アフリカの「コメ大陸化」を担うエジプト

−稲作技術第三国研修を支える人々−

2013年11月22日

エジプトのアフリカ向け稲作技術の第三国研修には四半世紀もの歴史がある。第三国研修とは南南協力(注1)の代表的な事業の一つ。過去に日本の技術支援を受けた途上国の機関が、他の途上国から研修員を受け入れて技術指導を行い、日本はそれを資金面や技術面で支援する。途上国の自立発展に役立つことから、JICAでは積極的に支援している。

長年にわたってエジプト稲作技術の第三国研修を支えてきた研修実施機関の二人の活躍ぶりを紹介する。

「コメ大国」エジプトの誕生を後押しした日本のODA

肥沃な土壌、長い日照時間、少ない病害虫など自然環境に恵まれるエジプトでは、19世紀から稲作が盛んだ。1981年には5トン台だった単位面積当たりのコメ収穫量を、2008年には9.7トンに伸ばし、日本の6.4トンを大きく上回る「コメ大国」となった背景には、1980年代からの日本のODAによる貢献がある。そのためエジプトのスーパーには、コシヒカリと同じイネの品種である「ジャポニカ米」が並ぶ。

エジプトは日本の協力で培った知見を基に、周辺の国々への技術移転をスタートさせた。アフリカ向け稲作技術の第三国研修は1987年に始まり、現在はアフリカのコメ生産倍増に取り組む「アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development: CARD)」(注2)を支援するため、サブサハラ・アフリカ(注3)諸国向けの「アフリカ向け稲作技術」研修を2009年から実施している。「Seed to Seed(種子から種子まで)」をコンセプトとした研修は、土壌の整備や田植えから稲刈り、精米までの稲作の基本事項を、実習を通して身に付けるもので、研修を受けた人々やその所属先から高い評価を得ている。

この「アフリカ向け稲作技術」を支えているのが、モハメッド・ヤヒア・サイードさんとタメル・ファロック・メタワリさんだ。

きめ細かい配慮で研修員に信頼されるサイードさん

ウガンダを訪問して元研修員と再会(左がサイードさん、2人置いてメタワリさん)

現在、フェーズ2を実施中の「アフリカ向け稲作技術」研修で重要な役割を果たしているのが「エジプト国際農業センター(Egyptian International Center for Agriculture: EICA)」だ。EICA勤続20年以上になるサイードさんは、「アフリカ向け稲作技術フェーズ1」(2009年4月〜2012年3月)のコースコーディネーターを務め、今年、センター長に昇進した。「JICAとの協力をさらに進めていきたい」と意欲的だ。

サイードさんはコースコーディネーター時代、現場研修や実習地で研修員と同じホテルに宿泊し、家族のように過ごした。エジプトでは2011年と今年、騒乱が起きている。今年7月の騒乱の最中も、カイロから車で3時間半のカフルエルシェイクにある農場へ実習に行く際は、道中を心配し、センター長であるサイードさん自らが付き添った。治安状況を考慮し、研修スケジュールは大幅に変更されたものの、サイードさんやEICAスタッフのきめ細かい配慮で、2011年の騒乱の際と同様、研修は無事に終了した。

サイードさんはセンター長になった今も、仕事の帰りに研修員が宿泊しているホテルに立ち寄り、彼らの話を聞いている。そうした対応に研修員の信頼も厚い。

現地で応用できる技術を重視するメタワリさん

元研修員の職場、ケニアのリフトバレー州の農場で(左から地元の農家、元研修員、メタワリさん)

もう一つ、重要な機関として、主に実技実習を行う「稲作研究研修センター(Rice Research and Training Center: RRTC)」がある。RRTCシニア研究員のメタワリさんは2000年からこの研修に携わっている。研修対象者は大卒レベルの稲作普及員だが、稲作普及の進度が国によって違うため、参加者のレベルはまちまち。「どのレベルの人が参加しても研修に満足してもらえるように工夫している」と言う。

基本的な知識が不足している人に対しては、参考資料を配布し、実習時も詳しく説明している。レベルが高い人に対しては、個別の要望に時間外でも対応している。例えば4月から9月に実施した今年の研修では、技術普及員が大半を占める参加者21人の中に、研究者が二人いた。通常はパイロット農場での野外実習が多く、実験室での実習は顕微鏡を使って病害虫を観察する程度。しかし今回は特別に、研究者が望んだ土壌や水の成分分析なども時間外に実施した。「研修員にとっては、またとない貴重な学びの機会。希望はできるだけかなえるように努力している」とメタワリさんは語る。

