日本の技術で飲み水をフィリピンの台風被災地に

−中小企業支援の枠組みで緊急支援を実施−

2014年3月7日

浄化する前の川の水(右)と浄化後の飲み水(左)

2013年11月8日、台風30号がフィリピン中部を直撃、暴風と高潮がかつてない被害をもたらした。被災者は1,600万人以上に上り、ライフラインの寸断により食料や飲み水も不足した。その被災地に飲み水を給水しようと、JICAと共に日本の浄水システムを持ち込んだ日本企業がある。JICAの民間提案型普及・実証事業(注1)を受託した日本原料株式会社(神奈川県川崎市)だ。

被災地で不足する飲み水

平らな設置場所を探した結果、橋の上に設置することに

日本原料が受託した案件名は「移動式砂ろ過浄水装置およびろ過池更生システムの普及・実証事業」。セブ島にあるフィリピン第2の都市圏であるメトロセブは、水源の95パーセントを地下水に依存しているにもかかわらず、一部の井戸水の水質は許容限度ギリギリである上、浄水場の処理能力も不足しているという課題を抱えている。ろ過材の製造、販売を行っている日本原料は、浄水場内のろ過池の処理能力を回復させるろ過池更生システム(注2)と、井戸水の水質を改善するモバイルシフォンタンク(MST、移動式砂ろ過浄水装置)(注3)の普及・実証事業を提案し、事業を受託。2013年11月〜2016年1月に実施することで、フィリピンの実施機関であるメトロセブ水道区(MCWD)と2013年10月29日に協議議事録(注4)を取り交わすとともに、11月5日にJICAと契約を交わした。

契約の3日後、フィリピンを台風が直撃した。同社のスタッフは予定便で無事帰国することができたが、現地からは被災地の様子が続々と伝えられてきた。想像を超える被災状況を知った同社の齋藤安弘社長は、福岡県八女市の集中豪雨災害、岩手県奥州市・久慈市の地震災害など、日本の被災地支援を行ってきたこれまでの経験から、「実証実験で使う予定のMSTが被災地でも役立つ」と考え、被災地に緊急支援としてMSTを届けることができないか、JICAの国内事業部中小企業支援事業課に相談した。JICAも中小企業支援の枠組みの中で被災地を支援できないか模索していた中で、普及・実証事業の追加業務という形でMSTを現地に設置することが決まった。これを受け、同社はMST設置のための緊急給水支援チームを立ち上げた。

協力隊OBも現地で活躍

川の水をくみ上げるための取水ポンプを設置

緊急給水支援チームがMSTの設置場所に選んだのは、台風が直撃したセブ島最北端の町、ダーンバンタヤン。普及・実証事業ではMSTを井戸水の水質向上に活用する予定だが、今回の緊急支援では濁流が流れる川の水を飲み水として浄化。浄化した飲み水をウォーターバッグに入れ、給水車で住民に給水することを決めた。

被災地向けの物資輸送も集中する中、MSTが現地に届いたのは12月24日になってからだったが、装置が到着するとチームはすぐに設置作業に取りかかった。翌25日には据付けを完了し、26日に試運転を実施、27日には住民への給水活動を始めた。「日本での報道は少なくなっていたが、現地では依然としてライフラインが復旧しておらず、家の屋根も補修されていなかった。そんな中、多くの子どもたちが飲み水を確保するため奔走していた姿が印象に残っている。被災者にクリスマスプレゼントができてよかった」。緊急給水支援チームの一員として現地に入った同社の内田謙一さんは、そう振り返る。

MCWDの職員に説明する日本原料の内田さん(左)

今回の追加支援には、MSTの有効性を実証するとともに、MCWDの職員にMSTを維持管理・運用するための技術を移転する目的もあった。技術指導に当たった内田さんが特に意識したのは、MCWDの職員や地元住民を巻き込むことだった。青年海外協力隊の隊員としてイエメンに赴任した経験を持つ内田さんは、他国から供与された装置や機器が、時間の経過とともに使われなくなっていく状況を現地で見てきた。内田さんは、その原因の多くが住民の所有意識の低さにあると考えていた。そこで、MSTの設置に当たっては、据付けや運転作業にMCWDの職員や地元住民にも参加してもらい、「MSTはもらい物ではなく、自分たちで維持管理する」という意識を持ってもらうことを心がけた。「われわれが帰国した後も、MCWDが質の高い飲み水を供給し続けているという報告を受け、協力隊の経験を生かすことができたと感じた」と振り返る。

2万人に安全な飲み水を供給

MSTで浄水処理をした水を飲む子どもたち

今回の追加支援で安全な飲み水を届けることができたのは、4,000世帯、約2万人。MCWDからは、「MSTで浄水した水は大腸菌の数が減少し、マンガンも除去されている。源水の処理に非常に有効だ」「操作が非常に簡単で、一人でも動かせる」「災害の被災地には必要な装置だ」と高い評価が寄せられた。

一方で、課題も浮かび上がった。緊急支援として国外の被災地にMSTを運搬するのは、日本原料はもちろんJICAにとっても初めての経験。輸送書類(パッキングリスト)の作成や輸送手段の確保などに予想以上の時間がかかってしまった。当初は11月下旬に予定していた装置の搬入が大幅に遅れてしまったのも、このためだ。

浄水処理した水を給水車で住民に届ける

緊急給水支援チームに同行したJICA国内事業部中小企業支援事業課の堀勝治郎職員は、「通関の手続き、輸送手段の確保など、緊急時の機材輸送の難しさを痛感した。また、被災地で活用するためには、メンテナンスや移動のしやすさも重要だと再認識した。今回の経験を教訓として、今後の中小企業支援に生かしたい」と言う。

日本原料の普及・実証事業は、2016年1月まで続く。将来的には、MCWDと共同でメトロセブ周辺の水道区、さらには他国への事業展開も視野に入れている。JICAとしても、日本の製品と技術を生かした国際協力を後押しするため、今後も同社の事業展開を支援していく。


(注1)JICAは、開発途上国の開発ニーズと日本の中小企業の有する優れた製品・技術等とのマッチングを行うことによって、途上国の開発課題の解決と日本の中小企業の海外事業展開との両立を図る。これによりODAを通じた二国間関係の強化や経済外交の一層の推進に資することを目的とし、「中小企業等の海外展開支援事業」を実施している。その中の一つの事業である普及・実証事業は、中小企業からの提案に基づき、製品・技術に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討することを目的としている。
(注2)浄水場内のろ過池からろ過砂を搬出し、薬品を使わずもみ洗いすることで砂を壊すことなく表面についた汚れのみを落とし、再びろ過池に戻す工事。これにより、ろ過池の処理能力が回復する。
(注3)砂ろ過浄水装置内に、ろ過機能に加えてろ過砂を洗う機能を備えている。ろ過砂を交換する手間がかからず、車載が可能で必要な場所に持ち込んで使える。
(注4)普及・実証事業では、契約締結前に協議議事録(M/M : Minutes of Meeting)を相手国実施機関と取り交す。協議議事緑には、事業実施国政府関係機関の負担事項、事業実施後の資機材の譲与方法、事業内容・期間などが記載される。