海洋プラスチックごみ問題に挑む!:途上国と連携し、多様な取り組みを実施

2020年2月19日

近年、世界で注目を集めている海洋プラスチックごみ問題。JICAは、途上国の海洋プラスチックごみ問題対策の担当者らを招き、日本の取り組みを紹介する招へいプログラムの実施をはじめ、技術協力や民間連携などさまざまな形で、途上国とともにこの問題に挑んでいます。

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廃プラスチックごみの燃料化リサイクルに取り組む企業の施設を視察する招へいプログラムの参加者ら(株式会社グーン:横浜市)

東南アジア4ヵ国の廃棄物管理関係者を招へい 

「海洋プラスチックごみへの対策は、一つの国だけで対応できる問題ではありません。今回の招へいプログラムへの参加は、海洋プラスチックごみ問題の解決という同じ目標を持つ仲間を周辺各国につくることができた意義が大きいと感じています」。プログラムに参加したタイ天然資源・環境省公害管理局のチャイヨ・ジュイシリさんは、そう振り返ります。

ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」の体験プログラム。ごみ捨て調査システムとの連携など、新しいツールとして関心を集めていました

JICAが2019年11月に実施したこのプログラムには、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムから海洋プラスチックごみ問題対策の担当者12名が参加。海洋プラスチック汚染の研究を行う九州大学の磯辺篤彦教授による講義をはじめ、ごみ拾いSNSアプリ「ピリカ」を活用した横浜市の清掃活動の体験や、同市で廃プラスチックの燃料化事業を行う株式会社グーンのリサイクル施設の視察を通じ、さまざまな日本の取り組みを学びました。

フィリピン貿易産業省投資庁のラクェル・エチャグさんは、戸吹クリーンセンター(東京都八王子市)の見学で、「プラスチックごみの処理や再生の技術的手法だけでなく、削減目標に向けて現場レベルまで意識共有ができていることにも感心しました。フィリピンで海洋プラスチック問題に関するアクションプランについて関係部署と協議中のため、日本の取り組み事例など、今回の招へいで学んだことが役立ちそうです」とプログラムの成果を語りました。

海洋プラスチックごみ問題は、主に陸域で発生したプラスチックごみが不適正な処理によって沿岸部や海に流出することで発生しており、生態系を含めた海洋環境の悪化、観光・漁業への悪影響、沿岸域居住環境の悪化等の被害が懸念されています。海洋に流出しているプラスチックは、数百年から数千年間にわたり分解されず蓄積し続けることから、世界全体での対策の推進が求められており、特に環境対策の経験が十分でない途上国での対策が急務です。

海洋プラスチックごみ軽減に向けた国際共同研究 

2020年度よりタイで、ASEAN域内の海洋プラスチックごみの削減に向けた国際共同研究「東南アジア海域における海洋プラスチック汚染研究の拠点形成」(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS))が始まる予定です。海洋プラスチック研究で世界をリードする日本と、経済成長に伴う深刻な都市ごみ問題を抱えるタイの研究者が協力し、研究拠点をタイに構築してASEAN諸国のモデルとなる海洋プラスチックごみ軽減のための行動計画をタイ政府に提案することを目指します。

このプロジェクトで日本の研究代表も担う磯辺教授は、海洋プラスチックごみ問題の今後について、次のように話します。

タイでの国際共同研究で日本の研究代表を務める磯辺篤彦・九州大学教授

「海洋プラスチックごみは、ASEAN諸国を中心とする途上国から流出したものが多いと推定されています。だからこそ、日本などの先進国のみで取り組むのではなく、途上国と一体となって、国際社会全体で地球規模課題である海洋プラスチックごみ問題に取り組むことが重要です。プラスチックは日々の私たちの生活のなかに深く浸透しており、削減することは容易ではありません。調査・研究を通じて現状を正しく把握し、科学的なエビデンスに基づいた中長期的な計画のもとに、削減に取り組んでいくことが必要です」

適切な廃棄物管理を進める

JICAは途上国で適切な廃棄物管理を目的とした支援も行っています。

ケニアでは、株式会社カネカと連携し、生分解性レジ袋の普及促進プロジェクトを進めています。同国では既に一般的な石油由来のプラスチック製のレジ袋を禁止する法律が施行されていることから、植物由来の原料を使用して自然環境下で土中分解されるレジ袋(植物由来の原料使用)の普及を促進させるための制度作りや製造技術の支援などを行う予定です。(PHBHコンパウンドによる生分解性レジ袋普及促進事業)

マーシャルの首都マジュロでの容器デポジット制度の様子

また、大洋州にある島国マーシャルの首都マジュロは、JICAの支援を通じ、2018年から「容器デポジット制度」を導入しました。ペットボトル等の容器に対して輸入時にデポジットを徴収し、デポジット代を上乗せした金額で消費者に販売。消費者は、使用済み容器を指定場所へ持ち込むと、デポジット代の一部を受け取ることができます。この制度の導入後、マジュロでは空き容器の回収が進みました。街中での不法投棄減少を通じて、プラスチックごみの海洋流出の減少が期待されます。

途上国では廃棄物管理対策への対応が急務とされており、JICAは、海洋プラスチックごみ対策だけでなく、廃棄物管理も含んだ総合的な視野で、途上国のニーズに合わせた協力に取り組んでいきます。