「世界の縫製工場」で働く人々を守れ!(バングラデシュ)

2014年5月23日

2013年4月24日朝、9階建てのビル「ラナ・プラザ」が突然崩れ落ちた。入居していた複数の縫製工場の労働者ら多数が命を落としたこの事故は、バングラデシュのみならず、世界中に衝撃を与えた。製造の多くを途上国に頼る縫製業界では、事故を教訓に、既存の建築物の安全性を見直す機運が高まっている。

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倒壊事故で1,100人以上が亡くなったラナ・プラザ跡地

技術協力と円借款を組み合わせ、即効性ある事業に

世界第2位の縫製品生産国であるバングラデシュ。輸出額の約8割を縫製品が占め、全国で250〜300万人の女性を含む400万人が縫製業に従事している。主要産業を支える労働者の安全を守り、労働環境を改善することは、これからの縫製業セクターにとって緊急の課題だ。

JICAでも、この課題にいち早く取り組むため、実施中の技術協力プロジェクト「自然災害に対応した公共建築物の建設・改修能力向上プロジェクト」と、供与済みの円借款「中小企業振興金融セクター事業」を組み合わせ、縫製事業者向けの耐震診断と改修工事のための長期低金利融資プログラムを立ち上げた。今回起きた事故は自然災害が原因ではないが、建物に耐震対策を講じることは安全性の向上にもつながる。

2013年10月には、JICA、住宅公共事業省、バングラデシュ中央銀行、国内の約5,000社が加盟するバングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)、バングラデシュニット製品製造業・輸出業協会(BKMEA)の5者が覚書に調印し、「縫製産業の労働環境改善支援プログラム」がスタート。工場の安全性を高めるため、耐震補強工事や建て替えを希望する縫製業事業者から、BGMEAとBKMEAが対象となる事業者を選定し、住宅公共事業省公共事業局が、JICA専門家の支援を受けながら技術者を派遣し耐震診断を実施。建て替えるべきか、耐震補強工事をすべきかについて提言を行う。提言を受けた縫製事業者は、指定された46の市中銀行を通じて、低金利の建て替え資金を借り入れることができる。

課題は山積み

今回、素早く大事故に対応した融資プログラムを立ち上げることができた背景には、JICAが2011年から続けている公共建築物の地震対策に関するプロジェクトの存在がある。低金利ローンの前提となる耐震診断ができるのは、プロジェクトの関係機関である公共事業局を中心にごく限られた技術者しかいないのだ。

公共事業局のマレック副局長(左)と、マフィズール・ラーマン課長

サイクロンや洪水などが頻繁に発生するバングラデシュでは、地震災害のリスクも高いといわれている。しかし、19世紀末以来、大きな地震が発生していないため、耐震建築物はほとんどなく、マグニチュード6.57の地震が起こると、既存の建物の7割が倒壊するという調査結果もあるほどだ。そこでJICAは、2011年に同局をパートナーとする「自然災害に対応した公共建築物の建設・改修能力向上プロジェクト」を開始。「日本は、地震対策の分野で世界でもトップレベルの技術と経験がある。ぜひその力を借りたいと、このプロジェクトを提案しました」と、プロジェクトディレクターを務める公共事業局のアブドゥル・マレック・シクダール副局長は振り返る。

しかし、課題は山積みだった。公共事業局の管理下にある5,000棟以上の建物について、設計の詳細を示す資料はほとんど残っておらず、現状把握のため、まずはデータベースの作成から始めなくてはならなかった。また、バングラデシュの建築基準法は1993年に制定されているが、耐震対策についての定めはない。さらに、建築士は国家資格ではなく、建築認可など品質管理を確保する仕組みや記録も徹底されていない。これに加えて、地震対策の技術者も圧倒的に不足。被災経験が少ないこともあり、そうした技術を学ぶ機会も少なかった。そこでプロジェクトでは、バングラデシュ国内での研修とともに、公共事業局の職員や技術者を日本へ派遣し、耐震技術について学ぶ機会を作った。

耐震対策への関心の高まり

マレック副局長も2012年に日本での研修に参加した一人だ。「耐震構造の考え方、実際の適用例、実験の方法などを学んだ。これらはバングラデシュにも必要な技術であり、ぜひ習得して実施したいと思った」と述べる。ただ、マレック副局長は、「日本との大きな違いの一つは、国民の意識の問題」とも言う。「地震に対する備えが必要だということをもっと啓発していかなければ、地震対策への理解も広がらない。技術の習得と同時に今後の大きな課題だ」と指摘した。

公共事業局に展示されている「耐震補強工事」モデル

現在、公共事業局では屋外に、実際の耐震補強工事を施したモデルを展示しているが、公共事業局管理下の建築物から始まり、学校、病院など公共性の高い建物、さらに民間の建物や住宅へと浸透するまでには、まだ時間がかかる見込みだ。

そんな中で起こってしまったラナ・プラザの事故は、建物の安全性を確保することの大切さを国民に知らしめてくれた、とマレック副局長は考える。「今回の複合プログラムを通して、耐震診断や耐震改修の技術を発揮できることは私たちにとって貴重な機会。国の主要産業である縫製業セクターの深刻な危機を救うために、貢献できることもうれしく思っている」と語った。

安全性向上に向けさらなる支援策も

「縫製産業の労働環境改善支援プログラム」では、当面、250社程度をパイロットケースとして選定する予定だ。BGMEAによると、プログラムには、すでに多くの企業が関心を持っているという。BGMEAのシャヒドゥーラ・アジム副会長は、「支援対象となる工場を選ぶに当たっては、関係者による選定チームを作り透明性の高い選定をしたい。ラナ・プラザの事故は私たちにとっても、輸出先である顧客にとっても大きなターニングポイントになった。安全性向上に向けて努力したい」と語る。

バングラデシュ中央銀行のアシュラフル・アラム副局長は、事故は労働者自身を含め多くの関係者の意識を変えたと指摘する。「経営者の安全に対する意識も大きく変わった。この悲劇を教訓として生かせるよう、さらに幅広く支援ができるファイナンスを考えるのが私たちの責務だと思っている。ただ、バングラデシュの縫製業は99パーセントが中小企業で、工場の多くはレンタルのため、今回の支援対象は限られてしまうが、事業の実践を通して、工場の安全対策のためにどのような財政支援が可能か考えていきたい」と言う。

バングラデシュの主要産業を支える労働者の安全を守るべく、JICAは引き続き支援を続けていく。