日本のアスリートを途上国へ

−アスリート向けに、青年海外協力隊に関する勉強会を開催−

2014年3月4日

1964年の東京オリンピックに参加した国と地域は93。その約半世紀後の2012年、ロンドンオリンピックでは世界のほぼすべての国を含む204の国と地域が参加するまでになった。しかし、そのうちの80ヵ国はこれまでにメダルを獲得した経験がない。その大半はアフリカを中心とする開発途上国だ。国の経済的な豊かさと、人々がスポーツに取り組める環境の充実度合いは比例する、というのが現実だ。

高まりを見せる青年海外協力隊へのアスリートの参加

アスリートソサエティによる勉強会。話をするのは代表理事の為末さん

そんな中で高まりを見せているのが、より多くの日本のアスリートに青年海外協力隊員(注)として途上国でスポーツの指導に当たってもらおうという機運だ。

これまでに、体育や柔道、水泳、野球など、さまざまなスポーツ分野の指導者として、3,000人を超えるJICAボランティアが途上国に派遣され、現在も約100人が各国で活動中だ。JICAでは、東京で再びオリンピックが開催される2020年までに、スポーツ分野のJICAボランティアの派遣規模を倍増する方針を固めている。

一方、アスリートの側にも新たな動きがある。2月25日、日本のアスリートが広く社会とつながるための機会創出を支援する団体、一般社団法人アスリートソサエティが、青年海外協力隊や途上国の事情について学ぶアスリート向けの勉強会を、東京都千代田区のオープンスペース「3×3 Labo(さんさんらぼ)」で開催。会場には、陸上競技やサッカーなど20種目以上に及ぶさまざまな競技で活躍するアスリートや、企業や団体の関係者を中心に、約120人が集まった。JICAも、青年海外協力隊員としてスポーツ分野で活動した経験を持つアスリートらによるパネルトークなどを通じ、アスリートのセカンドキャリアとして、青年海外協力隊などの国際貢献の道について紹介した。

スポーツが持つ可能性

「日本のアスリートは世界でもっと活躍できるはず」と語る為末さん

「スポーツにはいろいろな可能性がありますが、中でも興味を持っているのが『平和利用』の可能性です。2020年の東京オリンピックには、途上国のコーチとして参加する――日本のアスリートがそんな夢を持ってもいいのではないかと思っています」。勉強会の冒頭でこんなメッセージを発信したのは、アスリートソサエティの代表理事の一人で、3大会連続でオリンピック出場を果たした元陸上競技選手の為末大さんだ。

ロンドンオリンピックに出場した国や地域のうち、半数は出場選手が10人に満たないことを為末さんは紹介しつつ、「これからは、オリンピックで『どれだけのメダルを獲得したか』ではなく、『出場できるアスリートを何人生み出したか』『それによってどれだけ多くの人々に希望を与えたか』といったことが、価値の指標になり得るのではないか」と力説。これを実現する手段として、青年海外協力隊への参加という道があることに触れ、「日本のアスリートは、引退してからも世界でもっともっと活躍できるはず」と、参加したアスリートらにエールを送った。

スポーツを通じた社会開発

為末さんに続いてスピーチを行ったのは、青年海外協力隊事務局の三次啓都(みつぎ・ひろと)次長。オリンピック参加国の現状や、青年海外協力隊員がスポーツの普及という面で開拓の余地が大きい途上国の多くに派遣されていることを紹介し、スポーツを通じた社会開発の可能性に言及。男女が一緒にスポーツに取り組むことでジェンダー格差の問題が解決に向かい得ること、また、スポーツが「ルールを守る」といった人格形成の場になる可能性について説明した。

途上国での経験は、帰国後の人生にもつながっていきますと峰村さん

為末さんが司会を務めたパネルトークには、青年海外協力隊員として、モンゴルで柔道ナショナルチームの指導に当たった小倉大輝さん、シリアで体育の授業の質向上に取り組んだ辻康子さん、マレーシアで障害者を対象にした水泳指導などに取り組んだ峰村史世さんが登場し、青年海外協力隊に参加したきっかけや派遣前の訓練の様子、活動の内容、派遣中の苦楽、それらを通じて学んだことなどを、多くのエピソードとともに発表した。

日本でパラリンピック出場を目指す選手たちのコーチを務めている峰村さんは、「水泳は、リハビリやフィットネスなどさまざまな取り組み方があり、どのような障害がある方でもできる唯一のスポーツ。中でもアスリートとして競技力の向上を目指して水泳に取り組む障害者の方を指導するのは、やりがいがとても大きい。それに気づくことができたのは、マレーシアでパラリンピック出場を目指す選手たちを指導したときでした。その経験が、今の私の仕事の大元になっています」と語った。

日本のアスリートが世界で果たせる役割

勉強会のパネルトーク。右から為末さん、辻さん、小倉さん、峰村さん

会場からは、派遣前の訓練の内容や派遣中の生活費についてなど多くの質問が出され、参加者の関心の高さがうかがえた。また、「青年海外協力隊に興味はあっても、制度についてはまったく知らないアスリートも多い。それを知ることができるいい機会だった」といった感想も寄せられた。

勉強会で為末さんがたびたび強調していたのは、「日本のアスリートだからこそ世界で果たせる役割がある」という点だ。「世界中でいろいろなスポーツを見てきて感じるのは、日本ほどスポーツが『教育』と結びついている国はないということ。多くの国では、基本的にはスポーツは娯楽の領域に入っているのに対して、日本ではスポーツの持つ人づくりの力がとても大切にされている。そんな日本のアスリートこそ、開発途上にある国に赴き、スポーツを通じた人づくりを実践することができる。今回の勉強会のような機会を通じて、より多くの日本のアスリートが途上国の現状に目を向け、青年海外協力隊に参加するようになればうれしいですね」と、為末さんは締めくくった。


(注)これまで、延べ3万8,744人の青年海外協力隊員が88ヵ国に、延べ5,353人のシニア海外ボランティアが71ヵ国に、延べ1,145人の日系社会青年ボランティアが9ヵ国に、延べ436人の日系社会シニア・ボランティアが10ヵ国に派遣された。現在も2,306人が77ヵ国で活動している(2014年1月31日現在)。