途上国メディア、課題解決に貢献する日本の技術の最前線へ

2012年12月27日

JICAは12月3〜14日、海外のメディア関係者に日本で国際協力に関連する現場を訪問してもらう「海外メディア本邦招へいプログラム」を実施した。アフリカからガーナ、ケニア、タンザニアの3ヵ国、東南アジアからインドネシア、カンボジア、バングラデシュ、東ティモール、フィリピン、ベトナム、ミャンマーの7ヵ国、計10ヵ国の15人が参加した。

このプログラムは、日本のODAへの取り組みや知見、技術の理解促進のため、JICAが毎年実施している。今年は「開発途上国の課題解決に貢献する日本の技術」をテーマに、日本のインフラの運営・管理技術、中小企業の海外展開、BOPビジネス(注1)などについての取材機会を提供した。

輸送インフラ技術に高い関心

鉄道や幹線道路などの建設が進む東南アジアとアフリカ。メディア関係者は、プログラムの中でも輸送インフラ関連技術に高い関心を示した。

車両点検は正確さだけでなく効率も重視していることを聞いた(JR東日本総合車両センター)

海外鉄道の調査・設計、施工管理、維持管理などに取り組む日本コンサルタンツ株式会社(東京都千代田区)では、日本の鉄道事業の運営や維持管理、その技術を生かした海外展開について聞いた。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)では、1日1,600万人以上もの乗客が利用しているにもかかわらず、非常に正確に運行され、事故が極めて少ないことを知り、「われわれの国も見習いたい」と口々に語った。また「途上国で鉄道技術を導入する際に重要なことは何か」という質問に、五十嵐英晴技術本部部長は、「周辺国を意識して最先端の技術を導入しようとしがちだが、その国の実情に合った適正技術を見極めることが重要」と、自身の途上国での技術指導の経験から答えた。

日本の技術を象徴する東京スカイツリーを建設した株式会社大林組も訪ねた。狭い敷地に世界一高い塔を建設する困難さを克服し高い精度を達成したさまざまな技術や、歴史上で地震による倒壊例がないとされる五重塔の構造を現代の技術に置き換えた耐震性などに、参加者は強い関心を示した。また「これだけの工事にもかかわらず、事故や作業員のけががほとんどなかったとは」と、安全管理体制を賞賛した。

安全で安価な水に需要

電動バイクは家庭用の電気プラグで充電できる。右端が徳重社長

日本を代表する大企業を訪れた一方、JICAの中小企業連携促進調査(注2)やBOPビジネス調査(注3)などを活用して、海外展開を図る中小企業も取材した。

電動バイク製造販売の株式会社テラモーターズ(東京都渋谷区)は、創業から2年で日本の電動バイク市場トップに躍り出た企業。徳重徹社長から、電動バイクの普及は途上国の大気汚染削減に役立つこと、日本、韓国などで部品を調達し、東南アジアで組み立てることにより、現地の雇用拡大にも貢献することを聞いた。特に記者らは電動バイクの性能に興味津々で、矢継ぎ早に質問が飛んだ。「現状は7時間の充電で40キロ走行できる。最大スピードは50キロ。近い将来2時間で充電できるようにしたい」と徳重社長は答えた。

納豆の粘り成分「ポリグルタミン酸」を使用した浄化剤は1袋1ドル弱。小田会長(左端)を撮影するカメラクルー

水質浄化剤を製造販売する日本ポリグル株式会社(大阪府大阪市)は、アジアやアフリカで販売実績がある。小田兼利会長は、参加者の目の前で汚水に水質浄化剤を入れて、浄化された水を飲んだ。「私の夢はスラム街から社長を輩出すること。このビジネスは、あなたの国で明日にも始められる」と小田会長がはっぱをかけると、「下痢で死亡する幼児が多い自国では、このような安くて簡単な技術のニーズは大きい。私が自国で販売したいぐらいだ」と応じる記者が出るほど好評だった。

白バケツの汚水が自転車をこぐと浄水になって青バケツに出てくる(右から3人目が勝浦社長)

浄水器を製造販売する日本ベーシック株式会社(神奈川県川崎市)は、勝浦雄一社長が自転車一体型浄水装置を実演し、「自転車搭載型なので災害時にも機動性があり、1時間に300リットルの水を浄化できる」と説明した。「1台55万円は高い」との声に、勝浦社長は「現在、バングラデシュで実証調査を実施中。現地生産すれば、半額程度になる。各国の実情に合わせた製品開発を進めている」と応じた。

ケニアの「スタンダードメディアグループ」の編集者のデービッド・オヒト・アオルさんは「日本の技術は途上国の課題解決に大いに貢献できる。アジアでの展開は活発だが、成長するマーケットとしてのアフリカにももっと注目してほしい」と日本企業に大きな期待を寄せた。

日本人の「正確さ」と「おもてなし」、心に刻む

今回のプログラムを通じて、日本人や日本の社会システムすべてが時間に正確なことが、参加者に強い印象を残したようだ。また約2週間の滞在中、街で触れ合った一般の日本人の親切で真摯(しんし)な対応に好感を抱いた参加者は多かった。ベトナム国営ラジオのレポーターのヴー・ホー・ディップさんは、「日本の活発な対ベトナム投資に加えて、日本人が持つ『おもてなし』の精神についても伝えたい」と語った。

また、地震などの災害対策はインフラ整備においても重要なため、インフラ関連企業は説明の中で必ずその点に触れた。自然災害で被害を受けた国も多いことから、兵庫県の「人と防災未来センター」を訪ねた際は、一般の入場者に、地震の体験などについて熱心に質問する姿も見られた。「大災害に何度遭っても、その経験を継続的に生かして街を迅速に復興させ、次の災害に対する抵抗力をつけていく日本人は力強い」とオヒトさん(前出)は感服する。

フィリピンのテレビ局「ABC開発法人」のシェリル・ヤオ広報部長は、自身の担当するニュース番組で、「神戸での取材を基に、災害時に必要とされる水浄化の技術も絡めて災害対策を取り上げたい」と言う。

参加メディアの中には、日本滞在中から、毎日現地に記事を配信する記者も多く、日本の技術に対する関心・期待が高いことがうかがえた。インドネシアの日刊紙「ビジネス インドネシア」アシスタントエディターのラトゥナ・アリヤンティさんは、「日本の現場での取材経験はもちろん、他国のメディアで働く人たちと出会えたことは貴重な経験。このプログラムは、今後もぜひ続けてほしい」と語り、日本を後にした。


(注1)BOP(Base of the Pyramid、低所得者)層が抱えるさまざまな問題に改善をもたらすビジネス。
(注2)途上国の開発課題解決に貢献できる中小企業の海外展開のための調査を支援する制度。
(注3)企業などが行うBOPビジネスとの連携を促進するため、事前調査を支援する枠組み。