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エチオピア・森との共生から生まれたコーヒー

−ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画プロジェクト−

2011年06月07日

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ベレテ・ゲラの森林に自生するコーヒーの木。農薬散布や施肥などは行わず、人々は自然に実ったコーヒーを手摘みで収穫する(写真:渋谷敦志)

農地に転換され、減少しつつある森林を地域の人々と共に保全する――。エチオピア南西部のオロミア州にあるベレテ・ゲラの森林地域で2003年に始まったJICAの技術協力「ベレテ・ゲラ参加型森林管理計画」に課せられた命題だった。

森林を守るには、そこに暮らす人々が、木を切らずとも生計を立てられる仕組みを確立しなければならない。そこで、日本から派遣されたJICA専門家は、農業生産性を上げることにより、限られた土地でもより多くの作物を収穫できるよう、「農民野外学校」を開校。住民が森林を伐採する圧力を軽減させることが目的だ。そして、森に自生する野生のコーヒーを自然のままに収穫し、付加価値を付けて通常よりも高い値段で販売できるシステムを築いた。生計向上の足がかりが作られ、ベレテ・ゲラの森と共存するノウハウを得た人々の暮らしは少しずつ改善され、行政側からの働きかけとあいまって、「森を守る」という当初の目標が達成されつつある。

生物多様性の森

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森林に生息するコロブスモンキー

多くの生物が生息するベレテ・ゲラの天然林。ここに暮らす人々は、農業を営む傍ら、自生するコーヒーや香辛料となる植物の実を採取し、自然の恩恵を受けてきた。しかし、かつては国土の35%を占めていた自然林が、2000年には国土の4パーセント近くまで減少。そこで、エチオピア政府は森林減少を食い止めるために「森林優先地域」を画定。続いてオロミア州も法律で森林の利用を制限し、新たな入植や農地への転用を禁止した。

この取り組みを後押しするために、プロジェクトの第1フェーズでは、古くから森林地域に暮らしてきた住民によるWaBuB(ワブブ。現地語で「住民により組織される森林管理組合」の意)を試験的に設立。そこに暮らす人々との間で、住民の義務と権利を明確にした「森林管理契約」を交わし、森林と農地に境界を設けて、農地拡大と建築用の木の伐採を禁止するなど、森林を守るための基本的な枠組みづくりを行った。続いて2006年に始まった第2フェーズでは、100人以上の農業・村落開発局の普及員が、対象森林地域の全集落(125集落)でワブブの組織化を進めた。

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農民野外学校では、今まで試したことのなかった作物や栽培方法を実践しながら学ぶ

15万ヘクタール(東京都の面積の約7割に匹敵)に及ぶプロジェクト実施地域には、44村125集落に7万人前後が居住しているが、暮らしは経済的には豊かではない。人々は生活を維持するために森林を切り開き、農地に変えてしまわないだろうか――森林保全と住民の生計向上の両立がプロジェクトの課題となった。

そこで、人々が農地を拡大しなくても十分な収穫を得る技術を学べるよう、国連食糧農業機関(FAO)が開発した農民野外学校の手法を導入。ファシリテーター(進行役)を務める普及員が週1回の授業を1年間にわたって実施し、家庭菜園や果樹栽培などの技術を伝えた。その結果、農民野外学校で学んだ人々の年収は、1人当たり平均約70米ドル(約5,700円)増えた(注1)。普及員の意欲向上にもつながり、多くが「農民野外学校を通じて住民との協力関係を築くことができ、仕事にやりがいを感じるようになった」と話す。

コーヒーが森林保全と生計向上を可能に

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レインフォレスト・アライアンスの認証審査では、コーヒーの木の生育環境、また豆の採取から加工、保管に至るすべての工程について細かくチェックされた

住民の生計向上をさらに進めるため、第2フェーズでは、FAOの協力を得てプロジェクト実施戦略を見直し、森林で採れるコーヒーに付加価値を付けて販売し、生計向上の柱とする案が提案された。近年、世界中でコーヒーの持続的栽培を視野に入れた取り組みが進められ、環境に配慮したコーヒーが高値で取り引きされていたからだ。そして2007年にアメリカのNGO団体「レインフォレスト・アライアンス」により、ベレテ・ゲラのコーヒーは環境に配慮して生産されたコーヒーであると認証された。その結果、従来よりも15〜25パーセント高い価格で売ることが可能となり、住民の生計向上が実現しつつある。

「環境配慮型コーヒー」の商品価値

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UCCから発売されたベレテ・ゲラの森林コーヒー

2009〜2010年に生産された生豆は兼松株式会社によって買い付けられ、環境に配慮したコーヒーの販売に注力するUCC上島珈琲株式会社から「UCC カフェネイチャーモカ・ワイルドベレテ・ゲラRA」として2011年2月に発売された(注2)。

発売前に東京で行われた記者会見では、エチオピアのマルコス・タクレ駐日全権大使が「製品化により、森林コーヒーの持続可能な管理が保証されるだけでなく、プレミアム価格が生産者の生活改善に大きく貢献すると確信している」とあいさつ。UCC上島珈琲株式会社マーケティング本部嗜好品開発部の中嶋弘光課長は「コーヒーの起源であるエチオピアの森で育った森林コーヒーにはストーリーがあり、消費者の支持を得られる製品だ」とアピールした。

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エチオピアではコーヒーを茶道のように儀式的にいれる「コーヒーセレモニー」で来客をもてなす。森林コーヒーは、さわやかな酸味と独特な風味を持つ

森を守る取り組みと、森と共生する人々によって生産されたコーヒー。日本での売り上げが、遠く離れたエチオピアの森林保全につながることを思うと、私たちの生活は開発途上国との思いがけない関係の上に成り立っていることを改めて思い知らされる。

(注1)東京大学の協力を得てJICA研究所が2010年度から実施したプロジェクト成果の分析調査による。
(注2)業務店を対象とした販売のみだが、JICAの地球ひろば(東京都渋谷区)のカフェ・フロンティアでの提供を準備中。