ミンダナオ新自治政府の円滑な発足に向けて(フィリピン)

−「バンサモロ移行委員会」メンバーらが来日−

2013年4月1日

40年にわたり政府と独立を求めるグループとの間で紛争が続いたミンダナオ。2012年10月、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で和平の枠組み合意が締結され、2016年に「バンサモロ自治政府」を創設することで一致した。新自治政府発足に向けて今年2月、バンサモロ基本法の策定と社会・経済開発の調整を担う「移行委員会」のメンバーが任命された。

その移行委員会のメンバーとMILF和平交渉団が3月17〜24日、JICAと外務省の招きで来日した。構成メンバーは、移行委員会議長兼MILF和平交渉団長のモハガー・イクバル氏を含むMILF側8人、フィリピン政府側4人の計12人。

JICAは現在、2016年のバンサモロ政府の円滑な設立に向けて、「バンサモロ包括能力向上プロジェクト」実施の準備を進めている。その第一弾として、今回の招へいが行われた。関係省庁との意見交換や政策研究大学院大学での講義、広島県視察を通じて、日本の近代化と戦後復興経験、そして現在の行政の仕組みなどを新政府の設立に生かしてもらうためだ。

ミンダナオ和平とJICAの支援

ミンダナオにJICAの支援で開設された女性職業訓練所で学ぶ女性たち

フィリピン政府とMILFとの和平プロセスは、2003年の停戦合意、2004年からのミンダナオ国際監視団(IMT)の活動により進展。2008年8月、土地問題の解決をめぐる国内調整に失敗し、武力衝突が再燃したが、2010年2月に和平交渉が再開された。2011年8月、ベニグノ・アキノ3世大統領とムラド・エブラヒムMILF議長とのトップ会談が成田(千葉県)で行われたことを契機に和平交渉が進展し、2012年10月、ミンダナオ和平の枠組み合意が締結された。

JICAはこれまで、IMT社会経済開発部門への専門家派遣や学校建設などのコミュニティー開発や人材育成を通じて、和平プロセスの進展と地域の復興・開発に貢献してきている。

産業振興、徴税、治安維持に関心

招へいプログラムは、関係省庁の視察から始まった。地方自治を司る総務省では、国と地方の事務分担や地方交付税交付金(注1)などをめぐって、率直かつ活発に意見を交換した。治安維持のため、どのような警察組織をつくるかは重要課題の一つ。警察関係者との面談では県警の仕組みに関して質問が出た。

約7年ぶりに再会した緒方顧問(左)とイクバル議長(右)

JICAを訪れた一行は、2006年にミンダナオを訪問した緒方貞子特別顧問と面談。「人間の安全保障の観点から、ミンダナオ紛争解決は重要だ」とあらためて緒方顧問が述べると、イクバル議長が「われわれを勇気付けてくれるJICAの支援は、緒方顧問のダラパナン(注2)訪問から始まった。あの日のことは、決して忘れない」と目頭を熱くする場面もあった。

政策研究大学院大学では、日本の「統治機構・行政運営」「国会・選挙・政党制度」「地方自治」「近代化・経済発展」などの講義を受けた。選挙制度や政党制に関して、熱心に質問するメンバーが多かった。「近代化・経済発展」の講義で、明治政府の富国強兵策や第2次世界大戦後の雁行形態(注3)による復興について聞き、「ミンダナオでは産業が成熟していないため、いきなり民間投資を呼び込むのは難しい」「成長のためには政府が戦後復興を主導した雁行型のモデルは非常に参考になる」「日本の手法には学ぶことが多い」などと口々に語った。

江田島でカキの養殖・加工場を視察

一行は21日午後、広島に移動。広島県庁を訪問し、平和記念館を訪れた。第2次世界大戦で焦土となった街の写真と現状を比較し、驚嘆の声を上げた。また、広島湾に浮かぶ江田島を訪れ、カキの養殖・加工場を視察した。カキの養殖はミンダナオの主要産業の一つ。江田島市職員が用意した資料で、同市のカキ生産量(年間2万3,000トン)がフィリピン全体とほぼ同量であることを知り、ミンダナオの産業育成に希望の光を見たようだ。

「チームビルディング」の一助に

プログラムを終えて、イクバル議長は「国づくりは和平交渉より難しいと実感している。日本の行政システムをそのままコピーすることは不可能だが、手本としてバンサモロ政府をつくり上げたい」と述べた。また、和平交渉団のマイケル・マストゥーラ氏は「日本で学んだことを生かすのは、あなたたちだ。移行委員会の使命であるバンサモロ基本法の策定を迅速に進めなければならない」と実務に当たる委員会メンバーを激励した。

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広島を訪問するころには一体感が生まれた

今回の招へいは、うれしい副産物を生み出した。委員会メンバーの任命から間がなく、MILF側とフィリピン政府側の間では、初対面のメンバーも多かった。和平の枠組みが合意されたとはいえ、長年、敵対してきた両者。初日はギクシャクした雰囲気もあったが、日本滞在中に同じ時間と空間を共有したことで、お互いに打ち解け、チームビルディングにつながったようだ。

JICAは今後、政策研究大学院大学と連携し、バンサモロ基本法の策定を具体的に支援するプログラムを実施する予定だ。


(注1)地方自治体の収入の財政格差を補うために交付される資金。国税の一部を財政基盤の弱い自治体に配分する。
(注2)ミンダナオにあるMILFの拠点。
(注3)後発国の産業発展を示す説の一つ。消費財の輸入が先行し、次いで国内生産が増大し、最後に輸出が増えるという推移が、雁の群れ飛ぶように現れることをいう。