ペルーで多発する地震・津波の被害軽減に挑む

2014年5月21日

「地震の瞬間は立っていられず地面に座り込んだ。テレビで見た映像は信じられない映画のようなものだったが、それが現実に起きていた」。ペルー国立工科大学のカルロス・サバラ教授は、ワークショップに参加するために来日した際に、奇しくも東日本大震災に遭遇した。

地震・津波被害リスクを的確に予測し、被害を軽減

南米ペルーは、日本と同様に環太平洋地震帯に位置しており、地震や津波被害に見舞われやすく、また、エルニーニョ現象、ラニーニャ現象(注1)に伴う洪水や土砂崩れ、干ばつなどが頻発する災害多発国である。最近では2001年と2007年に、いずれもマグニチュード8以上の海溝型地震(注2)が発生し、大きな被害をもたらした。海溝型地震は周期的に発生するため、今後もペルーでは同様の地震や津波が発生することが確実といわれている。

CISMIDによる耐震実験(サンプル壁へ周期的な負荷をかけることにより発生するひびや損傷を分析)

JICAは、これまでペルーの災害対策分野に40年以上にわたり支援を行ってきた。地震・津波に関しては、1986年に日本・ペルー地震防災センター(CISMID)の設立を支援して以来、30年近く協力と交流を続けている。2010年3月には、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と連携して行う地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(注3)「ペルーにおける地震・津波減災技術の向上プロジェクト」をスタート。将来の地震・津波被害リスクを的確に予測し、被害を軽減するため、CISMIDがペルーの研究代表機関、千葉大学が日本の研究代表機関となり、ペルーと日本の多くの参加機関が五つのグループに分かれて、共同調査・研究を行っている。

その一つ、津波予測と被害軽減を担当するグループでは、過去の津波被害を基に津波シミュレーションを行い、ハザードマップを作成。行政関係者、研究者、一般市民を対象にCISMIDで開催した「地震メカニズム、津波伝播(でんぱ)・遡上(そじょう)シミュレーション」セミナーには、100人を超える参加者が集まった。

プロジェクト開始1年の節目に東日本大震災を経験

津波に流され、1階部分がむき出しとなった仙台市内の建物(2012年3月、サバラ教授ら撮影)

プロジェクトが始まってからちょうど1年がたった2011年3月11日、サバラ教授(当時日本・ペルー地震防災センター:CISMID所長)は、千葉大学で開催された「第2回日本‐ペルー地震・津波減災技術の向上に関する国際ワークショップ」に参加。独立行政法人港湾航空技術研究所(神奈川県横須賀市)の津波実験施設を見学した後に、同県鎌倉市で東日本大震災に遭遇した。大災害に驚いた一方で、これほどの大災害に遭遇しても、冷静で規律正しい日本人には改めて驚かされたという。

共同研究中に発生した東日本大震災は、ペルー側のプロジェクト関係者に大きな衝撃を与えた。同じ規模の災害がペルーで起きたらと真剣に考え、プロジェクトの重要性や使命感を新たに意識するきっかけにもなった。CISMIDのフランシスコ・リオス技師は、「大震災以前から日本では、より性能のよい建物を建設する目的で地震シミュレーターが開発されていた。これらのシミュレーターは最大マグニチュードが8という設定だったが、今回発生した地震のマグニチュードは9。今後ペルーの専門家もマグニチュードの設定を引き上げるなど、より注意深く対応を行っていくべきだ」と語った。

津波被害を受けた仙台市の学校を訪問したサバラ教授

それからさらに1年が経過した2012年3月、サバラ教授は、「第3回日本‐ペルー地震・津波減災技術の向上に関する国際ワークショップ」に参加するために再来日し、被災地の宮城県仙台市を訪れた。「3階まで浸水した学校、病院、打ち上げられた船などを見て、大きなショックを受けた。10メートルと予想されていた津波高は実際には15メートルあり、予想を超えたものだった。このことは、まだまだ技術の進歩が必要であることを教えてくれた。ペルーの技術はまだ日本の技術には及ばないがSATREPSプロジェクトで多くを学ぶことができている。中には日本にはなくペルーから日本へ伝えることができた技術もある。こういった技術の交流はペルーにとって非常に有益だ」と述べた。

