途上国のリーダー層育成を目指すJDS:卒業生からミャンマー外務次官誕生!

2020年2月14日

「日本での留学時代に得た最も大きな財産は、多くの人々とのネットワークです。ミャンマーと日本の二国間の関係を構築していく上で、とても役に立っています」

笑顔で語るのは、2019年8月にミャンマーの外務省次官に就任したSoe Han(ソ・ハン)氏。JICAが1999年から開始した、開発途上国の若手行政官を日本の大学院に招く人材育成計画(The Project for Human Resource Development Scholarship、通称JDS)の第1期生です。約20年間にわたるJDSの歴史において、外務事務次官が誕生したのはミャンマーのソ・ハン氏が初めてとなります。

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日本での留学時(左)、そして現在、外務次官として働くソ・ハン氏(右)(写真提供:ソ・ハン氏)

JDSは、途上国の未来を担う若手行政官たちの専門性を高めるとともに、日本の理解者となる人材育成とそのネットワーク作りを支援しています。ミャンマーからはこれまで500名を超える留学生を受け入れてきました。

新潟で過ごした留学時代  

留学当時のソ・ハン氏(右)。日本の理解者たちが母国に戻り、各国で活躍しています(写真提供:ソ・ハン氏)

「JDSのミャンマー第1期生として、2002年から04年まで、新潟県にある国際大学で経営学を学び、MBAを取得しました。JDSは、数ある奨学支援制度の中でも最も多額の奨学金をミャンマーに提供しています。専攻学科はミャンマーのニーズに関連し、奨学生への給付は日本での滞在生活をカバーするのに十分でした。またJDSでは、学生が修士号を取得した後に、申請資格がある場合には博士課程に進むこともできます」と、ソ・ハン氏は語ります。

「新潟では、日本の田舎に住む人々との交流を通じて、地方でのライフスタイルと日本文化を学びました。とにかく驚いたのは、日本は大都市だけでなく、地方にも先進的で充実した大学設備があることでした」。学生時代の思い出について、ソ・ハン氏は懐かしそうに話します。「私は雪が好きなので、スキーなどのウィンタースポーツにも多く参加したんですよ。もちろん有名な『新潟の日本酒』」もね!」

生活様式や文化を学び、相互理解に役立つ 

「日本の生活様式や文化を学んだことは、日本とミャンマーの相互関係を考えていく上で今、役立っています」というソ・ハン氏。途上国の中枢機関で日本の理解者を育て、日本との友好関係の基盤拡大を後押することもJDSの大きな目的の一つです。

ミャンマー外務行政のトップに就いたソ・ハン氏は、将来の抱負についてこう語ります。

「外務省の責任ある高官の一人として、ミャンマーの外交政策を成功裏に実行し、国際舞台でのミャンマーの利益を促進していきたいと考えています。JICAには、JDSを含め、より多くの開発支援と人材開発プロジェクトを期待していますし、私自身もそのような育成支援をサポートしたいと思います」

通算4,600人以上の留学生を受け入れ  

JDSの受け入れ分野は、社会科学系を中心とし、行政、公共政策、経済、法律など、開発途上国の重点分野や開発課題と関連のある分野から選定されます。相手国のニーズを最優先とした奨学支援制度であることが特徴で、近年ではより高度な知識・研究能力に基づき、大局的な意思決定・政策判断を行う途上国のリーダーの育成を意図し、「政策科学」、「国際協力研究」等の分野で博士課程として再来日するJDS生も増えてきています。

2019年度のJDS事業では16ヵ国から360人の留学生を受け入れました。これまでに来日した留学生は、修士課程と博士課程を合せて4,600人強。途上国の若手行政官等に奨学金を与え、日本の大学の修士課程で2年間の研究を行う機会と場を提供してきました。

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ソ・ハン氏だけでなく、母国の開発課題に取り組むリーダー層を目指して活躍するJDS卒業生が次々と誕生しています。

スリランカのバトゥゴダ・ゲダラ・シリ・カルナラトゥネさんは2015年~2017年の2年間筑波大学へ留学しました。日本の「環境負荷の少ない廃棄物管理(Waste Management)」技術を自国へ適用する可能性を研究し、帰国後には早速キャンディ県の廃棄物最終処分場の開発計画に携わり、日本の土地利用計画や廃棄物管理の経験を活かしました。

キルギスのダニアール・イマナリエフさんは、留学後、首相府経済・投資局長、経済省副大臣の経験を経て、大統領府戦略発展・経済・金融政策局長に就任しました。大統領府の局長は「政府の頭脳」であり、キルギス政府の経済分野のすべての政策立案に携わっています。

今後も、JICA開発大学院連携の下、留学生が日本の近代の開発経験や戦後の援助実施国としての知見を学ぶ機会を増やしていくほか、日本各地に滞在する留学生がその地域を知り、地域の方々と交流を深める活動や、同窓会イベント等を通じた留学生同士のネットワーク作り支援などを計画。JICAは、JDSをベースに留学生の受け入れ事業を続けながら、途上国の人材育成と日本とのネットワークの構築に貢献していきます。

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2019年3月のJDS中間研修に参加した留学生たち