隣国ケニアでメディア研修を実施(南スーダン)

−紛争下でも続く支援−

2014年3月12日

半世紀近い内戦を経て2011年7月に独立したばかりの南スーダンは、昨年12月から大統領派と前副大統領派による政府内の対立と戦闘が激化し、数千人から1万人にも上るといわれる死者、90万人以上の国内避難民や難民が発生するなど、独立以降、最大の危機に直面している。政府内の権力闘争と部族間の衝突は複雑に絡み合い、これまでの南北スーダン対立とは様相の異なる「新たな内戦状態」に入ったともいわれている。

こうした状況下で、最新の治安情勢や、戦闘の拡大や再発を予防・抑制するためのメッセージを発信するメディアの役割は、今後、国づくりを平和裏に進めていく上で非常に重要だ。また、厳しい環境で生活している国内避難民に対し、公共性の高い放送局が、生存・生活に欠かせない住居、医療、食料などの正確な情報を届けることも人道上の観点から欠かせない。

国営放送局から公共放送へ

ケニア公共放送のスタジオを見学するSSTVRのスタッフ

南スーダン国営テレビ・ラジオ局(South Sudan TV and Radio:SSTVR)は、独立前の統一スーダン政府時代には同国国営放送局の支所として、また、南スーダン独立後も国営の放送局として政府が発信する情報を中心に報道を行っており、国民の中でも政府のプロパガンダメディアとしてのイメージが強い。

そうした中、SSTVRを公共放送化し、より公平、公正、正確な情報を人々に届けることを目的とした公共放送局法案が昨年12月に同国で可決(注1)。困難な状況の中、公共放送化に向けた準備が懸命に進められている。また、JICAは、一般財団法人NHKインターナショナルの協力を得て、2012年12月から「南スーダンTV・ラジオ組織能力強化プロジェクト」によって、SSTVRが抱える課題の解決や取り組みを支援している。

ケニアの豊富な経験から学ぶ

公共放送化を控え、熱心に講義に聞き入る研修員

このプロジェクトの一環で2月16日〜3月1日、SSTVRの幹部ら20人が、公共放送局の基本的な役割やメディアが紛争解決に果たす役割などを学ぶため、隣国ケニアを訪問した。18日から20日に行われた幹部向け研修では、ケニア公共放送(Kenya Broadcasting Corporation:KBC)のビタレ・ムセベ編成局長の司会・進行の下、ケニアや日本の事例も交えながら、経営体制、資金調達、公共放送の役割や、政府との関係、選挙報道などについて講義が行われた。

経営体制に関する講義では、英国の植民地政府時代に設立され、独立後国営放送化を経て公共放送化されたKBCの歴史や、クーデター未遂や政党・民族間の衝突で1,000人以上の死者が出た2007年末の大統領選挙時の対応、そして、複数政党制の導入を機に、政府のプロパガンダから、より中立で公正な情報の発信を推進することにより人々の信頼を得てきた経緯など、ケニア自身の経験に基づいた幅広い「先行事例」の紹介に、研修員は熱心に聞き入った。

また、公共放送の役割や、政府との関係をテーマにした講義では、「政府や大口のスポンサーなどの影響力に左右されず、いかに独立性を保ちつつ放送を行うのか」といった非常に難しく実務的な質問が出た。さらに、「12月の紛争発生後、その重要性を踏まえ、以前はニュース番組のトップにもってきていた大統領のスピーチを、トップではなく、3番目のトピックとして取り上げたが、政府からはクレームはなかった」など、公共放送化に向けた意気込みが感じられる発言もあった。

メディアの発展と国づくりに役立てたい

グループごとに配置された日本人専門家とKBC関係者がファシリテーターとなり、ディスカッションを行う

研修最終日には、公共放送化を控えSSTVRとして、日本人専門家を交えて取り組むべき課題についてグループディスカッションが行われた。南スーダン情報省情報・放送総局のポール・ジャコフ局長代行は、研修員を代表して「現在のSSTVRは、組織図やスタッフの正確な名簿もなく、電源用発電機や編集用パソコンも1台ずつしかないといった非常に脆(ぜい)弱な状況にある。課題は山積しているが、国民の和解と国の安定にとって公共放送が果たすべき役割は非常に大きい。日本やケニアのメディアの報道姿勢を学び、今回の研修を南スーダンの今後のメディアの発展、そして国づくりに役立てたい」と、公共放送化に向けた抱負を述べた。

幹部向け研修では講義が中心となったが、翌週に開催された実務者向けの研修では、機材管理、番組制作、報道の3部門合同で、実際にケニアのテレビプロダクション、クルーと共にニュースを制作するという、OJTに近い研修が行われた。研修は、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(注2)の研修施設で行われ、研修員らは、大学側の協力も得て、大学紹介のニュースを2本制作。完成したニュースは、研修最終日にSSTVRで放送された。

【画像】

自らの視点を生かした取材を体験する研修員(ジョモ・ケニヤッタ農工大学)

南スーダンの安定と発展を目指して

研修員にビデオ編集を指導する日本人専門家

今後、公共放送化されるSSTVRでは、政府の情報源に頼らない独自の視点に基づく報道が何よりも大切になることが予想され、まず、自ら情報収集を行い、自らの視点で編集を行うという基本的な姿勢を身につけることが必要となる。研修員からは「仕事の質が変わった」「今回学んだ取材姿勢を、所属部門に波及させたい」という声が聞かれた。

また、政府の情報に依存し、自主取材が極めて少ない現状への不満の声を挙げていた参加者は、「今後、視聴者に直結した社会ニュースなど自主取材を増やし、民族融和や和平に貢献する報道を行っていきたい」という抱負を述べていた。

昨年12月からの治安悪化のため、南スーダンで活動していたJICA関係者は全員国外に一時退避をせざるを得ず、現在もその状況は続いている。そうした厳しい状況下でも、ケニアなどの周辺国や日本での研修を通じて、JICAは今後も南スーダンでの事業を継続し、同国の安定と発展を支援していく。



(注1)現在、大統領による署名・施行待ちとなっている。
(注2)JICAは、1980年から20年にわたりその基盤を整備した。東アフリカ地域の中でも農業・工業系の人材育成を行う高等教育機関として知られる。