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「湖水爆発」の謎に挑む(カメルーン)

−火山国・日本の知見を生かして協力を開始−

2011年01月31日

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災害が起きた湖の周辺には、危険を知らせる看板が立てられている(マヌーン湖周辺の集落付近で)

JICAは1月21日、カメルーンの首都・ヤウンデで、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と共催し、プロジェクト開始記念セミナーを開いた。今後、2016年までの5年間にわたってJICAとJSTが連携し、カメルーンで1980年代半ばに発生した火山災害の解明と対策に取り組む。被災地の住民は、災害から25年が経過した現在も避難生活を余儀なくされており、火山研究の先進国である日本の知見と支援に対する期待が高まっている。

「湖水爆発」の被害と日本の研究活動

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ニオス湖の様子。カメルーンと日本の研究者は、左手に見える白い観測小屋に泊まり込んで調査を行う

アフリカ中央部に位置するカメルーンには、標高4,000メートルを超えるカメルーン山をはじめとする多数の火山がある。この火山帯で1984年と1986年に、多くの住民の命を奪う災害が発生した。火山の火口にできた湖(火口湖)であるマヌーン湖とニオス湖で、湖底に溜まった大量の二酸化炭素が突然湖面に噴出、ガスが山の斜面に沿ってふもとの村に広がり、3つの村で約1,800人の住民が酸欠死した。現在も、湖の周辺での居住は禁止されており、約1万人の人々が先祖伝来の村を離れたままだ。

この災害に対して、いち早く取り組んできたのが日本の研究者だ。富山大学の日下部実客員教授(当時は岡山大学地球内部研究センター教授)は、1986年のニオス湖での災害直後に、JICAが派遣した国際緊急援助隊の一員として現地に入り、災害の原因究明に着手した。以来25年にわたり、日下部客員教授をはじめとする日本の研究者が、カメルーンと日本を行き来しながら研究活動を続け、1993年、地下のマグマに由来する二酸化炭素を含んだ温泉水が湖底からわき出ていること、それによって大量の二酸化炭素が湖水に溶けた形で蓄積していること、それが何らかのきっかけで爆発的にガス化し災害を引き起こしたことを突き止めた。

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ニオス湖では、湖底近くまで垂直にパイプを設置し、湖水中の二酸化炭素を除去している

この現象は「湖水爆発」と呼ばれる。現在も地下のマグマから途切れることなく二酸化炭素が湖水に供給されているため、ガスを除去するためのパイプを湖に設置するという対策が取られている。しかし、何が湖水爆発の引き金になったのか、二酸化炭素がどのような経路で湖水に供給されているのか――など、そのメカニズムについてはいまだ解明されていない点が多い。そのため、カメルーン政府も安全宣言を出すことができず、地元住民の避難生活が長期化している。

メカニズムの解明と人材育成の強化

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湖上の筏(いかだ)で調査活動を行う、カメルーンと日本の研究者(左は日下部客員教授)。深層の湖水を採取して水質やガス濃度を調べる

今回、開始された科学技術協力「火口湖ガス災害防止の総合対策と人材育成プロジェクト」は、JICAがJSTと共同で実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:SATREPS)」の一つ。地球規模課題の解決と科学技術水準の向上につながる新たな知見を相手国と共同で研究し、獲得することを目指して、2008年に開始されたODAの新しい枠組みだ。

日本は世界の0.25パーセントという小さな国土面積に、世界の活火山の7パーセントが集中しており、火山の観測・研究に関しては世界トップクラスの蓄積がある。この進んだ研究能力を生かし、カメルーンの研究機関との共同研究によって湖水爆発のメカニズムの解明、リアルタイムでの監視体制の開発、二酸化炭素除去システムの試験などを行っていく。

また、人材育成を重視し、カメルーン人研究者自身によるモニタリングと分析が可能な体制づくりを目指す。これまでも、日本人研究者は、現地での研究活動だけでなく、カメルーン人研究者の育成に尽力してきた。カメルーンでの研究拠点となっている国立地質調査所(IRGM)では、日本に留学して学んだ4人の研究者が中心的役割を担っており、日本人研究者に対する信頼は厚い。

しかし、研究機材は必ずしも十分ではなく、湖水の観測はこれまで多くても年1回にとどまっている。カメルーンの研究者が、自らの力で火口湖の観測や分析を継続し、政府が安全宣言を出せるような科学的知見を蓄積して防災に生かすことが求められており、安全宣言が出せるようになれば、被災者が元の土地に戻り、被災地域の開発、生活の改善が進むことも期待されている。

一日も早い帰郷に貢献

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セミナーの後、地元メディアの取材に答える大場教授(右)

セミナーには、カメルーン国内の研究者、行政関係者、被災地の住民ら100人以上が参加し、カメルーン人研究者のこれまでの取り組みや、今後の日本との共同研究計画が紹介された。被災住民からは「いつになったら安全宣言が出て古里へ戻れるのか」という切実な質問が多く寄せられた。

研究者代表を務める東海大学の大場武教授は「ニオス湖とマヌーン湖の安全性を検証し、湖の周辺に住んでいた人々が一日も早く古里に戻れるように貢献したい」と意気込みを語った。また、日下部客員教授は、「協力の重要な柱は『人材育成』であり、これによってカメルーンの人々が火山研究や防災事業を自らの手で推進できるようになることを期待している」と述べた。

今回の科学技術協力では、日本から15人以上の第一線の研究者が参画し、カメルーンの火山災害の科学的解明と被害の防止に挑む。いつ繰り返されるか分からない自然災害に立ち向かうカメルーン人研究者と、今なお避難生活を送る多くの人々は、日本の支援に対して大きな期待を寄せている。

地球環境部防災二課