途上国で動き始めた日本の「環境未来都市」

2013年11月1日

北九州環境ミュージアムで説明を聞く研修員

JICAは10月16〜26日、「環境未来都市構想推進セミナー」を実施した。アジア、中南米、中東の開発途上国23ヵ国から、都市づくりに携わる中央政府の局長や地方自治体の幹部、大学関係者など39人が参加した。コスタリカからは住宅・人間居住省のギド・モンヘ大臣が参加するなど、日本の環境未来都市構想(注1)に対する各国の関心の高さがうかがえた。

今回の研修は、北九州市(福岡県)と横浜市(神奈川県)で開催される国際会議に合わせて実施されたもの。研修参加者は会議に出席したほか、環境未来都市(注2)に認定されている北九州市、横浜市、東松島市(宮城県)の環境関連の取り組みを視察した。

複数の国際会議に参加

「OECDグリーンシティ会合」では北九州市をグリーン成長の観点から分析した報告書が発表された

北九州市では、18日に経済協力開発機構(OECD)主催の「OECDグリーンシティ会合」、19日に内閣官房主催の「第3回環境未来都市構想推進国際フォーラム」、20日は外務省、OECD、国連工業開発機関(UNIDO)が主催する「都市づくりの将来に関する国際会議」に参加し、紹介される各国の潮流に耳を傾けた。

北九州市はOECDが承認したグリーン成長都市(注3)の一つでもある。北九州市をグリーン成長の観点から分析した報告書『OECDグリーン成長スタディ:北九州のグリーン成長』が完成したことから、「OECDグリーンシティ会合」が開催され、OECDをはじめ、各国の関係者が集った。会合では、北九州市が達成したことが報告され、今後の課題について議論が行われた。

環境未来都市構想推進国際フォーラム」では、「環境・社会・経済の融合による新しい価値の創出」について討議された。スウェーデンのストックホルム市は、760キロメートルに及ぶ自転車道整備や、渋滞税の導入などにより、温室効果ガスの低減とともに経済成長を実現している例を紹介。インドネシアのスラバヤ市は、コンポストの利用によって、人口増の一方で廃棄物を減量している施策を発表した。また環境未来都市における新しい価値を創出する仕組みとして、1)効果的な推進体制の構築、2)市民参加の促進、3)資金メカニズムの整備、4)成果の社会発信、5)海外展開、6)進捗管理の六つの要素が重要であることを確認した。

北九州市では「地域節電所」に注目

東田地区のスマートコミュニティセンターでCEMSの説明を受ける研修員

21日は引き続き北九州市で、環境関連の取り組みを視察した。「環境ミュージアム」では、八幡製鉄所に始まる産業発展、高度成長期の公害問題、市民運動を契機とする公害対策、そして、OECDの環境モデル都市や日本の環境未来都市に選ばれるまでの北九州市の取り組みを学んだ。「バンコク近郊の工業団地でも公害問題への関心が高まっている」とタイの研修員は語った。

熱エネルギーの有効利用などのモデル地区である八幡東区東田地区のスマートコミュニティセンターで、地域節電所(CEMS:クラスター・エネルギー・マネジメント・システム)(注4)の説明を受けた。東田地区では、気象庁から翌日の詳細な気象予報の情報を購入し、過去のデータとつき合わせて翌日の需要量と再生可能エネルギーによる発電量(供給量)を予測し、各家庭に事前に電力価格を通知している。データを一元管理することで再生可能エネルギーの不安定さを制御している。このシステムを見た多くの研修員は「住民の節電への意識が高まる」と絶賛した。

続いて「北九州エコタウン」を訪問。ここは全国に26ヵ所あるエコタウン事業の一つ。大学などの研究機関と民間企業による環境技術の共同研究開発拠点「リサーチパーク」に加え、さまざまなリサイクル企業が集積しており、資源循環、ゼロ・エミッションの構築を目指している。見学した企業では、「リサイクル企業の収益源は何か」「補助金なしで経営は自立しているか」など、資金面での質問が研修員から多く出た。「基本的に自立した経営をしている」との回答を聞き、「自国ではまだリサイクルがビジネスとして成立していない。その方法を知りたい」とマレーシアの研修員は熱心に質問した。

