「アフリカの真珠」を守る協力隊員たち(ウガンダ)

2014年4月4日

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不法伐採した木材を満載した業者は発見次第その場で逮捕。トラックの前で、無邪気にポーズを取るのは村の子どもたち

自然の豊かさから「アフリカの真珠(Pearl of Africa)」と呼ばれるウガンダでは、人口増加に伴い、燃料・建築木材、農地の需要急増で違法伐採が絶えず、森林は減少の一途をたどっている。ウガンダの森林には、絶滅危惧種であるマウンテンゴリラやチンパンジーなどの霊長類や、1,000種を超える鳥類が生息するが、これ以上森林破壊が続くと、自然生態系への深刻な影響は避けられない。レンジャー(パトロール隊員)をはじめとする現地の人々の努力で、世界の貴重な財産である自然と野生生物は保護されているものの、多くの困難に直面している。

美しい森を守りたい

ウガンダの美しい森

「ウガンダでは日本で記録されている2倍以上に当たる、1,060種類の鳥が観察されているんですよ」と話すのは、青年海外協力隊員の田中加奈子さん(北海道出身)だ。現在、環境教育隊員としてウガンダ国家森林機構に所属している田中さんは、協力隊に参加する前は、知床でエコツアーガイドをしていた根っからの自然派だ。その当時、エコツアーには開発途上国の研修員が参加することがあり、よく「森林破壊」について話を聞いた。言葉の意味はもちろん知っていたが、実際の森林破壊の現場に身を置いたことはなく、「自分の目で途上国の環境問題を見てみたい」という思いから、青年海外協力隊に応募した。

「アフリカの熱帯雨林というと、鬱蒼(うっそう)と茂ったジャングルをイメージしてしいましたが、ウガンダの森はなんとなく日本の森に似ています」。温暖な気候と適度な降水量に恵まれたウガンダでは、冬がないため樹木の成長スピードが日本よりも2〜3倍速い。しかし、地方で暮らす住民は燃料のほとんどを薪(まき)や木炭に依存しており、また樹木は木材としてお金になることから伐採が進み、この15年で森林面積は大幅に減少した。その一方、人口は40パーセントも増加しており、ますます森林伐採が加速。このままでは森が消滅し動物も住めなくなると危惧(ぐ)されている。

森を守るレンジャーを守りたい

森林保護区といえども違法伐採が進み、森は減少し続ける

このような状況から、ウガンダ政府は、国内506ヵ所に森林保護区を設け森林を守っている。しかし、財源も限られているため、車やオートバイでのパトロールができず、少人数の森林機構のスタッフが、毎日、広大な保護区を自転車や徒歩でパトロールせざるを得ないのが実情だ。これでは、残念ながら違法伐採者の取り締まりが追いつかない。

「今、この瞬間にもどこかで木が切られています」。いつも朗らかな田中さんの表情も曇りがちになる。違法伐採者たちは木を切るだけでなく、レンジャーやスタッフ、地域の協力者たちの家畜を殺したり、家を焼いたりすることも。このように関係者は嫌がらせや脅迫、さらには命の危険にさらされることもある。

レンジャーを守れなければ、森は守れない。「彼らを守るために何かできないだろうか」と考えた田中さんは、もっと多くの人にレンジャーの活動を知ってもらうため、誰から見てもレンジャーだと認識できるユニフォームを作るというアイデアを思いついた。ユニフォームを着ることで、レンジャーも自分の仕事に誇りを感じてくれるだろうとも考えた。しかし、すぐに問題にぶつかった。財政事情が厳しいウガンダ森林機構には、ユニフォームを作る予算などどこにもなかった。

レンジャーと一目でわかるユニフォームを

途方に暮れていた田中さんの目に止まったのが、日本のアウトドアメーカー、株式会社モンベルが実施している「チャレンジ支援プログラム」だった。プログラムでは『自然と関わりがあり、社会的貢献度の高いさまざまな取り組みについても応援する』と謳(うた)われていた。田中さんは、「ウガンダの森と自然とレンジャーを守りたい」というこれまでの思いを綴(つづ)り、祈る気持ちでモンベル社に申請書を送った。その結果、思いは通じ、2013年9月、同社から帽子、シャツ、レインジャケットなどの商品提供が得られることになった。

