ソマリアの国づくりへの挑戦

−22年ぶりの二国間支援再開に向け、政府関係者が来日−

2013年11月28日

JICAとの協議で田中理事長(右手前)らと意見を交換

東アフリカの「アフリカの角」に位置するソマリアは、1991年に政権が崩壊して以来、長きにわたって無政府状態が続いていた。2012年11月に21年ぶりに統一政府が樹立され、国づくりに向けて国際社会の支援が進んでいる。日本政府は2013年4月に二国間援助を再開することを決めた。これを受け、11月10〜18日、同国の連邦政府、プントランド州政府、ガルムドゥグ州政府(注1)から政府高官19人が、外務省とJICAの招きで来日した。

ソマリアでは劣悪な治安と干ばつにより大量の難民・国内避難民が発生しており、不安定な情勢はテロやソマリア沖の海賊の温床になっているともいわれている。今回の来日では、日本のODAの理念や手法についての理解を深めるとともに、各分野における今後の支援の可能性について、JICA関係者と議論が行われた。また、日本の東日本大震災からの復興への取り組みや、海上保安庁による治安関連活動の視察などを通じ、日本の経験を紛争後の国づくりに生かしてもらうことも目的にしている。

震災復興、治安活動へ高い関心

石巻漁港で現在の再建状況について説明を受ける

13〜14日は、復興への取り組みを視察するため、宮城県で石巻市役所や石巻日赤病院、仙台塩釜港、石巻漁港などを訪問した。ソマリアは洪水などの自然災害が多く、2004年にはスマトラ沖大地震・インド洋津波の被害も受けているため、災害復興に対するメンバーの関心は高い。石巻市役所で復興計画と土地造成計画の説明を聞いた際には、「集団移転先はどのように決定されるのか」「住民の意思はどの程度反映されているのか」などの具体的な質問のほか、「日本赤十字社とソマリア赤新月社(注2)が連携して、こうした災害に対応できないか」といった意見が出た。

石巻日赤病院の視察で意見を交わすメンバーたち

ソニー株式会社や地元産業界と共同研究を行う東北大学未来科学技術共同研究センターでは、電気自動車やドライビングシミュレーターの体験を通じ、日本の研究レベルの高さを実感していた。「ソマリアで走っている車はほとんどが日本車。ぜひ、日本のメーカーに進出してほしい」「ソマリアの学生を東北大学に留学させて先端技術を学ばせたい」などと口々に語った。

海上保安庁横浜防災基地で巡視船を視察

15日は神奈川県横浜市に移動し、横浜市港湾局などを訪問した。海上保安庁横浜海上防災基地では、救難や法執行活動、保有船舶や航空機の概要の説明を受けたあと、巡視船「しきね」を視察した。海賊問題を抱えるソマリアでは、沿岸部の治安活動は国づくりに向けた重要な課題であり、「軍艦や違法漁船に遭遇した場合、海上保安庁はどのように対応するのか」「ソマリア沿岸警備機関の能力をどのように強化できるのか」「日本でソマリア沖の海賊は拘束されているのか」などの質問が出た。

また、横浜市の川井浄水場では、ペットボトルを使った「水のろ過実験」を体験。「塩素の投入割合をどのように決定しているのか」「ろ過池の砂利や砂に付着する汚れはどのように取り除くのか」「技術的なことだけでなく、組織体制、国と地方政府の関係、財源などを教えてほしい」など、専門的なことから実務的なことまで、多くの質問が出た。

経済、畜産――知られざる潜在力

公開シンポジウム。左から二人目がテリー政策計画アドバイザー、右へアブドゥッラーヒ・シニアアドバイザー、ハッジ大臣

16日には、JICA、上智大学、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の共催により、上智大学(東京都千代田区)で開かれた公開シンポジウム「ソマリアの今、そして未来」に参加した。基調講演に立った連邦政府外務国際協力省のジャマル・モハメド・バロウ副大臣は、新政権が、内戦により崩壊した司法制度の復活に取り組んでいることなどを説明。「社会秩序を再構築するには、地域社会のすべての階級を団結させる和解プロセスが必要。そのためには、民主主義に基づき選挙でリーダーを選出しなければいけない。国際社会には、平和と和解に向けたプロセスに対して、共通の一貫した立場をとってほしい」と訴えた。

続くパネルディスカッションでは、ソマリア政府団代表、アフリカやイスラム諸国の研究者、UNHCR駐日代表、JICA職員らが、ソマリアの復興と国際社会の支援について議論した。連邦政府外務国際協力省のモハメド・ムーサ・テリー政策計画アドバイザーは、教育や保健医療が世界最低レベルにあることを説明した上で、「ソマリア人は立ち直りが早く起業精神に富んでいる。国外へ離散した人たちが戻りつつあるのも光明だ」と述べた。

連邦政府財務計画省のアフマド・ハッジ・アブドゥッラーヒ・シニアアドバイザーは、経済復興計画の概略を説明。「国民の生活を立て直すためには、インフラ整備、産業の発展など経済の回復が重要だ」と話した。また、ガルムドゥグ州政府計画国際協力省のモハメド・アリヌル・ハッジ大臣は「携帯電話を使ったビジネスがソマリアでも展開されている。また畜産業も盛んで、中東向けに多くのヤギを輸出している」と、無政府状態だったにもかかわらず経済は成長していることを強調した。

アフリカの政治を研究している東京大学大学院の遠藤貢教授は「国際社会からの援助を具現化するには、ソマリア政府にも一定の行政能力が求められる。その行政能力をどのように実現していくかが課題だ」と述べた。イスラム諸国の宗教対立を研究している上智大学の私市(きさいち)正年教授は「部族意識を克服し、国民意識をどのように形成するかが課題。ほかのアフリカ諸国と違って異なる部族がソマリ語という共通の言語を持っていることは、安定化のための鍵となる」と期待を寄せた。UNHCRのマイケル・リンデンバウアー駐日代表は、ソマリアの国内外に約200万人の難民が存在することを説明し「一部で自発的に帰還する人が出ているなど、明るい材料もある」と述べた。

人材育成、能力強化の支援に注力

東北大学未来科学技術共同研究センターで、電気自動車の説明を受ける

今回の日本滞在を振り返り、テリー政策計画アドバイザーは、「震災でいろいろなものが不足している中で、日本人がいかに助け合ったかを知った。津波や地震から教訓を得てまちづくりをしていることにも感心した」と述べた。プントランド州政府水産省のアブディワーヒド・モハメド・ヒルシー局長は「人々が行政と手を取り合って復興に取り組んでいる姿から多くを学んだ。日本で学んだことをソマリアに戻って実践したい」と振り返った。また、ハッジ大臣は、「現在、ソマリアには日本の大使館もJICAの事務所もないが、次は、ソマリアで日本の皆さんと会えることを期待している」と述べ、和平の実現を約束した。

2013年6月に開催された第5回アフリカ会議(TICAD V)では、ソマリア連邦政府のハッサン・シェイク・モハムッド大統領からJICAの田中明彦理事長に対して、政権崩壊前の1990年以前に行われていたJICA研修に、大統領の友人が参加していたエピソードが紹介され、長年にわたる日本からの支援に感謝が表明されている。

JICAは今後、治安対策や基礎的社会サービスの向上、国内産業の活性化などを中心に日本での研修を再開するとともに、現在行われている第三国研修の拡充を図っていく予定だ。


(注1)ソマリア連邦共和国は連邦制を採用しており、連邦政府のほかに各州に地方政府が存在している。
(注2)十字がキリスト教を連想させることから、イスラム教国では赤十字ではなく赤新月社という組織名で、赤新月の標章を使っている。