「ベストライスファーマー」が続々誕生(ガーナ)

−「天水稲作持続的開発プロジェクト」の成果−

2014年1月15日

賞状を受け取るアダムスさん(左)。右はプレゼンターとして表彰式に参加したJICAプロジェクトの林チーフアドバイザー

西アフリカに位置するカカオの産出国として有名な農業国のガーナでは、12月の第1金曜日は「ファーマーズデー」と呼ばれる国民の祝日になっている。勤労農家をたたえ、農業の社会経済開発への貢献を感謝する目的で1985年に制定された。

ファーマーズデーにはガーナ食糧農業省が、郡、州、国のそれぞれのレベルで、農耕、畜産、水産に携わる農家から、模範となる「ベストファーマー」を選ぶ。表彰式会場では、食糧農業省の取り組みの紹介、民間企業の農業関連技術や商品の展示、研究機関による研究成果の発表、農家グループによる農業産品の販売など多様な催しが行われており、農業関係者だけでなく、地域住民も集う一大イベントとなる。

2013年のアシャンティ州ベストファーマー賞の表彰式は12月6日、同州のアフィジャ・クワブレ郡で行われ、JICAの稲作プロジェクトに参加するヤコブ・アダムスさんが、州の「ベストライスファーマー」に選出された。アダムスさんは2010年からプロジェクトに参加している。受賞の理由は、習得した技術を積極的に活用していること、高い単位収量を上げたこと、稲作農家グループのリーダーとして活発なグループ活動を展開したことなどだ。

天水稲作の収量アップに取り組んだ

ノーザン州のプロジェクトでコメを収穫する農民

西アフリカで広く行われているコメの栽培は、灌漑(かんがい)を利用せず、降雨だけに依存する「天水稲作」だ。コメはガーナではメイズ(トウモロコシの一種)に次いで多く食べられている穀物であるにもかかわらず、都市部を中心とした消費の拡大に生産が追い付かず、国内消費量の60〜70パーセントを輸入に依存している。

ガーナは、JICAが他ドナーと共に2008年に立ち上げた、アフリカでのコメの生産量を10年間で倍増することを目指す「アフリカ稲作開発のための共同体」(Coalition for African Rice Development: CARD)イニシアチブの支援対象国の一つ。CARDの支援で策定された「ガーナ国家コメ開発戦略」では、2018年にはコメの収穫量を2008年の4.3倍にする目標を掲げている。

また、ガーナでは国産米の約80パーセントが天水稲作で栽培されている。そこでJICAは2009年、降雨を最大限に生かしてコメの収量を増やしながら、継続できる稲作技術を支援する「天水稲作持続的開発プロジェクト」を開始した。天水稲作には畑で栽培する陸稲も含まれるが、JICAが支援したのは窪(くぼ)地や谷合いなどの比較的水のたまりやすい低湿地で水稲を栽培する技術。ガーナ中部に位置するアシャンティ州内の5郡、北部に位置するノーザン州内の4郡で、農家のコメ単位収量増加を目指し、栽培技術指導、営農支援、普及システム拡充に取り組んだ。このプロジェクトが成功すれば、西アフリカのほかの国々にも普及することによって、CARDの目標達成にも大きく寄与することが期待されている。

開始から4年半が経過。2013年12月現在、プロジェクトに参加する稲作農家は2,200人に達し、郡農業普及員も61人に上る。農家グループが土地を提供したプロジェクトサイトでは、日本の稲作栽培技術を基に、現地に合わせた推奨技術を習得することを目標とした。サイトの単位収量平均はプロジェクトのスタート時と比べて、アシャンティ州で約2.4倍、ノーザン州で2.2倍となった。また、プロジェクトサイトで習得した技術を自らの農場で活用した個人農家は、平均単位収量をアシャンティ州、ノーザン州とも約1.6倍に増やしている。

女性グループも活躍

左からJICAの片渕専門家、アシャンティ州アサンテアキムセントラル郡ベストライスファーマーに選ばれたアイサック・アシアムさん、普及員のチャールズ・アドゥさん 

プロジェクト対象9郡のうち8郡で、プロジェクト参加農家が、各郡のベストライスファーマーに選ばれている。いずれの農家もプロジェクトで学んだ技術を適用し高収量を上げたこと、稲作栽培技術の確かさに加えて、その技術を他の農家にも紹介するなどコミュニティーの中で手本となったことなどが評価された。