午前10時のサイレンを合図に2,000人が訓練に参加

幼稚園児の避難訓練

2013年8月14日には首都リマに隣接するカヤオ市のラ・プンタ区で、プロジェクト参加機関や一般市民も含め2,000人以上が参加した津波避難訓練が実施された。この模様は、テレビをはじめ現地のメディアにも大きく取り上げられた。

ラ・プンタ区のピオ・サラサール区長は、「津波が発生した場合の垂直方向の避難(注4)時間は通常15〜20分と想定されているが、今回は12分で避難できたという点で避難訓練は成功だった」と評価。さらに「現在はきちんとした避難路がなく、垂直方向にしか避難ができないので、この先1年半程度で市街地から高台まで車で5分程度で移動できる道路を完成させ、新たな避難手段とする予定だ」と今後の取り組みについても語った。訓練に参加した住民の一人は「いざというときにどう行動すべきかがわかり、避難訓練は素晴らしかった。日々の生活に流されることはあるが、私たちラ・プンタ住民は、自分たちが住んでいる場所で、いつか災害が発生する可能性があることを自覚している」と述べた。

東北大学災害科学国際研究所の越村俊一専門家は、「SATREPSプロジェクトの中でCISMIDなどと協力して津波のリスクマップを作成してきた。調査では、マグニチュード8、9クラスの地震の場合、地震発生後20分以降に高さ8メートルの津波がラ・プンタ区に到達するという結果が出ている。この調査結果を全員で共有することと、避難計画に反映させることが重要だ」と述べている。

【画像】

1.住民に訓練を周知するために作成したポスター 2.街中での告知の様子 3.「ここに避難してください」とバナーが掲げられた建物 4. ラ・プンタ区の高所避難場所として20ヵ所のビルが指定された

正確な津波予測に貢献

2014年4月1日、隣国チリの北部でマグニチュード8.2の地震が発生した。この地震によって発生した津波は日本にも到達し、北海道から関東の沿岸、伊豆諸島、小笠原諸島などにも津波注意報が出た。

SATREPSプロジェクトの津波チームは、地震発生直後に津波解析(注5)を行い、津波の高さや到達時間の予測を行った。カヤオ港には15センチメートルの津波が到達すると予測し、実際に20センチ以下の津波が到達したのをはじめ、津波解析結果は実際の津波の高さと到達時間にほぼ一致し、プロジェクトが津波予測に貢献することが証明された結果となった。

津波の伝播シミュレーション画像(動画あり、英文、外部リンク)

【画像】

避難訓練に参加した日本・ペルー両国のSATREPSプロジェクト関係者

この地震が発生する前日の3月31日には、ペルー政府との間で「災害復旧スタンドバイ借款」の円借款契約が調印されている。この借款は、万一の災害に備え迅速に災害復旧が行えるよう、災害時に必要となる資金をあらかじめ準備しておくためのもの。フィリピンに次ぎ、中南米で初めての供与となった。

2014年が最終年度となるSATREPSプロジェクトでは、建物の耐震性向上、地域減災計画などのグループも活動を行っており、今後、ペルー各地でプロジェクトの成果を普及するセミナーを予定している。

ペルーからチリにかけて地震が活発化していると指摘する研究者もいる。JICAは、地震・津波の被害を軽減するために、2月25日に調印された無償資金協力「広域防災システム整備計画」により、津波観測のための潮位計を8ヵ所増設するとともに、防災拠点8ヵ所に緊急警報放送システムを構築し、津波観測と情報伝達能力を改善する予定だ。JICAは今後もSATREPSプロジェクト、無償資金協力や円借款などで、ペルーの災害対策を総合的に支援していく。



(注1)ペルー沿岸部から日付変更線にかけて太平洋赤道域の海面温度が平年より高くなるのがエルニーニョ現象、一方、海面水温が低くなり、その状態が1年程度続く現象がラニーニャ現象。不定期に繰り返し起こり、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。
(注2)大陸側のプレートの下に潜り込もうとする海側のプレートに引きずられた大陸側プレートが跳ね返って発生する地震。関東大震災、スマトラ沖地震などもこれに分類される。東日本大震災も典型的な海溝型地震。
(注3)日本の科学技術を活用して環境、災害、食料問題などの地球規模の課題解決のために開発途上国の関係機関と共同研究を行うプログラム。
(注4)内陸への避難は距離があるため、難しい場合はビルなどの高い建物に垂直方向に避難すること。
(注5)津波解析は、ブルーノ・アドリアーノ(博士課程)、エリック・マス助教授、越村俊一専門家によるもの。