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ユニバーサルデザイン普及への第一歩

−フィリピンのプロジェクトがユニバーサルデザイン大賞を受賞−

2010年11月17日

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11月1日に行われた表彰式では、プロジェクトを実施する自治体の首長らに表彰状が授与された

障害者に優しいまちづくりを目指してJICAが進めている「フィリピン国内の地方における障害者のためのバリアフリー環境形成プロジェクト」が、このほど、国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)の「IAUDアウォード2010」の大賞を受賞した。

IAUDアウォードは、「民族、文化、慣習、国籍、性別、年齢、能力等の違いによって、生活に不便さを感じることなく、『一人でも多くの人が快適で暮らしやすい』ユニヴァーサルデザイン社会の実現に向けて、特に顕著な活動や貢献をした団体・個人」(注)を表彰するもの。各国の専門家たちが理念と活動の両面で審査し、総合的に評価した上で選考される。今年度は4団体が優秀賞を受賞、その中から11月1日の「第3回国際ユニヴァーサルデザイン会議2010 in はままつ」において大賞が選ばれた。

「フィリピン国内の地方における障害者のためのバリアフリー環境形成プロジェクト(通称NHEプロジェクト、NHE: Non-Handicapping Environment)」のバリアフリーという概念は主に障害者を対象にしており、「すべての人のためのデザイン」というユニバーサルデザインのコンセプトと異なる部分もある。しかし、いまだユニバーサルデザインの概念が周知されていない開発途上国でバリアフリーの知識・技術を移転することは、今後、ユニバーサルデザインを広める第一歩として意義深いものであると評価され、受賞につながった。

バリアフリー推進の取り組み

フィリピンの障害者人口は、2000年に実施された国勢調査によると全人口の1.23パーセント(約94万人)とされるが、世界保健機構(WHO)は全人口の約10パーセントが障害者であると推計している。都市圏では1984年に制定されたアクセス法に基づき障害者のための環境が整え始められており、バリアフリーに対する認識も高まっている。しかし地方では、アクセス法に対する自治体の知識不足などもあり、市庁舎や市営の病院でさえもバリアフリーが確保されていないのが現状だ。

JICAは2008年10月から2012年9月までの予定で、フィリピンの「国家障害者協議会(NCDA)」とNHEプロジェクトを展開。イロイロ州ニュー・ルセナ市およびミサミスオリエンタル州オポール市の二つの地方自治体を対象に、障害者が抱える社会的・物理的なバリアを取り除くための活動を行っている。

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オポール市の市庁舎入口では、車いす使用者でもアクセスできるようスロープを設置した

今年2月には建築士らが参加した「ユニバーサルデザインおよびアクセスマップ研修」を実施。ユニバーサルデザインの概念を取り入れた公共施設の改善プランの設計などを通じ、すべての人が受け入れられるデザインへの理解を深めた。フィリピンでのユニバーサルデザインに対する認知度はまだ低いが、このプロジェクトを通して概念の普及を目指している。

障害者主体のアプローチ

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2010年2月に実施した研修では、障害者が公共施設や建物周辺のアクセスや利用しやすさを調べた

プロジェクト実施にあたり、JICAは障害のある人を専門家や研修講師として招くほか、将来、講師となることが期待される障害者に対しての研修も実施している。障害者への社会的バリア(差別・偏見)が大きいフィリピンにおいて、障害者自身の視点を取り入れたアプローチは関係者に大きなインパクトを与えている。事実、講師として成長した障害者の多くは「プロジェクト開始時は、社会を変える一端を自身が担うことや、自分たちの能力・可能性に不安を感じていた」と振り返る。

プロジェクトの鷺谷大輔専門家は「バリアフリー環境の形成には、物理的アプローチだけでなく、障害者をプロジェクトの中心とするよう働きかけるといった社会的支援など総合的アプローチが必要。プロジェクトを通じて、この考え方が徐々に定着しつつある」と語る。

ユニバーサルデザイン普及への取り組み

今回の受賞は、フィリピンのプロジェクト関係者に大きな励みをもたらした。国家障害者協議会のデルフィナ・バキール氏は「今回の受賞は大変誇りに思う。私たちの努力が国際的に認められるとは正直予想していなかった。今後やるべきことはまだまだたくさんあるが、プロジェクトの目標を達成するために最善を尽くしていきたい」と意気込みをのぞかせた。

NHEプロジェクトが受賞した背景には、アメリカやヨーロッパなどの先進諸国でバリアフリー、ユニバーサルデザインの普及に長い年月を費やしたという反省が生かされている。審査員はこのプロジェクトについて、「ユニバーサルデザイン先進国も、障害者が参画したバリアフリーの推進活動を経て今がある。開発途上国、特に地方においてバリアフリーを推進することは、ユニバーサルデザインの普及につながる大きな一歩。その意味で、フィリピンでの取り組みは世界クラスのモデル事業だ」と講評した。

自立的・持続的な発展を支援

「残り2年という期間でプロジェクトが取り組まなければならないことは、フィリピン側の自主性の確保、すなわち人材育成やNHEプロジェクトを持続的に展開していくための体制構築だ」と鷺谷専門家は先を見つめる。

今後、プロジェクトでは人材育成、組織体制やシステムの構築などへの働きかけをさらに強めながら、現在実施中の二つ地域から他地域へと、フィリピンの自立的で持続的な発展を支援していく。


(注)IAUDウェブサイトからの抜粋