「アラブの春」から3年、民主化への道を歩み始めたチュニジア

−参加型アプローチによる民主化を支援−

2014年2月17日

首都チュニス近郊にある古代ローマ時代のカルタゴ遺跡。カルタゴは、フェニキア語の「新しい町」に由来している

2010年12月、北アフリカのチュニジア中部の都市、シディブジドの路上で野菜を売っていた一人の青年が政府への抗議のために焼身自殺した。これに端を発した反政府デモが全国に拡大し、翌年の1月に起こった「ジャスミン革命(注1)」により、23年間続いたベンアリ独裁政権は崩壊した。政権の腐敗、高学歴の若年層の失業率の高さ、地中海沿岸部と内陸部・南部の地域間格差などがその要因となった。ほどなくして、一連の民主化要求運動は「アラブの春」と名づけられ、広く中東地域に拡大していく。この歴史的事件から3年が経過し、チュニジアはようやく民主化への第一歩を歩み始めている。

日本で新憲法承認の歴史的瞬間を迎える

歴史的瞬間を日本で迎えた研修員。国土交通省北海道開発局長を表敬

1月26日、チュニジアで新憲法が承認された。新憲法では、「チュニジアは『市民国家』であり、『国民の意思』と『法治主義』を基礎に置く」と規定されており、人権尊重、男女平等、表現や信教の自由などを定めた民主的な内容となっている。

この歴史的瞬間を日本で迎えたチュニジア人研修員がいる。チュニジア南部開発公社のリアヒ・モハメッド総裁を団長とする、開発・国際協力省と南部開発公社の6人だ。一行は、2013年10月に始まった「南部地域開発計画策定プロジェクト」の一環で、1月13日から来日し、国土交通省北海道開発局で、国家計画と地域計画のしくみ、計画策定プロセスなどについての講義を受け、地元の資源を生かした地場産業振興、産官学連携による取り組みなどを視察し、日本の開発計画策定に関する経験を学んでいる最中のことだった。

南北格差解消を目指して

地域別の貧困率:南西地域、南東地域ともに、貧困率は全国平均よりも高い。出典:UNDP Poverty Reduction Strategy Paper(2004)

チュニジア南部地域は、自然環境が厳しく、農業をはじめとして慢性的な水不足に直面している。沿岸部にはチュニジア最大の観光地の一つであるジェルバ島があるものの、このほかには目立った産業もなく、失業率は全国平均よりも高い。そのため、多くの住民が隣国リビアなどに出稼ぎに出ざるを得なかった。

一方リビアでは、2011年に起こった革命・内戦の影響で、112万人以上がチュニジアやエジプトなどに流出した。チュニジアではその8割以上の94万人(注2)の避難民を受け入れた。難民の多くは、チュニジア南部地域に避難したが、その後ほとんどが2012年6月ごろまでには帰還した。しかし、もともと経済的な余裕がない中で難民を受け入れたため、経済的に大きな負担となっており、難民の帰還後も、南部地域の経済はすぐには回復せず、このまま放置すると地域格差はさらに拡大し、国内情勢の不安定化につながることが懸念された。

メドニン県の沿岸部には、リゾートホテルが立ち並ぶ一方、内陸部には砂漠が広がっている

チュニジアでは、官民の組織そのものや組織間の連携体制が脆(ぜい)弱で、国内産業の技術力、ロジスティックスや投資環境の整備も不十分だった。特に南部地域では、沿岸部を除き砂漠が広がり、もともと産業競争力が低い上に、主要産業である鉱工業(リンを原料にした肥料生産)、農水産業(オリーブの加工など)の競争力を高めるための政府の取り組みも遅れていた。さらに、これまでトップダウンで地域開発計画を策定してきたチュニジア政府には、自治体や住民が開発のプロセスに参加していく民主的な手法である「参加型アプローチ」を用いた地域開発計画の策定経験がない。そのため、第2次世界大戦後の日本の地域開発や産業発展を高く評価するチュニジア政府は、地域格差の是正や、雇用創出につながる地域の特色を生かした「地域総合開発計画の参加型アプローチ」策定のための能力強化を念頭に、日本に協力を要請した。

北海道の経験をチュニジアに

これを受けJICAは、2013年10月、「南部地域開発計画策定プロジェクト」を開始。チュニジア南部の6県(ガフサ、ガベス、ケビリ、タタウィン、トズール、メドニン)を担当する南部開発公社をカウンターパートに、2035年を目標とした地域開発戦略と地域開発計画の策定を支援している。プロジェクトでは、戦略、計画の策定に当たって、産業界、住民、行政の代表者から成る県ごとの委員会、南部地域全体をまとめる全体委員会の2段階で丁寧にパブリックコンサルテーション(注3)を実施する。これにより、計画策定の初期段階から関係者の意見を取り入れ、県同士、産業同士の利害関係を調整する。また、カウンターパート研修を3回に分けて実施し、計20人のチュニジア人を日本に招へいする計画だ。

パブリックコンサルテーションの講習

今回、研修に参加した6人は、その先頭を切って来日した。日本の開発計画策定に関する経験を学んだ6人だが、中でも、北海道開発局が実際に職員研修で行っているコミュニケーション実習が好評を得た。参加者からは、「パブリックコンサルテーションの実習を受けて、コミュニケーションスキルが向上した。次回以降も、ぜひ取り入れてほしい」との要望が挙がった。

団長を務めたモハメッド総裁は、研修最終日の1月28日に、「チュニジアで、一昨日、新憲法が承認されました。これにより、私たちの国は、人権と個人や地方間の公平性の尊重に基づいた、民主主義政府の基礎を築いていけるでしょう。新しい憲法は、地方分権、地域開発などを強調しています。そのため、地域開発計画の新しいビジョンが採用されるでしょう」とあいさつした。また、「政治・法的情勢が好転した今、このプロジェクトが、私たちが求められている能力の強化に貢献することは確実です」と、プロジェクトを通じて民主化を進める決意を表明した。

今後、チュニジアは新憲法に基づいて、年内に大統領選挙、議会選挙を行い、本格的な政権樹立に向けて進んでいくことになる。中東地域において依然として「アラブの春」の混乱が続いている中、いち早く民主化の道を歩み始めたチュニジアに対して、JICAは、参加型アプローチによる地域開発計画策定を通じて、民主化支援を行っていく。



(注1)チュニジアを代表する花がジャスミンであることから命名された。
(注2)66万人がリビア人、8万人がチュニジア国籍、20万人がその他の国籍。
(注3)広く国民の意見を取り入れるための手続き。政府の透明性を確保し、広く国民から意見を聴収するだけでなく、利害関係者などにも意見提出を働きかけたりする。