フードバリューチェーンへの取り組みもスタート:ミャンマーで節水農業の技術を開発

2019年5月31日

ミャンマーでは2011年以降、民主化と市場経済の活性化に向けたさまざまな改革が本格スタートしています。JICAでは道路や水道、電気などのインフラ整備だけでなく、地方の農業・農村開発も支援しています。

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ニャンウー農業研究局のラッカセイ種子生産圃場。スプリンクラーの導入により、収量が90%程度増加するとともに、安定した種子供給が可能に。

JICAは日本の農林水産省や筑波大学などと連携して、2013年より「中央乾燥地における節水農業技術開発プロジェクト(WSAT)」を約5年半にわたり実施しました。初めの2年間で地域に合った適正技術を選定し、その後、技術を普及するステージに入り、最終年にはフードバリューチェーン(FVC)の活動を開始。収穫量および農業収入の安定化・向上や地域初のビジネスマッチングイベントを通じた商談の成立など多くの成果が生まれました。

今後、JICAはミャンマーを含む開発途上国にて時代の要請に沿ったフードバリューチェーン(FVC) の確立など、「新しい食と農の支援」を目指します。

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フードバリューチェーン(FVC):農産物の生産から加工、流通・販売、そして市場における消費に至るまでのつながり(チェーン)の中、それぞれの段階で付加価値を高め、より大きなメリットをもたらすことを目指すシステムや考え方のこと。

農業技術指導だけでなく「儲かる農業」への多角的なサポート

本プロジェクトと連携する農家からのヒアリング(ミンジャン・タウンシップ)。ミャンマー中央乾燥地は温暖化などによる干ばつの影響が深刻化し、耐乾性品種の導入や慣行農法の技術改善が必要とされている。

ミャンマー中央部に位置するマンダレーやマグウェイ管区は首都・ネピドーの北、ヤンゴンからは数百キロメートル離れており、他の地域に比べ年間降水量が少なく、総称して中央乾燥地と呼ばれています。この地域では、比較的乾燥に強いラッカセイ、キマメ、ゴマといった作物の栽培が盛んに行われてきました。しかしながら、降雨パターンの変動が大きく、収穫量すなわち農業収入が極めて不安定なため、このエリアでは経済的な課題を抱える農家も少なくありません。

本プロジェクトWSATでは、こうした問題点を協力農家に現場で直接ヒアリングした上で、JICA専門家による現地普及員への種子品質管理研修やラッカセイ種子の発芽試験の指導、さらには耐乾性・市場性にすぐれた有望品種の種子選びなど、複合的な取り組みを行いました。

JICA農村開発部の瀬川俊治職員は「ミャンマー農業畜産灌漑省農業局のニャンウー地区の普及員の皆さんによる研修方法一つとっても根本から見直し、担当者それぞれでバラツキがあった農家への指導法などもガイドラインにそった形で改善。より農家の人たちのニーズに密着したアドバイスが行なえるようになりました。また、本プロジェクトで新しい技術を導入した農家の1エーカーあたりの平均単収が12%以上増加するなど、当初の目標値をおおむね達成しました」と述べます。

初めてのビジネスマッチング体験が意識の変化を生んだ

JICAの提案により、生産農家とレストランやホテルといった事業消費者が相互のニーズを直接対話で話し合うイベントが開催された(ニャンウーの農業研究局事務所にて)

これらの活動の中から、新たなミッションも視野に入ってきました。

たとえば、無数の仏塔や寺院が立ち並ぶ幻想的な光景で知られる世界三大仏教遺跡の一つ、ミャンマーの古都バガンでの「農産物ビジネスマッチングフォーラム」の開催です。これは農産物、具体的にはトマトやレタスなどの商談会で、30名あまりの農家と5名のホテルやレストランのオーナーが一堂に会し、お互いのニーズが効果的につながるような場として、JICAが提案したもの。まさに現場に根ざした、同エリアでは初ともいえるフードバリューチェーン(FVC)をつなぐ活動の本格スタートです。

イベントではまずホテル・レストラン協会会長によるバガン地区のホテル・レストランがどのような農産物(品目、品質、量、時期など)を求めているのかという講演に続き、複数の生産者グループと個々のホテル・レストランメンバーによる具体的な商談会が行われました。イベント翌日にはレストランオーナーの1人が生産者を訪れ、トラック2台分のキャベツを買い付けるなど具体的なビジネスも開始されています。

当初イベント開催について懐疑的だった農業局スタッフも盛況なイベント状況やその後のビジネス展開を目の当たりにして、今後は自ら率先して年数回のビジネスマッチングフォーラムを開催したい、と積極的になりました。また、生産者もホテル・レストランの求める農産物の品質や量、時期などを具体的に理解でき、生産者同士のグループ化の必要性、生産に必要な具体的技術の明確化につながり、行政との対話が活発化しています。

このように当初はFVC振興の意味について十分に理解していなかった関係者らも具体的成果を目にして、徐々にその必要性を理解し始めているようです。「まだ、ほんの一部かもしれませんが、手応えは十分感じられました」と、現地で奔走したFVCのスペシャリスト・稲葉誠国際協力専門員は振り返ります。

新しい農業支援の拡充をめざし『JICA食と農の協働プラットフォーム』を設立

ミャンマーでは、JICAのWSATやビジネスマッチング事例にとどまらず、日本の研究機関や民間企業、加えて草の根レベルのNPOなどによる農業関連のプロジェクトが複数並行しています。そのため、産官学がそれぞれの強みを生かしてより緊密な連携を行なっていけるよう、2017年12月から各分野の情報共有・協働体制の構築を図るための動きが加速。2019年4月、JICAは「持続的な開発目標(SDGs)」の達成に向けて、ミャンマーをはじめとするインドネシアなどアジア、アフリカ、中南米など地球規模でのFVCを含めた包括的分野での協働体制のいっそうの充実を図るための仕組みとして『JICA食と農の協働プラットフォーム(JiPFA)』を立ち上げました。

多くの出席者を迎え開催された『JICA食と農の協働プラットフォーム(JiPFA)』設立記念イベント。

2019年4月25日に開かれた同プラットフォームの設立フォーラムでは、参加企業から「実際に世界各地での食と農のプロジェクトに取り組んでいく際、その国や地域ならではのビジネス環境や法制度が支障となるケースが多く、その具体的なソリューションの共有やより実践的なスタッフの育成などにつながっていくことを願っています」との期待も寄せられました。

JiPFAでは、定期的なメール配信やイベント開催による情報・経験の共有を行ないつつ、本邦関係者間での具体的な「連携事業」や「共同活動」の創出を加速するため、特定の地域・国、分野・作物等毎の分科会を設置する予定です。

JICA農村開発部の宍戸健一部長は「すでに同プラットフォームの参加団体・企業は130を超えています。JICAでは、開発途上国の持続的開発目標SDGs[ゴール2:飢餓をゼロに]達成に貢献するため、参加の皆様がそれぞれの強みを生かしながら、さらに連携できる体制を構築していきます」と改めて意気込みを語りました。