稲作大国マダガスカルに革命を

−JICA専門家たちの挑戦−

2013年9月6日

マダガスカルは、サブサハラ・アフリカに位置する世界で4番目に大きな島国。バオバブやアイアイなど固有の動植物で知られる国だが、ここに住む人々の多くがインドネシアを起源とするアジア系で、それを裏付けるかのようにコメを主食としていることはあまり知られていない。国民一人当たりのコメ消費量は、日本人の約2倍の年間120キログラムで、農民の7割以上が稲作に従事している。世界各国に広まっている集約的水稲栽培法(SRI)(注1)発祥の国でもある。

しかし、サイクロンなどの影響でコメの国内生産量が変動しやすく、コメ消費量の約10パーセントを輸入に頼っているのが現状だ。マダガスカル政府は、2008年からの10年間で、コメの収量を3倍に増加させるとともに、コメの輸出国になることを目指しており、コメ増産のためSRIを推奨しているが、田植えの手間や水管理の難しさもあって、導入している農家はわずか3.5パーセントにとどまっている。JICAは人口集中地域の中央高地のコメの増産を目標に、2009年、「中央高地コメ生産性向上プロジェクト」(PAPRIZ)をスタート。コメの生産性向上のための「技術パッケージ」の開発をはじめ、種子の増殖・配布体制の整備、コメ生産技術の指導体制の整備などに取り組んでいる。

農家も参加し共に開発する稲作技術

技術パッケージ開発の中心的役割を担う新井専門家

マダガスカルには連綿と受け継がれてきた伝統的な稲作技術が存在する。その上に、政府が推奨するSRIもある。プロジェクトの最優先課題は、地域の特性によって各種の推奨技術を体系的にまとめた技術パッケージの開発だ。それにより、コメの収量増だけでなく、農家の収入増を目指している。開発に当たっては、農家の水田で行った実験結果を基に、参加した農家の意見を取り入れながら、その地域の特性に合った稲作技術を決定するというプロセスを踏んでいる。これは、農家が自ら考えながら稲作を行う姿勢を養うことを重視しているためだ。また、男性中心にならないよう、農家のほとんどが夫婦で参加しているのも、技術パッケージの開発プロセスの特徴となっている。

プロジェクト当初からパッケージ開発の中心的役割を担ってきた新井圭介専門家(群馬県出身)は、「農家と一緒につくる技術だから、みんなに受け入れてもらえた」と振り返る。過去にSRIを導入して失敗した経験を持つ農家のラコトボソン・ガブリエルさんも、「PAPRIZ技術は非常にわかりやすい。以前は家族が食べる分をまかなえず、毎年、何百キロものコメを買い足していたが、今はコメの生産量が増えたことで、余剰分を売って現金収入を得られるようになった」と成果を語る。今はこの技術パッケージを農家仲間に紹介しているそうだ。

水利組合の活性化にひと役

灌漑システムの復旧に取り組んできた吉井専門家(右から2人目)

技術パッケージの開発やコメ生産技術の指導にすぐに取り組むことができない地域もあった。モデルサイトの一つであるアロチャ・マングル県では、稲作に必要な水が不足し、2010年には2割弱の水田にしか水がきていないという事態に陥っていた。灌漑(かんがい)施設の堰(せき)が決壊したことに加え、日本の無償資金協力で行う予定だった灌漑施設整備計画が、2009年の政変で見合わせとなったためだ。この危機に立ち向かうため、吉井健一郎専門家(鹿児島県出身)は、決壊した堰を土嚢(のう)で修理するところから活動を始め、農家の信頼を得ていった。

足りない資金を補うため、農民から水利費を徴収し、弱体化していた水利組合を活性化することにも取り組んだ。貧しい農家から水利費を集めることは困難も予想されたが、水田に水がくるという結果が見えると年々徴収率は上がり、灌漑施設の改善は進んでいった。かつて水不足で苦しんだことがうそのように、3年後の今年の夏は8割以上の水田が青々とした稲に覆われている。「洪水などが起こったときには、近隣の水利組合同士の協力が必要となる。次は、水利組合大連合を立ち上げたい」と吉井専門家は意欲的だ。

映画で稲作技術が向上

カメラ横で撮影を見守る中村専門家。自らシナリオを書き、監督も務めた

稲作技術を効率的に普及する方法を考えていた中村公隆専門家(東京都出身)は、国民的喜劇俳優のラコトソン・ツァラファラさんをイメージキャラクターに、稲作技術を紹介する映像教材を制作した。映像には、優良種子や小型農業機械の利点を登場人物が実演しながら説明したり、技術パッケージの収益性を農家の会話を通じて訴えるシーンを織り込んだ。さらに、農業省による対象県での上映キャラバン、ツァラファラさんと共に各地を巡回して行うプロモーションイベント、新作映画と映像教材を同時上映するロードショー、未電化地域のビデオシアターでの上映などを通じ、普及・広報活動を繰り広げた。

その効果はてきめんで、優良種子の売り上げは例年の4倍に増加。当初1万5,000本を無償で配布したVCD(注2)には問い合わせが殺到し、海賊版が出回るほどの人気となったため、新たに1万5,000本を有料で販売したが、それも完売した。映画本編のVCD化の際に挿入される短編の映像教材は、国民の半数の約1,000万人が見ているといわれるほどだ。最近、VCD教材購入者を対象に行った調査によると、購入者の58パーセントが教材の推奨技術を実践し、平均44パーセントの収量増を体験しており、メディアによる普及の有効性も実証された。

「考える稲作」を実施する農家を育成

推奨技術の普及に大きく貢献した映像教材

マダガスカルのコメの生産量は、この30年で着実に伸びてはいるものの、年率3パーセントで増加する人口の伸びにはなかなか追いつけないでいる。サブサハラ・アフリカでナイジェリアに次ぎ第2位のコメ生産量を誇るマダガスカルは、「アフリカの穀物庫」として地域に君臨する可能性を秘めてはいるが、そこに到達するまでに克服すべき課題も多い。

プロジェクトでは、小規模農家を対象に改良稲作技術のさらなる普及拡大に努めていくとともに、水利組合運動、共同購入・共同販売などの実践を通じ、農家に営農のノウハウを伝えていくことを重視している。そのために目指すのは、技術開発プロセスなどへの参加を通じて「考える稲作」を実施する農家の育成だ。農家一人ひとりのマインドの変化が、いつの日かマダガスカルのコメ生産に革命を起こすと信じ、プロジェクトの挑戦はまだまだ続く。



(注1)System of Rice Intensification(SRI)は、1980年代にマダガスカルで開発された稲の栽培方法。人手をかけた省資源・自然循環型の農法で、世界42ヵ国に導入され、コメの収量アップに一定の成果を挙げている。
(注2)ビデオCD。CDに音声と動画が保存できるメディア。