さらにノーザン州のタマレメトロ郡では、食糧農業省の郡事務所が「JICAグループ賞」を創設し、女性農家だけでプロジェクトに取り組むスグロコンボ・グループが受賞した。スグロコンボとは現地語の一つであるダバンリ語で「忍耐なくして成功なし」という意味だという。グループリーダーのヤハヤ・ファティマタさんは、「メンバーにとってJICAグループ賞は、来年もっと上手にお米を作ろうという大きな動機付けになりました。20人のメンバーを代表して、プロジェクトに対しても、この結果に対しても『おめでとう』と言いたい。最近は男性農家グループが、私たちに収穫後処理の道具などを借りに来たりもします」と受賞の喜びを語る。

受賞した女性農家グループのメンバー(左がファティマタさん)。右端は普及員のタヒル・ヤハヤさん。

プロジェクトの普及活動に尽力するJICAの片渕将太専門家は「農業をビジネスとしてとらえ、向上心や意識の高い農家は、結果が出てきています。私は、徹底して時間をかけて基礎を習得することが、結果的に次の段階に進む近道となると考えており、受賞農家だけでなく、多くの農家が前進していることを確信しています」と胸を張る。

農家の技術向上の陰には農業普及員の活動がある。普及員は担当地域内の農家を巡回し、コメだけでなく、メイズ、ソルガム(きびの一種)、キャッサバ(イモの一種)、ヤム(イモの一種)のほか多様な農作物の技術指導を行っている。コメの栽培指導方法については、JICAのプロジェクトで初めて学んだという普及員もいる。普及員はまずプロジェクトが実施する指導者研修で稲作栽培技術を学ぶ。その後、農家グループのプロジェクトサイトを活用して、農家とともに作業を行いながら技術を普及する。きれいに条播(じょうは)(注2)されたプロジェクトサイトの稲や単位収量の増加は、目に見える普及活動の成果となる。

増えた収入を子どもの教育費に

「天水稲作持続的開発プロジェクト」は小規模農家を対象としている。大規模な予算を必要とする農業機械の購入や、灌漑(かんがい)水路造成などの大規模インフラ整備を行わず、比較的簡単に利用できる谷合いを流れる河川や緩やかな勾(こう)配のある土地などの「地域資源」と、コミュニティー内の労働などの「人的資源」を活用したコメ作りを目指している。

プロジェクトが推奨する技術やノウハウを適用して単位収量を上げた農家は、その収益で次回の作付けに必要な種子や肥料を自ら準備できるようになっている。それは小規模農家が抱えるさまざまな課題を乗り越え、持続的な農業に向けた第一歩を踏み出したことを意味している。受賞者たちは、コメの質を高めるために、刈り取りのタイミング、脱穀や精米などの収穫後処理に気を配り、コメ生産による所得を着実に向上させている。

プロジェクトの林信秀チーフアドバイザーは「技術の活用による単位収量の増加という成果は着実に実現しています。プロジェクトでは耕地面積の拡大は目標としていませんが、単位収量が増えたことで、作付面積を拡大して、稲作所得をさらに増やす農家が出てきています。今回受賞した農家の多くは、こうした人たちです」と説明する。「稲作による所得を基に、精米機を購入した農家、トラクターを購入するために貯蓄を始めたグループもいます。2013年11〜12月に実施した調査では、増えた所得を子どもの教育費に充てているという結果が出ており、稲作を通じて生活改善へのアクションが取られていることもわかりました」とほほえむ。

今回の受賞は、農家はもちろん、各コミュニティーや農業普及員の誇りと自信につながり、プロジェクト関係者にとっても大きな励みとなった。プロジェクトは2014年7月まで続く。今後、さらなる成果の拡大につながることが期待される。


(注1)1990年代後半以降のアフリカでのコメ需要の急増を受け、2008年にJICAと国際NGO「アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)」が共同で立ち上げた国際イニシアチブ。アフリカの23ヵ国を対象に、2018年までの10年間にアフリカのコメ生産量を倍の2,800万トンに増やすことを目標に掲げている。
(注2)畑に平行したすじ状の畝(うね)を作り、そこに一定の間隔で種をまくこと。すじまき。