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科学技術で200万人都市の水を確保する(ボリビア)

−氷河減少に対する水資源管理適応策を支援−

2010年02月10日

地球温暖化により、南米アンデス山脈の熱帯氷河(注1)が近年急速に溶けて減少しています。ボリビアでは氷河を水源としているため、氷河の消失は将来的に水源の枯渇にもつながります。調査を通じて今後の氷河の減少を予測し、水資源管理計画策定のためのモデルを作成するため、文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の協力を得て(注2)、JICAは国際科学技術協力プロジェクト「氷河減少に対する水資源管理適応策モデルの開発」を開始します。

地球温暖化の影響を強く受ける氷河

南米アンデス山脈のアルティプラノと呼ばれる高地高原(標高3,000〜4,200メートル)では、氷河からの水を生活、農業、発電、工業などに利用しています。ところが、気候変動による気温上昇の影響により近年では氷河が急速に消失し、最もその影響を受けると推測されるのが、水源となる氷河が存在する標高5,000メートル以上の地域です。

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標高5,200メートル地点にあるチャカルタヤ氷河は以前、スキー場としても利用されていた。2009年の時点(写真右)では氷がほぼ消失。Photo(left) Courtesy of IHH-IRD

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消失の危機にあるトゥニ・コンドリリ氷河

首都ラパス市と隣のエルアルト市、その周辺地域(標高3,600〜4,000メートル)からなるラパス首都圏は、トゥニ・コンドリリ氷河やワイナ・ポトシ西氷河の雪解け水を水源とする貯水池や、氷河の雪解け水により貯えられる地下水を水源としています。これらの氷河において、ボリビア国立サン・アンドレス大学工学部水理学研究所(IHH)が1991年からフランスの援助を受け、氷河減少の実態についてモニタリングを行ってきました。これによると、1991年から2006年までにボリビアの平均気温は0.5度上昇し、1956年から2006年にかけ、氷河の56パーセントが消失しています。また、トゥニ・コンドリリ氷河は今後30年間で完全に消失する可能性があると分析されています。

またラパス首都圏の人口は現在約200万人ですが、周辺村落部からの人口流入により近年増加傾向にあります。ラパス市およびエルアルト市の上水については、2009年から供給が需要に対して不足しています。

水不足が伝統行事にも影響

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カーニバルで水風船を投げる子ども。水不足により、昨年は水遊びが禁止に

この水不足は、同国の文化にも影響を及ぼしています。2月に開催されるカーニバルでは子どもたちが水遊びをする習慣がありますが、2009年のカーニバルでは、節水のため、水遊び禁止令が出されました。ラパス市、エルアルト市とボリビア政府はいずれも新しい貯水池の建設などを行っていますが、今後気候変動でどのように水源地の氷河や降水量が変化するかは予測できていません。

水資源管理のためのプロジェクトが始動

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合意文書署名の様子。手前から松山博文JICAボリビア事務所長、レネ・オレジャナ環境・水源大臣、サン・アンドレス大学のマリオ・テラン工学部長

2008年5月、ボリビア政府は気候変動による今後の氷河減少を予測し、流域の水資源管理計画を策定するため、「氷河減少に対する水資源管理適応策モデルの開発」を日本に要請。協議を経て2010年1月22日、JICAはボリビア側と正式合意に至り、2015年まで5年間のプロジェクト実施を予定しています。

本プロジェクトは文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の協力を得て、ラパス市およびエルアルト市の水源となっている、トゥニ・コンドリリ氷河およびワイナ・ポトシ西氷河を中心とする流域のデータ収集や、衛星画像から雪氷域を気候学的に分析し、氷河の現象を広域的に観測するためのデータ収集を行っていきます。その研究のために、東北大学・福島大学・東京工業大学の研究チームを短期専門家としてボリビアに派遣し、それに加え、これらの大学で人材育成のためにボリビアから留学生を受け入れます。今後はプロジェクトの調査結果を基にIHHが気候変動に適応した水資源管理計画策定のためのモデル(氷河融解モデル、水収支モデル、土砂侵食・移動モデル、水質モデルなど)を作成し、定期的にボリビアの関係者(水道会社、市役所、住民など)に情報を提供しながら、政策への反映を提案していきます。

ボリビア事務所、地球環境部、中南米部


(注1)熱帯(南北回帰線に挟まれた地域)地帯にある氷河で、世界の熱帯氷河の99パーセントがアンデス高地(アルティプラノ)に集まっている。高地ほど気候変動に大きく影響されるため、近年急速に消失している。

(注2)この案件は、外務省、文部科学省とJICA、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が連携して実施するODAの新しい枠組み、「地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:SATREPS)」に2009年に採択された案件の一つ。環境・エネルギー、防災、感染症など地球規模の課題解決に向け、日本と相手国の大学や研究機関が連携して実施する。2009年度は21のプロジェクトが採択された。