炭素の貯蔵庫を火災から守れ!(インドネシア)

2014年2月20日

インドネシアの低湿地には、樹木や葉などが微生物分解(注1)されずに地表に積み重なった、広大な熱帯泥炭地が存在し、非常に多くの炭素が蓄えられている。1990年代に、排水路を掘り乾燥させるといった手法で泥炭地の大規模な開発が進められ、急激に地下水位の低下と土地の乾燥化が進んだ。このため、泥炭・森林火災が起こりやすくなり、微生物分解も同時に進み、大量の炭素が大気中に放出されている。

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泥炭地に掘られた排水路。後方は発生した森林火災(カリマンタン島)

炭素管理モデルの構築を目指す

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC、注2)は、気候変動による人々の生活への影響が強まっていると警告している。気候変動の原因といわれる温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)は、化石燃料による発電や、運輸・交通などの経済活動に伴う排出に加えて、森林の消失に伴う排出量も極めて大きい。

広大な森林と泥炭地を抱え、その消失が進むインドネシアの場合、生態系から排出される温室効果ガスが、全排出量の78パーセントを占めており、これら生態系からの排出を含めると中国、米国、ブラジルに次ぐ世界第4位の排出国となっている。インドネシアにとって、泥炭地からの炭素排出を抑えることは、気候変動対策として極めて重要であり、対策が急務となっていた。

そこでJICAは2010年から2014年3月まで、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と連携して行う地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(注3)として、インドネシアの研究機関(注4)と共同で「泥炭・森林における火災と炭素管理プロジェクト」を実施。泥炭・森林火災と炭素の管理を行う仕組み(モデル)の構築を目指した。

世界に先駆けた研究成果

火災跡地でフィールド調査。左が観測タワー

世界中の熱帯泥炭地の半分を抱え、炭素の貯蔵庫の役目を果たしていたインドネシアの泥炭地は、今や「地球の火薬庫」とも呼ばれており、その保全はインドネシアだけでなく、国内に熱帯泥炭地の広がるベトナム、マレーシア、ブルネイなど、東南アジア地域をはじめ、世界規模の課題とされてきた。

熱帯泥炭から炭素が排出される仕組みについては、これまで、統合的な研究が行われていなかったため、プロジェクトでは、まず、熱帯泥炭地を「未攪(かく)乱(未排水で未伐採)地区」「人為的攪乱が入った地区」「森林が消失した地区」に分け、それぞれ観測タワーを設けて、二酸化炭素(CO2)の測定を行い、世界で初めて熱帯泥炭地でCO2排出量の長期的・継続的な推移を計測することに成功した(注5)。さらに、未攪乱地域もCO2の排出源となっていること、CO2排出量は、環境の攪乱の程度に比例して増えること、エルニーニョ現象(注6)の年にはCO2排出量が増えることなどが判明した。また、炭素排出量は地下の水位との関係が極めて深いこともわかった。

カウンターパートとの強い絆

火災跡地では微生物分解による炭素放出が非常に大きく、火災などによる影響が少ない森林の5倍以上に達した

プロジェクトで日本側の研究代表(チーフアドバイザー)を務める北海道大学大学院農学研究院の大崎満教授は、「プロジェクトには、インドネシアから5主要機関、そのほか10以上の協力機関が参加し、多くの関係者を横につなぐことに最も苦労した。そんな中、生態系の温室効果ガスに関してインドネシアで取りまとめ役を担っている国家気候変動評議会(DNPI)と強い絆を築き、各種ワークショップを共同で企画し、プロジェクトのアウトプットをインドネシアの国家政策に反映できたことが、運営上のポイントだった」とプロジェクトを振り返った。大崎チーフアドバイザーは、IPCCガイドラインの湿地に関する部分の執筆を担当したり、気候変動枠組条約(UNFCCC)の招待講演で、プロジェクトの成果を発表するなど、この分野の第一人者だ。

インドネシア側のカウンターパートである、科学技術評価応用庁上級研究員のバンバン・スティアディ博士は、プロジェクトについて「インドネシアの気候変動対策には、多くの国が資金援助を申し出ているが、資金だけではなく真に必要な技術を提供するこの協力は、極めて意義深い」と評した。

REDD+の推進にも貢献

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プロジェクト主催の第4回国際ワークショップ「Wild Fire and Carbon Management in Peat-Forest in Indonesia 」(2013年9月)

炭素を多く排出する泥炭の蓄積量やそこからの排出量に関しては、これまで正確な測定手法がなく、データが取れていなかった。しかし、プロジェクトの研究成果により、泥炭層からの炭素の蓄積・排出量の把握が可能になったことで、プロジェクト対象地域だけでなく、インドネシアのより広い範囲で炭素収支の定量化が可能になると見込まれている。

今回の成果は、JICAが支援するインドネシアでのREDD+(注7)推進にもつながる。JICAは、今後、インドネシア政府によるプロジェクト成果の活用を促進するとともに、インドネシアの西カリマンタン州や中央カリマンタン州をモデル地域としてREDD+を推進するための体制整備を支援していく。



(注1)乾燥が進むと微生物が繁殖しやすくなり分解が進んで炭素が放出される。
(注2)Intergovernmental Panel on Climate Change。人為起源による気候変化、影響、適応・緩和方策について、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された組織。
(注3)日本の科学技術を活用して環境、食料などの地球規模の課題解決のために開発途上国の関係機関と共同研究を行うプログラム。
(注4)科学技術担当大臣府、パランカラヤ大学、インドネシア科学院、国家航空宇宙局、国家標準機構、林業省森林研究開発庁、科学技術・評価技術応用庁などの行政官、研究者が参加。
(注5)プロジェクトによる研修成果の内容は下記でも紹介している。

(注6)太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての海域で海面水温が高くなり、その状態が1年程度続く現象。日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。
(注7)開発途上国の森林の減少・劣化を防止して地球全体のCO2排出量を削減するという考え「REDD」に、持続可能な森林管理などによって森林のCO2吸収固定機能を高めるという考えを付加(「+」)したもの。現在、気候変動対策の一つとして、国連などでREDD+を国際的に進めるための枠組みが検討されている。