池上彰と考える「グローバル人材とは何か」

−グローバル人材となるための第一歩の踏み出し方−

2013年10月10日

近年、国内需要の低迷や新興国をはじめとする海外市場の活発化により、海外に目を向ける企業が急増している。これらの企業にとって、海外の人と対等に渡り合って市場を開拓し、自社の成長につなげることができるグローバル人材の確保は急務となっている。その方策の一つとして、青年海外協力隊経験者を採用したり、協力隊への社員の参加を人材育成の一環としたりする動きが広まりつつあり、JICA青年海外協力隊事務局への企業からの問い合わせも急増している。

グローバル人材といえば、「語学力」「高学歴」などのイメージが先行しがちだが、そもそもどのような人材なのか。その確保に向け、開発途上国で活躍する青年海外協力隊になぜ関心が高まっているのか。これらの疑問を解き明かすイベント「池上彰と考える『グローバル人材とは何か』」が、9月28日、東京都千代田区の共立講堂で開催された。ジャーナリストで東京工業大学教授の池上彰氏を迎えて、グローバル人材が意味するものと必要な能力、また、グローバル人材となるための第一歩の踏み出し方について考える機会となった。

ともに生み出すという発想がグローバル化を促進する

イベントには定員をはるかに上回る観覧希望があった。対談する池上氏(左)と山川氏

第1部は「グローバル人材って何?」をテーマに、池上氏と『日経ビジネス』編集長の山川龍雄氏が、ビジネスや政治、宗教、学問、震災などを切り口に対談した。

山川氏は、企業のグローバル展開やグローバル人材を取り巻く現状についての豊富な取材経験をもとに、ビジネス界の観点から「日本を起点にして物事を考えるのではなく、地球規模で広く物事を考えるという視点がグローバル人材の一つの要素」と言及。商品開発を例にとり、「日本は均質国家と呼ばれ、高品質な商品を提供するという良い面もあるが、海外に行くと『郷に入れば郷に従え』の気持ちになかなかなれず、『日本はこうだから、現地もこうあるべき』という発想で取り組むことが多い。そういった考え方を崩すことがグローバル人材とは何かにかかわってくると思う」と語った。

「日本人は相手の立場に立って考えることが得意といわれているが、果たしてそうだろうか」と山川氏

山川氏は、個人の発想だけではなく企業側にも課題があると言う。「経営者に経営の課題やリスクを問うと、8割が『グローバル人材の不足』を挙げる。しかし、採用する企業の本社側がグローバル化していないのが実状。海外に行った人だけがグローバルを意識する時代ではなく、日本で仕事をする人こそグローバルな視点を持っていなければならないのでは」と課題を挙げた。「企業がグローバル化するには、組織がダイバーシティー(多様性)を高め、多様な人たちと共にお互いを理解しながら、一つの目標に向かっていくことが必要。『メイド・イン・ジャパン』という言葉があるが、これからは『メイド・ウィズ・ジャパン』『ともに寄り添う』という発想で、物やサービスを考えていかなければいけない。これがグローバル人材の定義の一つではないか」と述べた。

日本の良さも自覚した上で、世界で活躍できる人材

「多様性によってまったく違うものを生み出すことができる」と語る池上氏

一方、池上氏は各国を取材してきた経験をもとに、グローバル人材について「世界に通用する人間であると同時に、日本の良さも自覚した上で働くことのできる人材」と定義した。それには「日本について客観的な目を持つことに加え、自分とは違う物の見方や考え方をする人がいるという多様性を常に意識することが大切」と主張。東京工業大学のリベラルアーツセンターで教授を務める池上氏は、世界に通用する人材として「リベラルアーツ(人間としての教養)」の大切さについて触れ、米国で政治家や世界的な科学者を輩出する大学を視察した話を紹介。「米国の場合は、大学で徹底的にリベラルアーツを身につけた上で専門的な知識を勉強する。これが成長の土台になる。かつて慶應義塾大学の小泉信三塾長が『すぐに役に立つことは、すぐに役に立たなくなる』と言ったが、その反対がリベラルアーツで、即効性はないが人間力につながるもの」と紹介した。

ボランティア活動で見つけた働くことの本当の意味

「相手のニーズを取り入れて日本の技術を提供することが海外進出ではないか」と綾井氏

「一歩を踏み出すチャレンジ精神がグローバル人材へとつながる」と話す井上氏

第2部では、「真のグローバル人材になるために、その一歩−選択肢としての青年海外協力隊−」をテーマに、池上氏、山川氏のほか、協力隊経験者を積極的に採用しているロート製薬株式会社人事総務部長の綾井博之氏と、ボランティア休暇制度を利用して協力隊に参加したユニチカ株式会社の井上邦子氏を迎えて、パネルディスカッションが行われた。

綾井氏は、ビジネスの世界で役立つ協力隊経験者ならではの武器を二つ挙げた。「一つ目は、リスクテイク(危険や失敗を恐れず実行する)できること。安全が確認できてから一歩を踏み出す人は多いが、協力隊経験者はそうではない。二つ目は、白紙の上に絵を描けること。協力隊での活動で、ビジネスの基本である市場調査や営業、信頼関係の構築、アフターケアなどをたった一人で行ってきた経験がある。これは今の日本ではあまりできない経験で、その意味でも協力隊への参加は有意義だと感じる」と述べた。

一方、井上氏は、ブルキナファソで村落開発普及員として環境教育活動に取り組んだ経験をもとに、「窮地に立たされるほどの辛い経験をしたことで、自身や周囲の状況を客観的に見ることができるようになった」と振り返る。現在の仕事にも、明確なビジョンが持てるという点でこの経験が生きていると感じており、「現在開発している商品がいつかは途上国の役に立つと考えて働いている。ボランティア精神は会社への貢献にもつながる」と語った。

生き方そのものを表す、グローバル人材

パネルディスカッションでは「真のグローバル人材になるために」をテーマに、活発な議論が繰り広げられた

これを受けて池上氏は、「これこそ本当の意味での働きがい。自分のためになり、会社の利益にもなるが、結局は人のためになるということが、社会の中で働くということ」と、ビジネスでいうWin-Winの関係にボランティア活動がつながっていると伝えた。また、山川氏は、「ボランティアと企業の活動が切り分けられて考えられていることがあるが、根底にあるものは同じ。持続可能な活動を目指し、究極的には周囲が喜ぶことに取り組んでいる」と、企業の継続にも社会貢献の精神が根底にあると語った。

「日本の常識が通じない場所での経験は、コミュニケーション能力やファシリテーション能力の向上につながる」と池上氏

最後に池上氏は、「グローバル人材とは、生き方そのものを表す。生きていく上で大事な素質や資質を身につけて自分の人生を豊かにし、『自分は世のため人のためになっている。社会の中で生きていく価値があるのだ』という充実感を持つことが大切。それは、働くことでもボランティアでも、さまざまな所で経験できるはず。ぜひ、自分の存在は意味があるということを自覚できるような生き方や働き方をしてほしい。それが結局はグローバル人材につながる」とのメッセージを伝え、イベントを締めくくった。

このイベントの様子は「YouTube/JICA青年海外協力隊公式チャンネル」でご覧いただけます。