ケニア支援の金字塔、SMASEの新たなる船出

−アフリカ理数科教育の拠点が完成−

2014年3月20日

ケニヤッタ大統領(右端)に教材を披露するムゴさん(左)

「地球儀がなくても、針金で作った地球儀モデルさえあれば、緯度や経度、自転や公転について、どこの学校でも教えられる」。ウフル・ケニヤッタ大統領を前に、胸を張って説明するのは、教員研修講師のサイモン・ムゴさんだ。

「アフリカ理数科・技術教育センター(CEMASTEA)」(注1)の拡張工事が終了し、3月6日、落成式が行われた。式典にはケニヤッタ大統領をはじめ、ケニア、日本双方の関係者など約300人が集まった。ナイロビのカレン地区にあるCEMASTEAは、アフリカの理数科教員の育成拠点として、現職教員の研修を担っている。これまでの92人から収容人数200人規模の研修施設となった。

CEMASTEAは今後、理数科だけでなく、全教科を対象とした「アフリカ教員研修センター(ICADETA)」(注2)として生まれ変わることが決定している。CEMASTEA を拠点としてきたJICAの「理数科教育強化プロジェクト(SMASE)」(注3)の活動は、アフリカの全教員に開かれることになる。

SMASEの歩み

子どもが自ら見て、考えるASEI-PDSI授業

1963年のケニア共和国独立以来、JICAは資金供与や技術協力、ボランティア派遣を続けており、2013年には50年の節目を迎えた。その協力の長い歴史の中でも金字塔ともいえるSMASEが、同年12月、15年にわたる活動を終了した。

SMASEは1998年、JICAがアフリカで初めて行った基礎教育支援プロジェクト。工業化を目指す当時のケニアでは、特に理数科教育の改善が喫緊の課題だった。その課題解決のために、ケニア教育省に日本人専門家を派遣し、中等学校(注4)の教員に研修機会を提供する「現職教員研修システム」の構築と、現地で調達可能な実験器具を使いながら、生徒の主体的参加を引き出す授業方法(ASEI-PDSI)(注5)の実践を、まず9県の中等学校の教員を対象に開始。ケニアの実情に合わせて工夫した結果、学校の運営資金が不足する地方でも、教員の教え方が変わって教室に変化が生じ、生徒の理数科に対する興味や理解が向上した。

その後、取り組みは全国の中等学校教員を対象とした研修に拡大。2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)の横浜宣言を受けて、全国の初等学校にも展開することとなった。15年間で、中等学校の理数科教員7万人と校長1万1,500人、初等学校の教員18万人と校長・副校長7,000人が研修に参加。その他、多くの教員研修講師や視学官(注6)をはじめとする教育行政官を養成した。

アフリカ理数科教育の拠点として

理科実験の研修

SMASEの活動はケニアだけにとどまらない。同様の問題を抱えるアフリカ諸国に普及することを目的として、JICAは2001年、「アフリカ理数科教育域内連携ネットワーク(SMASE-WECSA)」(注7)を立ち上げた。現在、アフリカ14ヵ国でケニアの経験を生かした理数科教育の技術協力が実施、または計画されている。ケニア政府はJICAと協力し、2004年以来、第三国研修(注8)を実施しており、CEMASTEAを拠点に、1,500人以上のアフリカの教育関係者を招いた。

アフリカ各国が科学技術の発展を目指す中、理数科教育支援へのニーズは急速に高まっている。SMASE-WECSA を展開中の27ヵ国は、それぞれの実情に合わせた取り組みを行っており、新たな知見が生み出されている。JICAはさらなる役割が期待されているCEMASTEAをパートナーとして、引き続きアフリカの理数科教育振興に貢献していく。

学びの質改善に向けて

理数科から全教科へ。拡張されたCEMASTEAの施設

黄色いナイロビストーンのCEMASTEAの建物。その隣で行われた落成式の会場は、赤、緑、白、黒のケニア国旗の色に彩られた。近隣学校の生徒たちの歌声が青空に響く。この生徒たちこそが、JICAが長年ケニアで展開してきたSMASEの賜物だ。

「SMASEの15年の歴史の中でも、今日は最も輝かしい日だ」と国旗を見上げながら語るのは、JICAケニア事務所のサミュエル・キベさん(70歳)。「ケニア政府の研修予算が確保されず東奔西走した日々もあった。それでもSMASEがもたらした教室の変化を見た瞬間や、国際的なフォーラムで活動の成果が認知された瞬間の喜びは忘れようもない」。55歳まで中等学校の校長を勤め上げ、その後、JICAケニア事務所で15年間SMASEを担当してきた、SMASEの生き字引は続ける。

CEMASTEAの銘板の前に立つキベさん

「それでも課題はまだまだ多い。SMASEのノウハウをもっと効果的に実践していくには、継続的な教員の職能開発が必要だ。生徒の学びの質を改善していくために、すべきことはたくさんある」。キベさんは目を輝かせる。

(注1) Centre for Mathematics, Science and Technology Education in Africa。
(注2) Institute for Capacity Development for Teachers in Africa。
(注3)Strengthening Mathematics and Science Education。
(注4)ケニアの教育制度は8+4制。初等学校が8年間(日本の小学校1年〜中学2年)で、中等学校は4年間(日本の中学3年〜高校3年)。 
(注5)Activity, Student-centered, Experiment, Improvisation/Plan, Do, See, Improve。SMASで導入した授業改造アプローチの理念。教師中心ではなく生徒中心で、生徒の到達度を確認するツールとしての実験・実習の実施と教師の創意工夫の促進を目指す。ASEIアプローチに基づく授業の計画、実施、評価、改善というサイクルの実践を併せて啓発している。
(注6)教育省に置かれ、学校教育にかかわる専門的、技術的な指導や助言を行う。
(注7)Strengthening of Mathematics and Science Education - Western, Eastern, Central, and Southern Africa。
(注8)過去に日本の技術支援を受けた途上国の機関が、他の途上国から研修員を受け入れて技術指導を行い、日本はそれを資金面や技術面で支援する。途上国の自立発展に役立つことから、JICAでは積極的に支援している。