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モンベル社から提供された、ユニフォームを着用したレンジャーたち(左手前が田中さん)

ほどなくして、モンベル社から送られてきた帽子やシャツに、森林機構のロゴ(National Forest Authorityの頭文字:NFA)を入れ、レンジャーやスタッフ一人ひとりに田中さん自ら手渡した。ユニフォームを受け取ったレンジャーの一人アレックス・トゥイノムシゲさんは、そのときの気持ちを今でもはっきりと覚えている。「ユニフォームができてとてもうれしかった。それまでユニフォームがなかったために、取り締まりを妨害されたり、さまざまな危険がつきまとったりした。森を守るためにも、これを着てしっかりパトロールを続けたいと思った」

子ゾウのチャールズを育てる

チャールズに人工乳を与える高橋さん

チャールズの母親代わりの飼育員たち(左端が高橋さん)

一方、ウガンダ野生生物教育センター(通称エンテベ動物園)で、保護された子ゾウの世話に取り組んだのは、日本の動物園での15年間のゾウの飼育経験を持つ、青年海外協力隊員の高橋文彦さん(動物学、神奈川県出身)だ。JICAは現在、横浜市の協力を得て、草の根技術協力「ウガンダ野生生物保全事業」を展開している。高橋さんは、その一環で短期ボランティアとしてウガンダ唯一の動物園であるエンテベ動物園に派遣され、この3月に任期を終えて帰国した。

群で行動する野生のゾウは、一度でも群から離れてしまうと元に戻るのは難しく、また一頭では生きていけない。「チャールズは、お母さんゾウが象牙の密猟者に殺され、川でおぼれていたところを漁師に助けられたんです」

弱り切った雄の子ゾウ、チャールズが動物園にやってきたのは、2011年6月のこと。しかし、エンテベ動物園ではゾウを飼育した経験がなかった。そこで、同園は、横浜市の動物園に母親代わりとなる飼育員(キーパー)を派遣し、ゾウの飼育をはじめとする研修を受けさせた。帰国後は、高橋さんと共に日々実務をこなし飼育技術を学びながら、少しでもチャールズが落ち着ける環境をつくるべく取り組んだ。

「ウガンダの国立公園には野生のゾウがいますが、一般の人たちの多くは、生きたゾウの姿を見たことがありません。それだけに、この動物園でゾウと触れ合う機会を通して、野生生物保護の必要性を訴え、保護活動への理解を深めてもらうことが大事だと感じています」。密猟が後を絶たず、また農地開拓のため生息域が狭まり、ウガンダに限らず、ゾウの個体数は世界的に減少している。現在2歳7ヵ月になったチャールズは、将来の一般公開に向け、高橋さんが指導を行った飼育員たちと一緒に、トレーニングを積む日々が続いている。

次の世代へ思いをつなぐ

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スタッフの献身的な取り組みで、すっかり元気になったチャールズと触れ合うウガンダの子どもたち

子どもたちに環境教育を行う田中さん(右)とレンジャー

環境保全や野生生物保護は、人口増加の問題や文化的背景が複雑に絡み合っているため、すぐに解決することは難しい。しかし、ウガンダの人たちに自然の役割や生態系の大切さを知ってもらい、次の世代のために何ができるか考えてもらうことは可能だ。

田中さんは、小学校教諭としてウガンダに派遣されている他の協力隊員と協力し、森の大切さを訴える課題曲を歌う合唱コンクールを主催するなど、次の世代への取り組みも始めている。コンクールには、ウガンダ国内だけでなく、エチオピア、ヨルダン、日本などからの応募もあり手応えは十分だ。

環境保全は一人ではできない。しかし、ウガンダでは森の役割を理解する人たちは着実に増えている。「自分の目で途上国の環境問題を実際に確認したい」とウガンダに飛び込んだ田中さんは、今、多くの仲間を得て、森や自然を守る取り組みを広げている。そして、チャールズは、これからもっと多くのウガンダの人たちに愛され、自らの生き方を通して野生生物保護の大切さを伝えていくはずだ。