東松島市のがれき処理方法に感嘆

手作業で分別が行われている

23日は、東日本大震災の被災地、東松島市を訪れた。東松島市では現在も約7,000人が仮設住宅などで避難生活を余儀なくされており、復興プロセスでは、住民の集団移転とがれきのリサイクル処理に注力している。市では環境、高齢化対策、減災・防災を柱に環境未来都市構想を立てている。

一行は「大曲震災がれき処理場」を視察。多くの重機が作業する中で、手作業による分別が行われていた。「自国では家庭のゴミも、きちんと分別できないのに」と感嘆する人もいるなど、多くの研修員が手作業の光景に衝撃を受けた。東松島市は2003年の宮城県北部地震での経験を教訓に、今回は現場で分別した後にがれきを輸送することで、処理費を大幅に削減している。手作業で17品目に分別し、97パーセントのリサイクル率達成を目指している。東日本大震災前の同市の廃棄物処理量は1万トン程度だったが、現在は109万トンのがれきがあり、このうち107万トンをリサイクルする計画だ。

また「奥松島『絆』ソーラーパーク」も訪れた。同パークは、再生可能エネルギー導入促進のため市が購入した沿岸部の被災地に建設中で、民間投資を呼び込むことで沿岸部の土地の荒廃を防ぎ、効率的な土地利用を図っている。

途上国と日本の都市間連携を強化

「アジア・スマートシティ会議」でJICAは、途上国と日本の都市間連携の事例について発表した。

24日、一行は横浜市で開催された「アジア・スマートシティ会議」に出席した。この会議では、JICA経済基盤開発部の三浦和紀部長がスピーカーとして登壇。「環境未来都市に選ばれている都市をはじめ、日本の各地方自治体にはその土地特有の強みがあり、さまざまな課題を一つひとつ克服してきた豊富な都市経営の経験もある。JICAは今後、途上国と日本の都市間連携による課題解決に力を入れていきたい」と述べた。

研修を終えて、コスタリカのモンヘ大臣は、「環境未来都市構想は、総合的な未来のビジョン。問題はこれらを自国にどう適用し、実施していくかだ。今回のセミナーでは、日本の複数の都市で実施されている事例を見られたことが大きな収穫だった」と述べた。「研修を通じ、参加した23ヵ国の多様な都市開発の現状や手法を共有できたことは素晴らしい経験だ」とイラクの研修員は語った。

今回の「環境未来都市構想推進セミナー」は、2011年のスタートから3回目となる。参加した研修員からは「社会、経済、環境に配慮した『環境未来都市』のコンセプトを都市計画に反映していきたい」との前向きな意見が多数聞かれた。JICAはセミナーの成果を踏まえて、引き続き途上国の持続可能な都市開発を支援していく。


(注1)限られた数の都市・地域を選定し、環境や超高齢化などの点で成功事例を創出するとともに、それを国内外に普及展開することで、需要拡大、雇用創出などを目指す。東日本大震災後の日本の再生のために国が定めた「日本再生戦略」で重要施策に位置づけられる国家プロジェクト。
(注2)認定されているのは下川町(北海道)、柏市(千葉県)、横浜市(神奈川県)、富山市(富山県)、北九州市(福岡県)の5都市に、東日本大震災の被災地域の6都市を加えた11都市。
(注3) OECDが2010年から取り組む「グリーンシティプログラム」の一環。グリーン成長に関する世界のモデル都市の政策や成果を検証し、報告書としてまとめ、全OECD加盟国に情報発信し、世界のグリーン成長を促進することを目的とするもの。モデル都市には2010年にパリとシカゴ、2011年はストックホルムと北九州市が選ばれた。
(注4)需給ギャップを調整する価格設定を機動的に行うことで、電力供給を効率的に行う仕組み。通常の電力供給システムは、予測される需要量のピークに合わせて設備を構築する。