティにおけるリサイクル活動の促進には、草の根技術協力「美ら島ババウもったいない運動プロジェクト」(2011年〜2014年)とも連携し、沖縄研修等を通じてリサイクル活動におけるコミュニティ・リーダーの育成を行った。

現在は、現地政府の担当者が中心となって、コミュニティが立案するごみ収集計画への助言、収集時のモニタリング、参加率や収集量などのデータ分析によるシステムの有効性の検証を行っています。

ババウ島のコミュニティによるごみ収集システムは、既存のあらゆるリソースを活用し、現地の社会的文化に適合し、現有するキャパシティで実施可能なシステムとして、トンガ国の他の離島のみならず、大洋州地域の他国においても大きく注目されています。

(注6)プロジェクトの実施機関は、保健省および環境省となっています。保健省は最終処分場の運営管理、環境省はごみ収集システムのコミュニティへの普及や廃棄物管理計画の策定を担当、両省の担当者のもつ強みを活かし連携しながら活動を進めています。

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住民集会

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コミュニティによるごみ収集

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コミュニティによるごみ収集

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コミュニティによるごみ収集

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コミュニティによるごみ収集

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環境省カウンターパートによるモニタリング活動

(3)長期的な固形廃棄物管理の基盤確立(廃棄物管理計画の策定など)

前述のように、ババウ島は離島であるが故に、行政機関の財政的・人的・技術的にも様々な制約があります。行政の限られたリソースを補うためにも、課題解決のための取り組みは、行政任せで行うのではなく、関係官庁、事業者、住民なども主体的に関わっていくことが求められました。そのためには、廃棄物管理の現状および課題を整理し、課題の優先順位付けを行った上で、各主体が具体的施策に取り組むための全体指針が必要でした。

ババウ島では、プロジェクト開始時より、ババウ知事を議長とし、各コミュニティ代表、関係省庁、リサイクル業者等約50名からなる廃棄物管理委員会を設立しています。プロジェクトでは、年1〜2回委員会メンバーが一同に集まるワークショップを開催し、プロジェクト活動の進捗状況や課題の確認やババウ固形廃棄物管理計画の策定に向けた議論を続けています。

このワークショップは、プロジェクトの実施機関である保健省および環境省のみならず、他の関係省庁、住民、事業者など多様な主体を巻き込むことで、ババウ島が社会全体として廃棄物管理の課題に主体的に取り組む体制を作る上で、大きな役割を果たしています。

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ババウ知事によるスピーチ

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ワークショップ風景

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グループ写真

4.第4回合同調整委員会(JCC)の報告

2015年2月11日に、第4回合同調整委員会(JCC)(注7)をババウ島で実施しました。保健省大臣、ババウ知事、JICAトンガ支所長をはじめ、保健省事務次官、環境省事務次官、廃棄物公社(Waste Authority Ltd.)(注8)CEO、リサイクル業者代表、さらに、内務省、財務省、社会基盤省といった首都からの重要ポスト・関係機関からの出席がありました。JCCでは、コミュニティによるごみ収集作業と最終処分場の運営管理状況の視察も行いました。

JCCでは、保健省が離島の廃棄物管理の実施・責任主体ではあるものの、関係機関がそれぞれの役割を認識した上で、主体的に関わっていく必要があることが認識されました。また、プロジェクト終了まで残り1年となり、プロジェクト成果の持続性を担保していくためには、「持続的な廃棄物財政システムの確立」が不可欠であることも改めて認識されました。環境/観光税の導入や容器デポジット制度(CDL)(注9)等の導入の可能性が今後検討され、ババウ固形廃棄物管理計画にも反映される見通しとなっています。

(注7)合同調整委員会(JCC)とは、相手国プロジェクト実施機関、監督省庁、JICA現地事務所の長などで構成されるプロジェクトにおける最上位の意思決定機関です。JCCミーティングは、最低年に一回開催され、プロジェクトの進捗を確認し、今後の方向性を合意することを目的としています。

(注8)首都トンガタプでごみ収集・処分場管理事業を担っています。

(注9)使用済の空き缶やPETボトルといった容器の購入者が、購入する際に「預かり金」を支払い、規定の場所に持ち込むとその支払った預り金が払い戻される制度。これが経済的インセンティブとなり、使用済み容器の回収率が上がり、リサイクルや適正処理が進み、また、ごみの散乱を防ぐことができると期待されています。パラオ国やキリバス国等で既に導入済です。

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JCC風景

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JCC風景

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JCC風景

5.今後の予定

本プロジェクトは5年間のプロジェクトであり、来年度はプロジェクトの最終年度にあたります。本プロジェクトの成果を社会システムのなかに定着させ、プロジェクト終了後も相手国が活動を持続的に展開できるような仕組み作りが必要となります。具体的には、ババウ島の固形廃棄物管理計画の最終化プロセスを通じて、プロジェクト活動を通じて築いた関係機関との協力関係を活用しながら、ババウ島の廃棄物管理に対する予算措置の恒常化や持続的な廃棄物財政システム確立の可能性について検討を行う予定です。

6.トンガでの仕事

プロジェクトが行われているババウ島は、"The Paradise of Tonga"(トンガ国のパラダイス)と呼ばれるほど、美しい島風景が広がる島で、2011年7月に初めて訪れた私もその美しい風景に思わず息を呑んだものです。この美しい島を脅かす存在の一つが、ごみ。世界中から大勢の観光客が訪れる島で、観光ごみも大きな問題となっていました。現地政府の仲間たちとVEVE(トンガ語で"ごみ"の意味)チームを結成、「トンガ国のパラダイス、ババウ島を守ろう!」(Save Vava'u the Paradise of Tonga)をスローガンに、精力的にプロジェクト活動に取り組んでいます。

J-PRISMトンガの最大の武器は、VEVEチームをはじめ本省を含む関係者間のチームワーク、それから、離島に残るコミュニティの強い団結力とアイデンティティです。とくに、ババウ島出身の島民は、自分の島、コミュニティに対する愛着が強く、コミュニティ活動に対する奉仕精神もとても高いです。といっても、コミュニティへのアプローチは一筋縄ではなく、住民代表の説得に始まり、数回にわたる住民集会など現地政府の担当者には相当の「忍耐力」と「努力」が求められました。それでも、「地域・故郷を想う心」、そして、この島を皆でキレイにしたいという「熱い行政マインド」が彼らの原動力となっています。ババウ島は離島ならではの様々な制約や課題がありますが、コミュニティを含む皆のチームワークでなんとか克服しつつあります。

プロジェクト終了まで残り1年。ババウ島を離島における廃棄物管理のモデルとすべく、VEVEチーム一団となって今後一層業務に励んでいきたいと思います。