メタワリさんの同僚に、JICA第三国専門家(注4)としてガーナに派遣された経験を持つ人がいる。その同僚は、特別な肥料や種子、機械を使うことなく、ガーナにあるものだけを用いて、パイロット農場の収穫量を1ヘクタール当たり2トンから8トンに伸ばした。派遣中、3回もマラリアにかかりながら、ガーナの人々に稲作の基本を伝えた。正しいマネジメントができるようになれば、サブサハラ・アフリカ諸国でもコメを大増産できる可能性が大きいことを示した。

「研修員には、稲作の基本を習得することが重要であること、現地で入手できるものだけを使ってコメの増産が可能であることを実感してほしい。最新の肥料や機械の使用方法も大切だが、研修員が働く現場では入手が難しいことが多い。現地にあるものを使って工夫することが大切だということを研修で伝えていきたい」とメタワリさんは言う。

「JICA農業関連専門家会合」に参加

専門家会合で発表するサイードさん

10月28〜30日、ケニアのナイロビで開催された「サブサハラ・アフリカ農業・農村開発専門家会合」にサイードさんとメタワリさんが参加した。アフリカ農業と農村開発に携わるJICAの日本人専門家が集まる会合で、エジプトで実施している「アフリカ向け第三国研修の稲作技術」を紹介するためだ。

サイードさんはEICAの活動を紹介し、「エジプト革命時も瞬時に正しい判断ができ、何ら支障もなく研修を実施することができたのは、EICAが25年以上にわたってJICAと協力を続けてきたため、研修のノウハウが経験として蓄積されているからだ」と述べた。

メタワリさんはRRTCが実施する具体的な研修内容などを紹介した。「私はJICAに感謝している。コメを与えるのではなく、JICAはコメの作り方を教えているからだ。『魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教えなさい』という中国の有名な言葉がある。コメも同じだと思う」と締めくくった。

ウガンダ、ケニアで元研修員と再会

ケニアのリフトバレー州の農場で元研修員らとともに(左から2人目がサイードさん、中央がメタワリさん)

会合前、二人はウガンダに立ち寄り、第三国研修に参加した元研修員の職場を訪問した。さらに会合後にはケニアの元研修員を訪ねた。二人とも両国の元研修員の奮闘ぶりに感激し、熱心にアドバイスし、激励していた。

ケニアでは稲を30センチメートル間隔で植えているが「病害虫もおらず、このように水が少ない状態なら15〜20センチ間隔でも大丈夫」などと、きめ細かいアドバイスをした。元研修員は「モノや資金は無理でも、ずっと自分たちをフォローしてほしい」と希望。メタワリさんは今年、サポートを続けるため、自らフェイスブックを立ち上げた。

ウガンダとケニアの2ヵ国を訪れたことは、二人にとって、サブサハラ・アフリカの国々でも稲作の普及状況はさまざまであることを知る良い機会となったようだ。例えば、ケニアでは政府がネリカ米の種子を無料で配布する地域があり、農民組織に対して稲作を支援するシステムが整っているのに対し、ウガンダは稲作を開始したばかりだ。

そんな中、昨年、研修に参加したウガンダの元研修員が奮闘している姿があった。パイロット農場で水稲と陸稲の両方を栽培したところ、周辺の農家から自分も稲を栽培してみたいという問い合わせがきているという。また別の元研修員は「5ヵ月滞在して1回も雨が降らないエジプトで、稲作を含めた農業生産が活発だったのには驚いた。水管理の大切さを実感した」と語った。

「水管理にもっと時間を割くようにしたい」。すでに二人は来年の研修について考え始めている。会合への参加や元研修員との再会で得た経験を生かして、パワーアップした研修が企画されるに違いない。


(注1)開発途上国の中で、ある分野において開発の進んだ国が、別の途上国の開発を支援すること。
(注2)JICAが2008年に他ドナーとともに立ち上げたイニシアティブ。2018年までにアフリカのコメ生産を1,400万トンから2,800万トンに倍増する目標の達成に向けて、参加23ヵ国のコメの増産支援を行っている。
(注3)サハラ砂漠以南のアフリカ諸国を指す。
(注4)日本と相手国以外の国から派遣される専門家。