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新しいODAの枠組みでブータンの気候変動対策研究が始まる

−ブータン・ヒマラヤの氷河湖決壊洪水に関する研究−

2009年07月10日

2008年度に採択された「地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:SATREPS)」のプロジェクトが次々と始動しています。SATREPSは、科学技術と外交・国際協力を相互に発展させる「科学技術外交」の一環として、外務省、文部科学省とJICA、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が連携して実施するODAの新しい枠組みです(注1)。

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6月に行われたプロジェクトのキックオフ・ミーティング

2008年度採択のSATREPS 12案件のうち、気候変動に対応する「ブータン・ヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究プロジェクト」が、6月に現地ティンプーでキックオフ・ミーティングを開催し、本格的に動き始めました。

ブータンが位置するヒマラヤ山系では、近年の地球温暖化により氷河が溶けて後退し、氷河から溶け出した水が、長い時間をかけて氷河が削った谷や斜面(注2)に湖(氷河湖)を形成するという現象が起こっています。氷河湖は1950年代ごろから増え始め、国際総合山岳開発センター(注3)によると、2007年現在、約二千数百個の氷河湖が存在するとされています。

これらの湖は、氷河が削った土砂が堆積してできた土手(モレーン)によって水がせき止められており、地震などをきっかけに氷河や岸壁が崩落して湖の水量が急激に増加したり、あるいはモレーン内部に含まれる氷が融解したりして土手が崩壊して洪水が起こり、下流域に甚大な被害をもたらすことがあります(氷河湖決壊洪水)。

氷河湖決壊洪水の発生メカニズム
【図表】
図作成:小森次郎(名古屋大学)

実際に、1994年にブータンのルナナ地方で氷河湖決壊洪水が発生した際には、旧首都プナカで押し寄せた洪水で21名が亡くなり、川沿いの家屋や歴史的建造物であるゾン(寺院兼役所)が破壊され、農作物や家畜なども被害を受けるという大災害が起きました。

ブータンは、ヒマラヤ山系の河川を利用した水力発電が基幹産業の一つ(インドへ電力を輸出)ですが、就労人口の66パーセントが農業に従事しており、氷河湖決壊洪水が発生すると、発電事業への打撃だけでなく、多くの人が従事する基幹産業である農業にも深刻な被害を与える可能性があるため、喫緊の対策が課題となっています。

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プロジェクトで共同研究を行う地質鉱山局

今回、「ブータン・ヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究プロジェクト」が展開されるモンデチュ川流域は、下流域で水力発電所建設が計画されているにもかかわらず、氷河湖決壊洪水に関する調査や対策事業がこれまでに一度も実施されていません。そのため、プロジェクトでは氷河湖の危険度評価、氷河湖拡大メカニズムの検討、決壊洪水発生時の警報システムの立案、ハザードマップの作成を予定しています。2009年9月には、標高5,000メートル付近の上流域と標高2,000メートル付近の中流域で調査が開始されます。

プロジェクトでは、名古屋大学などから参加する専門家により最先端の研究が行われるとともに、共同で研究を行うブータンの地質鉱山局の職員に対し、研究手法や衛星データの利用、ハザードマップの作成といった技術面での協力を行います。これらの技術や研究結果を、将来、現地に根ざした形でブータンの人々が自らの手で活用していくことが期待されています。

地球環境部 防災第一課


(注1) SATREPSは2008年度に始まった新しいODAの枠組みで、2008年度は12件、2009年度は21件のプロジェクトが採択された。環境・エネルギー、防災、感染症などの地球規模の課題の解決に向け、日本と相手国の大学や研究機関が連携して実施する。

(注2) 氷河は地形に沿って微速で流れていくが、その際に周囲の谷や斜面を削っていく。

(注3) ヒマラヤの環境・生態系保護を目的に1983年に設立された国際研究機関。
アフガニスタン、インド、中華人民共和国、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、ミャンマーの8ヵ国が参加。